軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 リグ ①

ボクの記憶の中には家族と言うものが無い。

母親は知らない。父親は……とにかく怖い人だった。

いつも目を血走らせて研究をしていた。

今にして思えば滅ぶ手前だった国を維持する為に無理難題を言われていたのだろう。

魔法1つで全てを引っ繰り返すなんて……アイルほどの天才じゃないと無理だ。それなのに天才では無い父親は、研究し続けて自分の内の何かを壊して行った。

気づけば父親は新しい魔法では無く、自分の一族が作り研究して来た魔法に傾倒しだした。

不可能と呼ばれている治癒魔法だ。

完成と呼ぶには程遠かった魔法だけれど、ある一定の成果は得られた。

得られて父親は満足して……その魔法を秘匿することを考えた。

ボクの体に入れ墨を彫り魔法の式を刻み込んだ。普通のインクで体に刻めば強度不足でボクの体は焼け爛れるはずだった。それが現れなかったのは入れ墨に使ったインクが特別だったから。

研究したアイルですら復元するのに数ヶ月も要したと言う。

そのお蔭でボクは治癒魔法を得た。得て……全てを失った。

国は滅び、父親は研究所に火を放って死んだという。

父親の最後をボクに教えてくれたのは、同じ研究所で働いていた女性だった。

彼女は全身に入れ墨を入れて病気になって苦しんでいるボクの面倒を見てくれた。一緒に奴隷となり売られて行く日までずっと傍に居てくれた。

奴隷商に売られボクはあっちこっちを転々と移動し続けた。

異国の子。それも褐色の肌と入れ墨が災いして売れない。

無駄飯ぐらいの売れ残りに対する扱いは酷かった。叩かれる殴られる蹴られるなんていつものことだ。

それでも生きるために必死に商人たちの会話を聞いて言葉を覚えた。

言葉を覚えれば通訳として使われ、怪我を受ける回数は減った。

代わりに同じ国の出身である奴隷たちから恨みを買った。

商人に擦り寄る卑しい子供として……全員から無視された。

どん底だった。絶望しかなかった。もう死にたかった。

大陸の東南にあるユニバンス王国では奴隷商は非公認だった。

だから商人だけが使う非合法な道を使い王都に入り……商人たちはここで売り切ってまた別の所で商品を補充する計画を立てていた。

つまりここで売れ残れば待っているのは娼館の類だ。

ボクには入れ墨があるから普通の客商売は出来ないと、周りの奴隷たちから毎日言われ続けた。

分かっていた。ボクに不満をぶつけることで、みんな不安から逃れようとしていたのだから。

「ふむ。入れ墨か?」

「そうなんですよ旦那」

いつものように客引きが連れて来たお客さんがボクの前に立った。

お客さんは何処か気難しそうな感じで顎に手をやりこちらを見ている。

「中央付近の出だと言ったな?」

「そうなんですよ。あっちは帝国が猛威を振るってるでしょ? だからこうしてこちらでは珍しい褐色の娘がこうしてね」

「だが入れ墨か」

まただ。欲しくも無いのに押し付けられた 入れ墨(これ) でボクには嫌なことばかり訪れる。

剥せるなら剥したい。自然と爪で皮膚を掻いて入れ墨を剥そうとする。でも剥がれない。

と、お客さんの手がボクの手を掴んだ。

「こんな汚い場所で掻くな。傷が荒れて傷跡が残ったらどうする?」

「……」

不器用な笑みを見せて彼が笑う。

「この子を買おう。売れ残っているなら高くあるまい?」

「ええ。そこはちゃんと勉強させて貰います」

売れないはずのボクが売れた。

買ってくれた人は僕の手を握り風呂屋へ連れて行くと、店の人に頼んで頭の上から爪先まで洗わせた。

着替えも準備してくれて、少し大きかったけれど真新しい服が嬉しかった。

「どうして?」

「ん? 何がだ?」

「どうしてボクを買ったの?」

『住まいは別の場所』とだけ言って歩く彼の後ろをついてて不安になった。

このまま殺されたって今のボクなら文句は言えない。あそこに居ても変わらない生活が待っていたのだから。

「ふむ。理由か」

顎に手をやり彼は数度頷いた。

「その入れ墨は魔法の式であろう?」

「……」

見抜かれた。今まで何人か魔法使いが僕の刺青を見たのに気付かなかった。

巧妙に隠された魔法の式は、見た限り模様にしか見えないから。

「それ程手の込んだ式だ。きっと異国の秘匿系の魔法かもしれん。それを解読し使うことが出来れば、王国から褒賞金が出て私の研究資金が増える。それだけのことだ」

『それだけのこと』

胸がズキッと痛んだ。

やっぱりボクには価値が無い。価値があったのは大嫌いな入れ墨の方だ。

「それに私は研究が忙しくて結婚などしている暇もない。聞くにお前は商人たちの会話を聞いて言葉を覚えたとか? ならば教えれば掃除や食事と言った家事も出来るだろう?」

「……出来ると思う」

「十分だ。私はそっちが壊滅的にダメだからな……確りと家のことをしてくれ」

また不器用に笑い彼はボクの手を掴んだ。

「私のことは父親とでも思い慕うが良い。難しいなら師と思え。うむ。私もようやく弟子を得たか」

「……」

『父親?』

その存在はボクにとっては苦しみの象徴だった。

ボクの体をこんな風にした化け物のような存在。大っ嫌いな存在。

でも目の前の人はそんな存在になると言っている。

どうして……? ボクは貴方の娘じゃないのに?

「さあ帰るぞ弟子よ」

手を引かれ慌てて駆けだす。

グイグイと手を引く彼は一方的だ。

「おお。名を聞いて無かったな。名は何と言う?」

「……リグ。リグ・イーツン・フーラー」

「長いな。今日よりリグと名乗れ」

アハハと笑う彼の言葉に何故か表情が緩む。

この人はたぶん不器用な人なんだ。でも優しい人なんだ。

「あなたは?」

「うむ。我が名はキルイーツ。不可能と言われている治癒魔法を作りだす大魔法使いだ」

カラカラと笑う彼はどうやら不可能に挑んでいるらしい。

「良かった」

「何がだ?」

「……ボクの刺青は治癒魔法」

ピタッと足を止めて彼がボクの方に物凄い勢いで振り返った。

「それは事実かリグよ?」

「うん」

「そうか。そうかっ!」

「ふえっ?」

脇に手を回されて思いっきり抱き上げられた。

彼はボクを抱えてクルクルと回り出すと満面の笑みを見せる。

「我が弟子は素晴らしい魔法を持つ子であったか。師として嬉しい限りだ」

「……」

その時ボクは笑えていたのか分からない。

笑わなきゃと思ったけれど……涙が溢れるのを我慢出来なかった。

こうしてボクは彼の娘になった。

入れ墨のお陰で魔女と出会い、学院では楽しく暮らせた。

とても楽しかった。とても。

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