軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ただの臆病者さ

シュシュは戻って来なかった。

ずっと閉じられている扉の傍に居て待っていたけれど……何日待っても戻って来なかった。

こんな風に友達を失うのは初めてだ。似た経験ならあるけれど。

「アイル……」

呟いて込み上がって来る感情を飲み込んで我慢する。

ボクは泣かない。泣く資格なんて無い。

お父さんの大切な家族を奪ったのはボクだ。

最後に見たのは、首から血を流すお父さんとその背後に居たのはレティーシャさんたちだ。

ひと目で彼女たちが死んでいると分かった。でもお父さんは生きていた。生きて居たから力の続く限り傷口を舐めた。

出血が多かったから助かるかは半々ぐらい。

もしかしたらボクは最も大切な人を殺したかもしれない。

胸がギュッと締まり苦しくなる。

異国の移民の子として皆がボクに優しくしてくれた。

きっと奴隷だと知っている人も居たかもしれない。

シュシュはボクが奴隷だと知っていた。ボクが彼女に打ち明けたから。

でもシュシュはいつもの笑顔で『あの~先生は~凄く~良い~買い物を~したんだね~』と言ってくれた。

いつも笑顔で笑っていてフワフワしていて優しかった。

でもここで出会ったシュシュは変わり果てていた。

笑みが消えた顔は暗く頬もこけていた。ひと目で睡眠不足と栄養不足が見て取れた。

あの頃のフワフワも無くなり、疲れた様子で足を引きずるように歩いていた。

人を殺したのだと分かった。シュシュも大切な人を殺したのだと分かった。

ボクも人を殺した。お父さんの大切な家族を殺した。だから処刑されたはずなのに……まだ生きている。

別に嫌なら死ねば良いと分かっている。

分かっているのにそれが出来ない。

レティーシャさんたちは必死に人の命を救おうとしていた。

お父さんなんて不可能に挑んでボロボロになってでもそれに挑み続けた。

人を救おうと必死に生きた人たちを見て来たボクが、簡単に死ぬことはあの人たちに対しての冒涜だ。

それに気づいたのは処刑が終わって移動されている馬車の中だったけれど。

だから今は生きる。

生きて人を救う。

それしか出来ないけれど、ボクは名医と言われたお父さんの娘なんだから。

クシャッと頭に手が置かれて髪を掻き混ぜるように撫でられた。

視線を向けたらカミューが居た。

何処か世話焼きな面のあるアイルに似た不幸を背負い込むのが好きな人に見える。

「諦めろ」

「うん」

きっともうシュシュは戻って来ないと言いたいのだと気付いた。

ボクだってそう思っていたけれど認めたくなかった。

認めたくなかったのに……カミューがその切っ掛けをくれた。

諦めてその場を離れていつもの木陰に行く。

ボクの趣味が昼寝と思われているようだけどちょっと違う。

ボクは寝るのが怖い。寝てて体中の痛みを思い出すと入れ墨を掻き毟ろうとする。

前なら治療できたけど今は難しい。

だから少し寝て起きてを繰り返す。眠れなくても目を閉じて体を休めれば体力は回復するから。

でも今日は先客が居た。青い髪のホリーだ。

美人で身長は低いけど胸は大きい。ボクもそれなりに大きいけどホリーの大きさは無い。

ただまだ大きくなってる気がするからこれからは分からないけど。

「どうして迷わず横になるの?」

「寝るから?」

「……案外図太いのね」

何故かホリーが呆れた。

ボクはここに眠りに来たのだから間違って無いはずだ。

ただ一緒に来たカミューの気配が尋常じゃない。

黙ってれば良い人なんだけど、どこか基本攻撃的だ。

「何よカミュー? まだ何もしてないわ」

「なら何かする気なのか?」

バキバキと拳を鳴らすカミューが怖い。

でもホリーは一歩も引かずに彼女を見た。

「ここの外周を覆う壁って少し変じゃない?」

「壁が?」

「ええ」

ホリーは高くそびえる壁を指さした。

「あっちとこっちの壁は高さが一緒だけど厚みが違うのよ」

「それがどうした?」

「それと外周の壁はどう見ても円形を描いている」

地面に指を走らせホリーが簡単な図を描いた。それは二重丸の形をした物だ。

「たぶん中央に監視の者たちが居る」

「こっちの外周に私たちが居ると?」

「そう考えるとあの薄い壁の存在に説明が付くのよ」

言ってホリーは立ち上がる。ボクの方に目を向けて。

「ここから連れ出されたと言っても死んだとは限らない。イジメられているのかもしれないと判断されて別の場所に回された可能性だってあるってことよ。あの壁の向こう側とかにね」

「……ならシュシュは?」

「あくまで可能性よ」

『フンッ』と怒った様子で鼻を鳴らして彼女はそのまま歩いて行く。

座り直したボクは、その顔を立ったままでいるカミューに向けた。

「シュシュは生きてるの?」

「可能性はあるらしいな」

何故かカミューも怒った様子で鼻を鳴らした。

ボクとしては友達が生きて居るかもしれないと知れて嬉しいのに、どうしてこの2人は怒っているのだろう?

「確認する方法はあるかな?」

「手紙を書いて根性であの壁を越える遠投が出来ればな」

「……無理かな」

ボクの運動神経はアイルが言うには『私にも負けないほどに酷い』と言ってた。

「カミューなら?」

「出来るかもしれないがあまり目立つことはするな」

カミューの手がボクの頭に伸びて来て撫でてくれる。

「ここに集められてもう半年か。飼い殺しにしているだけで何もして来ない」

チラリと視線を動かしカミューは遠くを見る。

ボクも頭を動かそうとしてけれど彼女の手がそれを制した。

「どうも嫌な予感ばかりして面白くはない」

「難しいね」

難しいことは僕の専門外だ。

だからゴロンと横になって寝ることにする。

「カミュー」

「何だ?」

「カミューは優しいね。ボクの恩人によく似てるよ」

「そうかい」

苦笑して彼女はこちらに背を向けた。

「私は優しくなんて無いよ。ただの臆病者さ」

何故か彼女背中が泣いているように見えた。

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