軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから手を貸せ

「いてっ」

放り込まれた存在を見てカミューは息を吐いた。

どうやらあのホリーとか言う女の言葉が正しいらしい。

『いたたっ』と呻きながら頭を押さえているのは、見たことの無い女性だ。

青髪と緑の瞳が特徴の何処か少年らしく見える。

「ミャンっ!」

「あれ? リグだ」

「ミャン~!」

横で寝ていたリグが起き出し、やって来た女性の元に走って行く。

パンパンと服の土を払って立ち上がったミャンと呼ばれた女性も大きく腕を広げ、リグを迎え入れようとした。

だがリグが止まった。全力で止まった。

止まってクルッとその場で反転し逃げようとしてミャンに掴まった。

「うふふ。リグったらしばらく見ない間にこんなに育って」

「うなぁ~!」

「うわっ……すごっ……」

「ふなぁ~!」

公開で痴態を披露することとなったリグの様子に、心底深いため息を吐いてカミューは立ち上がった。

別に周りの目が無ければ好きにして貰っても良い。だがここには自暴自棄になりやすい男性も少なからずにいる。

自暴自棄になって男性を誘う女性であればカミューとて特に何もしない。自己責任でどうぞだ。

でも異国の血を引いているリグは褐色の肌をしている。

ユニバンスでは余り居ない珍しい存在だ。それが小柄で愛くるしい表情を持ち胸が大きいなど……飢えた狼の前に餌を置くような物だ。

『へっへっへっ』と笑いながらリグの全身を隈なく触る彼女に拳骨を落とし、カミューはリグの首根っこを掴んで回収はした。

「ここで余り遊ぶな。殺すぞ」

「……へ~。アンタがここの親分?」

「その気は無いが、気に食わない奴は殴り飛ばしてる」

「はぁ~。こんなのされると喧嘩の強い人の天下だよね」

自身の首に巻かれている首輪に触れ、やだやだと首を振ってミャンと呼ばれた女性がその場にペタンと座って。

「で、わたしは何すれば良いの?」

「何とは?」

「前に居た所は、問題を起こすと掃除とか洗濯とか食事係とかね」

「……」

『それは良いな』と内心でカミューは思ったが、まあ食事などは出来る人にやらせないと問題が起こる。

だったら今は有効活用するべきだろう。

「なら一緒に来な」

「はいはい」

立ち上がりパンパンと尻を叩いてミャンが、カミューに目を向ける。

「で、ここの親分さんの名前は?」

「親分じゃ無いがカミューだ」

「カミュー?」

ミャンは首を傾げて自身の知識をほじくり返す。

名乗った相手も首に首輪をしている。つまり魔法使いのはずだ。

「そんな名前の魔法使いは学院には居なかったよね?」

「ああ。私は学院に居た魔法使いじゃない」

「なら前線?」

歩き出したカミューの後ろをついては来るが、黙る気配のない相手に胡乱気な目を向ける。

「お前は何でも知りたいのか?」

「違うよ。興味を覚えた子のことは知りたくなる感じ」

薄い胸を張って威張る彼女にカミューは数度頷いた。

「その手の趣味は無い。他を当たってくれ」

「え~」

心底残念そうな声を出す相手に、彼女がここに放り込まれた理由が分かった気がした。

「私は1人が良いんだけど?」

「気にするな。殺人鬼」

壁に寄りかかりぼんやりしていたホリーは、自分に向かい歩いて来る3人を見て心底嫌そうな表情を浮かべる。

別に前回のことは肩の治療の恩返しであって確証の無い推測だ。それなのに仲間のように厄介事を持って来られるのは大変に迷惑なのだ。

「お前の仮説の証人が来た」

「その新入り? ……何か目が危ないんだけど薬物中毒か何か?」

ギンギンに目を血走らせているミャンの様子に、ホリーは自身の身の危険を感じて両腕で胸を隠す。そんな怯える様子が増々ミャンの何かを焚きつけて……ワキワキと両指を動かし鼻息荒い変態をカミューは殴って黙らせた。

「シュシュの替わりにこれが来た」

「って、シュシュ!」

殴られ地面に伏したミャンが飛び起きる。

カミューはまた拳を握るが、その手をリグが両手で包んだ。

「シュシュが居るの? ねえ? どうなのリグ!」

「……居たんだけど連れて行かれた」

「……そうか」

ガクッと膝から崩れてミャンはそのまま座り込む。

余程の様子にカミューは視線を拳を押さえたままのリグへと向けた。

「ミャンとシュシュは幼馴染。学院でもいつも一緒に居た」

「恋人だったのか?」

「違うってシュシュは言ってた」

やはり変態だと、ミャンに対して冷ややかな視線を向けるホリーの反応は正しいのだろう。

ただ自分も王妃に猫可愛がりされている様子を傍から見たら、結構あれだったのかもしれないと……今更気づいたカミューとしては、ミャンのことを頭っから悪く言うのは罪悪感が少し芽生える。

「とりあえず少しばかり違った情報が手に入ったわけだ」

「手に入れてどうするのよ?」

ミャンを慰めるように駆け寄ったリグが、彼女を抱きしめて居る。

グイグイとリグの胸に顔を押し付けているように見えるのはこの際だから黙認し、カミューはまずホリーとの話に集中することにした。

「何も知らずに飼い馴らされていれば楽なんだろうけど……ホリー。お前にその気は無いんだろう?」

「どうして?」

「今だってこんな場所で壁を破れないか観察し考えているって感じだ」

「……」

スッとその目を細めたホリーはやはり普通の魔法使いでは無い。

それが分かるだけに自分も同類なのだと理解し、カミューは言葉を続ける。

「私は元々暗殺者だ。その手の家業の者は、確実に逃げ出せる通路の1つも確保しておきたい」

「職業病?」

「好きに呼べ」

事実職業病だ。

ただ王妃の屋敷には人外のメイド長が居たから、どんなに抜け道を作って綺麗に片付けられてしまう。一度『王妃様を連れて逃げる道は無いのですか?』と尋ねたら『王家の者が国民より先に逃げることは出来ないのですよ』とだけ言われた。

疎開は良くても逃走はダメなのだ。

思考が脱線したことに気づいてカミューは軽く頭を振った。

「何があるか分からないから、退路の1つも欲しいだろう? だから手を貸せ」

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