軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

みんなが……いない……

大陸の某所

「お久しぶりにございます。テルテントン司祭」

「ああ。お前か。エルダー」

テルテントンと呼ばれた黒いローブ姿の男性は足を止め、恭しくこうぺを垂れる彼を見た。

『エルダー・フォン・ルーセフルト』

あのユニバンス王国からやって来た異端児だ。

「こんな場所で話しかけると言うことは、私を待っていたのか?」

「ええ」

「酔狂だな」

「別に。数日、数十日……ここで皇の鼓動を聞きながら目を閉じているだけであっと言う間に過ぎ去ります」

「実に酔狂だ」

鼓動と言うよりも地響きに等しい『皇』の存在。

今はまだ力を集め眠っている状態であるが、もう間もなく目を覚ますはずだ。

「テルテントン様はどちらに派遣されることに?」

「次は大陸南西部だ」

「自分はまた共和国を含む北東部にございます」

「そうか」

何かと話しかけて来るエルダーをテンテルトンは信用していない。今も僅かに間合いを開けている。

ふとエルダーは笑った。

「私を警戒されますか?」

「決まっていよう? お前は信用出来ない」

「ユニバンスの出身だからですか?」

「それもある」

『それもある』その返事にエルダーは内心で笑う。

「私があの白いドラゴンスレイヤーの夫である者と親戚関係だからですか?」

「そう言うことだ」

軽く顔を上げテンテルトンはエルダーを見る。

爬虫類を思わせる竜眼でだ。

「あの白いドラゴンスレイヤーは脅威だ。私はあの2人の結婚式でそれを見て報告したが……大陸南東部の担当となったバルグドルグは信じなかった。結果としてあれは消されお前は司祭補となった」

「ええ。暗竜バルグドルグ様の死はとても残念でした」

フッとあからさまにテルテントンは笑ってみせた。

「残念? お前の本心は違う様子だぞ?」

「違うとは?」

「喜びだな。その感情はバルグドルグが死んだことを喜んでいる。このまま行けば暗竜はお前のモノだろうしな」

「……」

スッと目を細めエルダーは相手を睨んだ。

やはり自分の想像通り……司祭の中で一番厄介なのはテルテントンに違いないと確信した。

「喜びが変化しているぞエルダー?」

「ご冗談を」

「そうか。お前がそう言うならそうしておこう」

ローブを翻しテンテルトンは歩き出す。

「司祭様」

「何か?」

「……ユニバンスに生じたあの力は、白いドラゴンスレイヤーのモノでは有りません」

「ほう?」

興味を持ち足を止め彼は振り返る。

その顔から表情を消したエルダーは、ただ真っ直ぐテンテルトンを見る。

「その夫……アルグスタが持つ祝福にございます」

「なるほどな」

「たぶんその力は『竜』を滅するモノと思います」

「それは恐ろしいな。精々気をつけよう」

軽く会釈をし、テンテルトンはまた背を向け歩き出す。

相手が角を曲がり姿を消すまで見送ったエルダーは、フッと息を吐いて相手とは逆の方へと歩き出した。

力を手に入れるにはまず実績が必要だ。実績を得て『暗竜』の力を得る。

そして次は、

《皇を得る》

内心で笑みを浮かべエルダーは歩き続ける。

ユニバンス王国王都北部ドラグナイト邸

「……おはようノイエ」

「……」

久しぶりに起きたらノイエが跨っていた。

完全なマウントポジションで……新婚時代は毎日こんな朝だったなと思い出す。

ただ彼女は返事も無く、パチパチと左目を閉じては開いてを繰り返しウインクをし続けている。

「ノイエ?」

「……」

言葉も無く腰を浮かせた彼女は、ベッドから降りると動きを止めた。

あの~ノイエさん? 昨日の夜から様子がおかしいのですが? 中か? 中の人たちがまた何か変なことをしているのか?

「お~い。ノイエ?」

何度か呼んでみるけど棒立ちした彼女は動かない。

隣りで目を覚ましたポーラがグシグシと目を擦りながら僕と一緒にノイエを見つめる。

しばらく黙って彼女の背中を見つめていると、突然クルッとこっちに体を向けた。

って? どうした?

ノイエはポロポロと涙を溢し、膝から崩れるように床に座り込んだ。

「ちょっ! ノイエ! どうした!」

「……」

「えっ?」

普段無表情なノイエだが、今は血の気まで失せて人形のような表情をしている。そして彼女の口は何かを呟いている。

耳を寄せると……微かに聞こえた。

「みんなが……いない……みんなが……」

繰り返される言葉と止まらない涙。

僕はそっと彼女を抱きしめて言葉の意味を考える。

皆が居ない? 誰が? まさかっ!

「ポーラ」

「はい」

「急いで狼煙を上げさせて。色は赤」

「はい」

不安げにこっちを見ていたポーラには、王城に『緊急』を知らせる狼煙の手配を頼む。

ベッドから飛び降りパタパタと慌てて走って行く彼女が部屋を出て行くのを確認して、僕はそっとノイエの耳を塞いだ。

「セシリーン。誰でも良いから外に出て貰って」

告げて様子を見るが、ノイエの様子も色も一向に変わらない。だったら、

「お姉ちゃん。ファシー。レニーラ」

呼べば出て来るメンバーを筆頭に声をかける。でも誰も出て来ない。

「先生っ! 出て来てよっ!」

声を荒げて呼びかけても……誰も出て来ない。

本当にみんな消えてしまったのか?

そんな馬鹿な……そんな馬鹿なことを僕が許すかよっ!

「ふざけんなっ!」

言いようの無い想いが口から溢れ出ていた。

クスクスクス……と笑い彼女は外の様子を眺める。

栗色の髪をなびかせ、その瞳に金色の線で描かれた五芒星を浮かべて。

「まだ絶望の中で希望は見いだせるのかしら? 旦那様?」

クスクスクス……と笑い彼女は、自分が封じ込んだ者を見る。

全てをだ。左目の中枢に居た者を全て封じて生じたモノを。

「祝福2つしか持たないその子と貴方はどうする?」

クスクスクス……と笑い彼女は悠然とマントのようなローブで身を包み腕を組んだ。

「敵は準備してあげたわ。さあ私にその覚悟と根性を見せなさいっ」

バサッとローブを払いビシッとポーズを決めた。

「完璧ね。彼と会う時はこんな感じで行こうかしら。うん」

登場シーンを再度確認するように、刻印の魔女は何度もリテイクを繰り返すのだった。

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