軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いつも笑ってたのに

食事は朝と夕の2回だけ。

この施設に来た時に受けた説明ではそうだったが……間違ってはいない。

ただ壁の上から1日分の材料が落されるのだ。それを2回に分けて調理する。

パンは無く麦と言っても屑麦のような物が袋に入っているだけだ。スープに入れてかさを増やすのに使うしかない。

木製の皿を空にしその女性は自分の横に皿と匙を置くと、片膝を抱いてゆっくりと辺りを見渡す。

誰もが絶望に沈み切った表情をしている。自分も鏡を見れば似た顔をしているはずだ。

それでも簡単に死にたくない。たとえ死んでいてもまだ死にたくない。

少なくとも"家族"がどうなったのかを知れない限りは死んでも死にきれない。

あの時確かに宰相様は応じてくれた。けれど色々な 柵(しがらみ) がそれを害することを彼女は知っている。

抱いている膝を寄せ、軽く口元に右手の親指を移動させると軽く噛む。

《考えろ》

自分に言い聞かせて思考する。

"あの日"と呼ばれるあれが訪れなければ、自分の罪が明るみに出ることは無かった。

何より髪の毛を武器にする程度の魔法使いが、無敵の殺人鬼で居られたのは常に考え続けて来たからだ。

《死ぬならいつでもできる。でもそれは確認してからだ》

必死に思考を巡らせていると、グシグシと眠そうに目を擦る少女……どうやら同じ歳らしい彼女が来た。

異国の民であるリグと言う彼女が。

「食器」

「ええ。悪いわね」

「うん」

使い終わった食器を回収しているらしい。

リグに自分が使った物を預けると、彼女はそっとその黄色の瞳を向けて来た。

「肩は?」

「もう平気よ」

「でも伸ばさない方が良い。抜けるから」

治ったことをアピールしようとしたらリグがそれを制した。

この場所に居る数少ない医者の知識を持つ彼女の言葉には、どんな喧嘩っ早い者でも従う。

と言うより彼女に何かあれば厄介な相手が姿を現すからだ。

「リグ。早くしろ」

「ん」

その厄介者が姿を現した。

赤茶色の髪を背中に流し縄で束ねている女性だ。

たぶんここの支配者である女性に逆らう者は居ない。

彼女は売られた喧嘩ならば倍の値段で買うのだ。

どれほどの馬鹿者が彼女に挑んで返り討ちにあったか? 結構な怪我を負って監視に引きずられて行って戻ってこない者も居る。

つまり容赦がない。

食器を手に走って行ったリグは、調理担当の女性と洗い物へと向かった。

黄色い髪をした静かな女性だが名を知らない。首に魔道具が見えるから魔法使いなのだろう。

「ホリー」

「……なに?」

厄介な存在であるカミューが声をかけて来た。

「いつも何を観察している?」

「色々よ」

「そうか。色々か」

軽く呆れた様子を見せたカミューが拳を握り踏み込んだ。

次の瞬間、彼女のの拳が目の前にあった。

拳圧が後から来て、ホリーは全身から嫌な汗が出るのを感じた。

「お前が勝手をして自滅するなら構わない。でも私たちを巻き込むな」

「……まだ生きることにしがみ付いているの?」

「そうだな」

拳を引いてカミューは冷ややかに笑った。

「私はお前たちと違って絶望してここに来た訳じゃない」

「なら人を殺して満足したと言うの?」

「それはお前だろう?」

立ち去ろうとしていたカミューは、足を止めて肩越しに殺人鬼を見る。

自分と同じだが扱われ方が違う人種。

殺人を商売にしていた者と趣味にしていた者の違いでしかないのにだ。

「私にあるのは、躊躇ってしまった後悔だけさ」

「……」

言葉を投げ捨てカミューは片づけをしている者たちの元へと向かった。

《後悔か》

寝床で転がりカミューは天井を見つめていた。

この場所には一応住まいらしき建物がある。男女比率を加味して建物を分け、女性たちが2つ。男性が1つを使用している。それでも夜は雑魚寝で精いっぱいだし、個人の空間などありもしない。

強制的な共同生活……絶望を抱える者は生きる気力も少なく、下手をすると首を吊って死のうとする者も出る。事実何人か首を吊って死んでいる。

話を聞けば理解は出来る。

自分の大切な人を殺したなどと言う話を聞けば胸の奥がチクリと痛くなる。

もしあの時あの人の願いを聞き入れて殺していたら……少なくとも自分だって他の者たちと同じように絶望を抱えて過ごすことになっていただろう。

息を吐いてカミューは眠ろうとしたが、入り口からやってくる気配に気づいて視線を向けた。

自暴自棄になって女を襲う馬鹿も若干居るので気を付けてはいるのだが……どうやら来たのはもう1つの建物に行ったはずのリグだった。

寝る場所を見つけられずにウロウロとしている。

近くに転がっていた小石を掴んで投げると、コンッとリグの頭に命中する。

一撃を受けた場所を押さえて辺りを見渡す彼女にカミューは手を振って自分の横の空間を教える。

どうも歯向かって来る相手を殴り飛ばしていたら、周りの女性たちから恐怖され警戒されてしまった。お蔭で拾い寝床を使えるから助かってはいるが。

彼女の場合は眠れるのであれば場所などあまり気にしない節がある。

歩いて来たリグは迷わずカミューの隣で横になった。

「どうした?」

「ん」

最近は『知り合いがやって来た』と言ってもう1つの方で寝ることが増えたリグだが、今夜は特に元気が無い。

「辛いことを思い出したって」

「……そうか」

毛布替わりの布を抱きしめてリグがポツリと呟く。

「シュシュはいつも笑ってたのに」

「辛いことがあったんだろう?」

「ん」

「なら仕方ないさ」

それは仕方ない。いつも笑っていただけに生じた苦しみが余程大きかったのだろう。

カミューはもう一度天井を見上げて息を吐く。

リグが言うシュシュという名の女性は、今この場所で一番危ない存在だ。今直ぐにでも自分の手で命を絶つかもしれないほどに弱っている。

無表情で暗い顔をして、何かあれば泣き崩れている。

昔を知るだけに、リグとしてもその姿を見るのが辛いのが手に取るように解る。

《奇跡なんてことは起きやしないんだな》

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