作品タイトル不明
追憶 ホリー
人間ってどうしてこうもつまらない生き物なのだろう?
典型的な存在が『両親』だ。本当にくだらない生き物だ。
父親は才能の無い魔法使いだった。才能が無いのだから別の道で生きれば良いのに『魔法使い』と言う名で呼ばれることにこだわり続けた。
ならば努力をすれば良い。才能が無くても努力次第で人は育つのだから。けれどそれすらしない。
外では頭を下げ、家の中では拳を振るう。本当にくだらない存在だ。だから消した。
母親もどうしようもないダメな人だった。優しくはあったのだけど、それだけの人だ。
何より父親の代わりに得た男の求めに応じて私の大切な家族を……姉の体を売り渡したことは許せない。
だから新しい男と一緒に消えて貰った。
人が消える度に少なからずの平和を得る。
だけども周りは『子供たち』と言う理由で救いの手を差し伸べようとする。偽善だ。
見返りを求めない愛なんてこの世界には絶対に無い。
だから私は考える。考えて考えて考えて……私の小さな家族を維持する方法を考え続ける。
何より人とは本当に馬鹿だ。
私たちの周りでこんなにも人が消えているのに『私』を疑わない。
子供だから人を殺さないなんて本当に思っているか? ふざけるなっ! 子供たちを戦場に連れ出す大人が偉そうに子供に平和や愛など語るな。
全部私がやったことだ。これからも私の家族を、小さな幸せを邪魔するなら全部消す。
全部だ。
「ホリー」
「なに?」
「お姉ちゃん少し買い物に行くから」
「大丈夫。ホールンは寝てるし」
外で働いてくれている姉は、少ない休みの日でも決して休まない。
『買い物』と言いながら、きっとまたどこかで子供の世話などをして来るのだろう。
そうじゃ無ければパンを買うのに半日も掛かる訳が無い。
「ならお願いね?」
「はい」
色々とあって疲れた表情を見せる姉はとても綺麗だ。
こんな貧しい家庭に生まれて無ければきっと引く手数多で男性に求婚されていることだろう。
それでも今の姉はボロに身を包み、朝から晩まで働いて私たちを食べさせるために頑張っている。自分のことなど二の次で。
違う。姉は私たちが一人前になることだけを願い生きて居る。
私たちが独立するまで体が持てば良いと思っているんだ。
《させない。私が必ずこの家族を護るんだから》
膝まで届く青い髪を手で払い、部屋で寝ている弟の様子を確認してから……私は今日も部屋の隅で本を読む。
文字を読むのは好きだ。読めば読むほど知識が広がる。
それに頭を使う遊戯も好きだ。大半の遊戯なら一度見れば大抵負けない。だから老人たちの遊びに混ざって勝ってはおこずかいやお菓子などを得る。
食べ物は姉と弟に、お金は貯めて本を買う。
魔法に関する書物は本当に高いから困るが、私には魔力がある。
気づいたのは偶然だ。
父親が持っていた魔法書を暇潰しに読んでいて『出来るかな?』と思ったら出来た。
でも大した魔法は使えない。私は強化系と呼ばれる物を硬くしたりする力だったから……どうすればそれを効率的に使えるかを考えた。
結論が出て私は髪を伸ばした。伸ばし続けた。
剣や鎧に強化魔法を使うぐらいなら私は別の物に使うことにした。そう髪の毛だ。
髪は柔軟性もあって丈夫だ。火や刃物に弱いけどそれは魔法で補える。何よ手ぶらで人を殺せる。
この力を極めれば私はたぶん暗殺者になれるはずだ。
それならそれで良い。家族を護れるなら……何でもすると決めたのだから。
「ホリー」
「なに姉さん?」
「買い物をお願いしたいんだけど」
弟のホールンが熱を出した。
薬など買えない我が家では、看病をしながら願うしかない。弟が無事に回復することを。
何に向かって祈っているのかは、祈る本人にも分からないけれど。
「パンで良いの?」
「ええ。それとこれで買えるだけ何かを」
「分かった」
貧しい我が家にだって新年は勝手に来る。
少しでも贅沢を、弟に美味しい物を食べさせてやろうと言う姉の気持ちが痛いほど分かる。
私も外に出て少しは働くようになったから収入はある。その給金は全て姉に押し付けているが、どうも全部貯金している様子だ。
私の将来なんて考えなくて良いのに。
家を出て肌寒い外気に身を震わせながら歩く。
どうも最近男共の視線が私に向く。姉さんに似ているし胸もそれなりにあるから仕方ないのだろうけど、こうも見られるのは好きじゃない。
声でもかけて来たら路地裏に連れ込んで股間を抉って有り金全部巻き上げるんだけれども。
ゾクッ!
不意に感じた気配に私の全身が粟立った。
『……』
耳では無く頭の中にそれが響いた。甘い甘い……とても甘い声だ。
「あっ……くぅっ」
眩暈がする。立っているのも辛い。
その場に崩れ落ちそうになって必死に耐える。
今の声は何と言っただろう? 甘い声で何と?
私が覚えているのはそこまでだ。
気づけば私の周りには多くの死体が転がっていた。
長い髪を武器にして、私を制圧しようとする王国の兵たちを斬り殺していたのだ。
辺りの様子を見渡し理解した。自分の罪を全て。
顔を空に向けて大きく息を吐く。魔力ももう底に達しそうでとても辛い。
目を閉じて殺されるのを待っていた。人の言い争う声が聞こえた。
目を開けて顔を向けると1人の男性が周りの制止を振り払い出て来た。
「私の名はウイルアム・フォン・ユニバンス。王国宰相である」
「……ホリー」
私の返事に周りの兵たちが一斉に槍の穂先を向ける。
けれど宰相様は片手を上げてそれを制した。
「投降するならば危害は加えん」
「……」
たぶん嘘じゃないとその声音から理解出来た。
でも私はこれほどの人を殺した。そして今までも殺して来た。
残った魔力を髪に集め刃を作る。
「投降せぬか?」
「……出来ないの」
したら私の家族に被害が及ぶ。
私の大切な家族が。失いたくない存在が。
作った刃で自分の喉を割こうとしたが出来なかった。
私の刃を根元から掴み……宰相様がそれを制したからだ。
「訳があるのならそれも聞こう。だからもうこれ以上、私の前で命を奪うことは禁ずる。良いな?」
「……は、い」
なけなしの魔力を振り絞った反動で、意識が消えかける。でもそれを耐えた。
「1つだけ……」
「何だ?」
「姉と弟は、関係無いから……」
「分かった。悪いようにはせぬ」
「ありがっ」
また意識が飛んだ。
私は全ての罪を告白し、処刑台へと昇った。
台の天辺で私は自分の足元に目を向けた。
私が何人目なのかは知らないけれど、この台は現在最も人を殺している存在なのだと……そう思ったら少し笑いたくなった。
人殺しはそれ以上の存在によって殺されるのだと気付いたから。
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