軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 シュシュ

「あ~う~」

「どうしたんだい?」

「家に~帰るのが~憂鬱~なんだ~よ~」

「あはは。年頃の娘はそう思うよな」

ガタゴトと揺れる馬車の御者席で、シュシュは風に揺れる穂のように体を揺らす。

自分の故郷には定期的な駅馬車の類が無い。だから街の商店で声をかけて、仕入れの商人の荷馬車に便乗するのだ。

女の1人旅ではここで代金を決して安くしてはいけない。だが高過ぎるのも良くない。

安ければ足らない分を"肉体労働"で求められるし、高過ぎると違う商売の材料として強面の人たちに引き渡される。

平均か平均より少し上ぐらいが丁度良い。

だがシュシュは平均的な値で済ませた。

最初から自分の正体を隠さずに『魔法学院から実家に帰る所です』と告げたのだ。

魔法使いはそれだけでも一般の人から見れば脅威となる。

そんな化け物が集うと呼ばれる学院生は恐怖の対象だ。

最初警戒していた商人であったが、シュシュのニヘラ~とした気の抜けた様子に緊張を解いていた。

「でもね~。勝手に~結婚の~相手をさ~決めないで~欲しいん~だよね~」

「それは仕方ないさ。親なんてもんは娘にはさっさと嫁いで貰いたいんだ。売れ残ったりでもしたら妹なんかも苦労するぞ?」

「ん~。でも~急いで~結婚して~相手が~嫌な~人だったら~」

「それは確かにな」

間の抜け過ぎた声とフワフワと落ち着きのない相手ではあるが、話している限りそこまで頭はおかしくない。だから商人も気軽に会話を続ける。

と言うか他人の娘だからこその会話だ。これが自分の娘だったらと思うと尻の穴がギュッとなる。ある意味で良い経験だと思っていた。

「女は~いつも~そうだ~」

フワフワしながらシュシュは立ち上がった。

「男は~勝手に~こっちを~品定めして~私たちは~一方的に~嫁がされる~」

「まあ一般の出でも無いと恋愛結婚だっけか? あんな夢物語は無理だろうな」

「私は~一般だ~」

「でも魔法使いだろう? それも学院に入れるほどの?」

「うむ~」

「だったら下手な下級貴族よりも地位は上かもしれんな。地位と言うよりも評価か」

だからこそ女性の魔法使いを求める貴族は多い。

魔法を使える子が出来れば貴族としての格が上がるからだ。

しかし片親が魔法使いの子が魔力を得る確率は低い。両親が魔法使いですら半分より良いぐらいだ。

唯一の例外として、とある上級貴族の家では8割近い確率で魔法使いが生まれると言われているが……それとて一族で長年研究でもして編み出した秘術の類があるからだとも言われている。

「嬢ちゃんを欲しがる貴族は多いわな。少しでも魔力を持つ貴族は必死だろう」

「迷惑を~考えて~欲しい~のだ~」

「諦めろとは言えんし納得しろとも言えんが……やっぱり難しいんじゃないのか?」

「む~」

だからこそシュシュはずっと考えていた。どうやって今回の見合い話を無くそうかと。

実家はそこまで裕福では無いが貧乏とは縁は無い。地方領主の代官だからだ。

街の管理と維持を預かる一族……貴族では無いが一般と呼ぶにも難がある。それでも貴族でなければ一般のはずだ。

そうシュシュは胸に抱いて屋敷の門を潜った。

「帰った~ぞ~」

「ってどんな挨拶ですかシュシュ?」

「うむ~。普段の~挨拶~だね~」

「またこの子は、そんな気の抜けは声を出して」

貴族では無いから贅沢は出来ない。

玄関先で掃き掃除をしていた母親のため息交じりの様子はいつもと変わらない。

それでも彼女は母親なのだ。

そっと帰って来た娘を抱きしめると、ポンポンと背中を軽く叩いた。

「お帰りなさいシュシュ」

「ただいま母さん」

「お風呂は……今夜は沸かそうかしらね。貴女も入りたいでしょう?」

「はい」

フワフワを止めてシュシュも優しく母親を抱きしめ返す。

「ならまだ夕方まで時間もあるし、シュシュはとりあえずあっちの掃除を」

「風が~私に~逃げろと~言って~いる~」

しかし母親のハグはガッチリと娘をホールドしていた。

「逃がす訳無いでしょう? この馬鹿娘が」

「ぬお~。横暴だ~ね~」

結局逃げられずに、シュシュは掃除の手伝いをさせられるのだった。

自宅のお風呂に入ったのは……前回の里帰りの最終日だった。

綺麗にして送り出してくれる母親の優しさにはいつも感謝している。

だったらついでにお見合い話も断って欲しいのだが、母親は『女の幸せは結婚をして子供を産むこと』を絶対的に信奉している人種なのだ。

《嫌だな……》

そっとお湯を掬って胸元に掛ける。

大きさは自慢する程では無いけれど、同世代の底辺……アイルローゼの数倍はある。親友のミャンより倍以上ある。下が居るのだから問題は無い。

《結婚なんてしたく無いな……》

別に『結婚』がしたくない訳では無い。結婚相手が勝手に決まるのが嫌なのだ。

自由が無い。束縛だけを決められて自由が無い。

《と、言ってもな……》

両親は今回の結婚に前のめりで乗り気だ。

相手は父親が仕えている貴族の嫡男。つまりは跡継ぎ息子だ。

齢は相手の方が10も上だが、どうやら正室の座を開けていたのはシュシュを娶るためだったらしい。

なら幼馴染のミャンでも娶れば良いのに、そこは代官である父親が動いたのだ。

自分の結婚が纏まったら、次は夫となる者の弟とミャンが結婚させられるのだ。

幼馴染が義理の妹とかどんなイジメかと思うが……義理でも姉妹になるなら気持ち的に救われる。問題はあのミャンなら見合いの席で相手の股間を全力で蹴り上げそうだけれど。

色々と不満を抱えシュシュは湯船に沈むのだった。

新年はいつも通り街にお祝いの儀式を見に行く。

代官の父親は忙しく仕事をし、母親もその手伝いだ。

全ての 柵(しがらみ) から逃れたシュシュは、朝から1人でお祝いの会場に向かっていた。

一昨日の夜に降った雪のせいで昨日の儀式は一日延期となり、今日が本番だ。

だから浮かれてい居る街中をシュシュはいつも通りフワフワしながら歩いていた。

『……』

ゾクッと冷たい視線を感じ、甘い声が頭の中に広がった。

それはとても甘い声で囁きかけて、シュシュの何かを暴いて見つめる。

彼女の記憶はそこで途切れた。

単体に於いて最強の封印魔法。

その最強を魔力が続く限り放ち続けたシュシュは、自身の両親と親友の家族を含み30人以上殺害した。

狂った彼女を全員で説得し止めようとして……生命の営みを封じられ殺されたのだ。

魔力が付きて地面に伏して捕らえられたシュシュは、抵抗の意志など見せなかった。

あっさりと自分の罪を認め、彼女は処刑台を昇ったのだ。

『帰れなかった……』

何を意味しての言葉かは知らないが、最後に彼女が涙しながら発したのはそれであった。

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