軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

だから私が殺したのよ

どれほど泣いても涙は枯れない。

たぶん生き意地が汚いわたしが朝夕と食べているからだ。

それだって何度も吐いてしまうのに……生きようとして食べ物を口にする。

わたしが"あの日"、故郷の街でどれほどの人を殺したのかちゃんと知っていてだ。

その中にはわたしの家族だって居た。親友の家族も居た。

狂ったわたしが魔法を振るいそれを知った家族が止めるように説得した。彼女の家族も一緒になって。

でもわたしは笑って全員を殺した。両手を振るいいつものように踊るようにしながら殺したという。

また込み上がって来た物を吐き出して軽く咽る。

もう辛い。辛い。辛い。辛い。辛い……

死刑は免れないと思って全てを認めて処刑台に昇ったのに、わたしはこんな場所で生きて居る。

きっと『簡単に死なせはしない』とわたしの両親や彼女の両親が呪ったのだろう。呪いだと思えば納得だ。

どれほど恨まれても仕方のないことをしたのだから、わたしは命を奪い取ったのだから。

蹲り動くことを止めていたわたしの元に彼が来た。『監視』だ。

彼はわたしの腕を掴むと無理やり引き摺り歩き出す。

抵抗なんてしない。このまま殺されたって良い。

壁際の扉に来るとひと際大きな声が聞こえた。

珍しい……リグが大きな声を上げていた。

でもこっちに駆け寄っては来ない。

厳しくて怖いけれど、たぶんこの場所で一番自分を保っている人が傍に居てリグを抑えてくれていたから。

わたしなんて居なくてもリグなら大丈夫だ。

開いた扉を潜ってわたしは壁の中へと入った。

ギィッと低く響いて鉄の扉が閉じた。わたしはそれをただ眺めていた。

連れて来られたのは狭い部屋だった。

鉄格子の嵌った窓が1つ。後は木製のベッドと机が1つの殺風景な部屋だ。

わたしは床に腰を下ろして、そのまま寝そべった。

弄ばれて殺されるのは嫌だったけれど……でも仕方ない。わたしが全部悪いのだから。

扉が開いて誰かが入って来た。その人はわたしの前に来ると足を止めた。

「しばらく見なかったら元気が無くなったわね。シュシュ」

「?」

聞き覚えのある声は、相変わらずの物言いだった。

顔を動かし視線を向けると、赤い髪が綺麗だった。何も変わらずに美貌の魔女がそこに居た。

「アイルローゼ?」

「そうよ」

苦笑して彼女はわたしの脇に手を入れると無理やりに体を起こす。

床に座る格好のままだが、アイルローゼはわたしの横に座った。

「辛い目に遭ったみたいね」

「うん」

辛い目……そう言って良いのかわたしには分からない。

辛い目に遭ったのはきっと街に居た人たちだ。そして辛い目に遭わせたのはわたしなのだ。

「アイルローゼは何をしてたの?」

「変わらずよ」

聞けば彼女は学院を去ってからも変わらず魔道具を作っていたらしい。

そしてあの日を迎え……人を殺し過ぎてその存在を隠せなくなり処刑台に昇った。

「そしてここよ」

「そうなんだ」

「で、変わらずに魔道具を作らされているわ」

「貴女は術式の魔女だものね」

『同世代の天才児』

わたしのことをそう呼ぶ人も居たけれど、アイルローゼには絶対勝てない。

本当の意味で天才はアイルローゼのことを言うのだと思う。わたしは封印魔法しか使えない魔法使いだ。

「それでシュシュは今にも死にそうな顔をして何をしているの?」

「……死にたいのかな」

「そうなんだ。だったら毒薬でも手配しましょうか?」

サラリと言って来る魔女に軽く息を吐いた。

やはり魔女もわたしなんて生きる価値が無いと認めているのだ。だったら早くに死んで、

「それで死んだら、私が殺したミローテに謝ってくれるかしら?」

「……えっ?」

ゆっくりと顔を向けたらアイルローゼは無表情でただ前を見ていた。

「だから私が殺したのよ」

「……ミローテを?」

「ええ」

そんなはずは無い。アイルローゼは何だかんだ言っても弟子たちを大切にしていた。それこそ姉のように振る舞い弟子と言う妹たちを愛していた。

愛して……。

「私が殺したわ。彼女に私が作った禁忌の魔法を使ってドロドロに溶かした。隠れ家の周りに居た騎士たちも溶かして殺したし、私を制圧しに来た王国軍の兵も殺したわ」

「……」

ガクガクと震えが止まらない。わたしの震えが止まらない。

アイルローゼも人を殺していた。最強の魔女が狂って人を殺していた。

「最後は第二王子の部隊が来たわ」

「第二王子?」

「そうよ。フレアが居たわ」

苦笑してアイルローゼは言葉を続ける。

「流石に私の弟子よね。あんな方法で私の魔法を対処して来るとは思わなかったけれど……けれど全力で殺そうとしたわ」

「フレアも?」

「ええ」

軽い。本当に軽い口調で彼女はそう言った。

あれほど大切にしていた弟子たちの命をっ!

「アイルローゼっ!」

気づいたらわたしは彼女を跨いでその襟首を掴んでいた。締め上げていた。

でも魔女は抵抗せずにわたしを静かに見つめていた。

「貴女がミローテや私が殺した者の代わりに私を殺してくれるのかしら?」

「……」

出来る訳が無い。私だって人殺しだ。

アイルローゼと変わらない人殺しなのだ。

「どうして……」

涙と一緒にその言葉が溢れるように出ていた。言いようの無い苦い感情と一緒に。

そっと伸びて来たアイルローゼの手がわたしの頭に触れると引き寄せられた。

「今は生きなさい。シュシュ」

抱き寄せられて耳元で彼女の声が聞こえた。

「どんなに辛くても今は生きなさい」

「生きることに何の意味が……?」

わたしは罪人だ。殺人鬼だ。そんなわたしが生きた所で何の意味がある?

「意味なんて死ぬ時に見つければ良いのよ」

鼻で笑ってアイルローゼはそう告げる。

「今がどんなに酷くても、もしかしたら胸を張って死ぬる時が来るかもしれない。そう思わないと生きて居られないわ」

「……そうだね」

良し良しとアイルローゼがしばらくわたしの頭を撫でてくれた。

扉が開き見知らぬ男性に連れられてわたしは別の扉から外に出た。

そこはリグたちの居ない別の場所だった。

「手間をかけた」

「良いわよ」

監視の男性に声をかけられアイルローゼは無表情になる。

本当に嫌な仕事だった。

「これ以上死なれると上が煩くてな」

「良いわよ。別に」

「そうか」

軽く笑い監視の男が歩いて行く。その背を見つめてアイルローゼは心に誓った。

自分たちを物のように扱う者たちに復讐すると。

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