軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

始めましてかな? 名探偵諸君

「それで次の問題はこの魔眼よ」

「これがどうしたの?」

ペシペシと床を叩いてレニーラは首を傾げる。

その様子にアイルローゼは可能性を提示したエウリンカを見つめ……完全に寝入っている化け物から視線を外した。

「普通に考えてこの"魔眼"はこの世界の魔道具じゃない。異世界の魔道具と考えればしっくりくる」

「そうね。確かに」

ホリーも納得しペシペシと床を叩いた。

「それでエウリンカが1つの可能性を導き出した。この魔眼が古い時代から語り継がれている伝説の魔道具、"賢者の石"じゃ無いかって」

「賢者の石? なにそれ?」

「私に聞かないでよ。魔法はこれしか知らないし」

レニーラの問いかけに、ホリーは自身の青く長い髪を揺らして肩を竦める。

確かに知っている者の方が少ない魔道具だ。エウリンカが知っていたのは魔剣の材料になると思い調べていたのだろう。

「賢者の石。人の命を触媒に作りだすと言われる伝説の魔道具よ。異世界のだけれどもね」

「人の命?」

「ええ。古い書物に刻印の魔女がそう書き残している」

『うへ~』と嫌そうな顔をしてレニーラは座っている床に目をやる。

材料を知って気持ちが悪くなったのだ。

「それで何が出来るのかしら?」

「何でもよ」

アイルローゼの返事にピクッとホリーが反応した。

「それを用いれば何でも作りだすことが出来ると言われた伝説の魔道具」

「……人の命ぐらいでそれが作れるなら安い物ね」

「ええ。だけど作れないわ」

「そうでしょうね」

苦笑しホリーは頭を振る。

人とは存外欲望の塊だ。

もし本当に人の命ぐらいでそんな伝説が出来上がるならば、誰かが挑戦しているはずなのだ。

「2百年前かしら……それの実験と称して奴隷を2百人程度生け贄にしたと言う記述も残って居る」

「でも完成はしなかったのでしょう? 普通に考えれば馬鹿でも分かるわよ」

やれやれと言った様子で肩を竦め、ホリーは欠伸をした。

「仮にこれが賢者の石とか言う物だとして……ああなるほどね」

「正解よ。私がこの魔眼に刻み込んだ術式がどうして使えるか」

「つまりは魔法の触媒ってことね。そう考えれば確かにどんなことでも出来るかも知れないわね」

「ええ。それに見合う魔力を準備出来ればだけど」

"増幅"と言う祝福を持つノイエは、大陸屈指の魔力量を誇る。

その体に宿っているからこそ、この魔眼は数多くの魔法や術式を取り込み使役することが出来るのだろうと推測出来た。

「アイルローゼ。カミューがそこまで考えていたと思う?」

ホリーの何気ない質問にアイルローゼは小さく笑った。

「考えていたと言うより……企んでいたのかもしれないわね。ただ唯一問題があったけれど」

「ノイエをどんなに最強にしても、あの子は優し過ぎるから得た力をドラゴン以外に振るえない」

「そう言うことよ。そう考えるとノイエの傍に馬鹿弟子が居ることは間違いでないのかもしれないわね」

ブスッとした表情でホリーが拗ねだしたから、アイルローゼは視線をエウリンカに向ける。

暇になったのであろうレニーラが、彼女の体を色々と撫で回し……うっすらと化け物が目を開けた。

「……どうなった?」

「大体話は終わったわ」

「そうか……ん?」

目を擦っていたエウリンカの動きが止まった。

「自分は全く参加していないのだが?」

「寝ていたからよ」

「起こすぐらいしてくれても良いと思うが。それとレニーラ。胸は揉まないで欲しい。くすぐったい」

「エウリンカって意外と大きいんだね。形も良いし」

「服を捲ってまじまじと見ないで欲しいのだが?」

馬鹿2人から視線を外し、アイルローゼはホリーに目を向けた。

「この魔眼は過保護なカミューがノイエに残したある種の希望だった訳よ」

「本当にあの女は……性格が悪すぎる」

「否定しないわ」

普通に考えればそれで終わりだ。

自分たちはあの性悪女の企みで魔眼の中に封じられた魔法や術式と同じ存在……そんな訳はない。

「ホリーはさっき言ったわね?」

「未練のこと?」

「ええそうよ」

相手の頭が良いだけに話は楽だ。ただどうも話していて面白くないから、アイルローゼとしてはこの『死の指し手』は好きになれない。

いつものように馬鹿弟子に尻尾でも振っている状態ならまだ可愛げがあるのだが。

「どうして未練を残した者たちを魔眼は飲み込んだのかしら?」

「……難しい問題ね」

「問題を解くのは好きでしょう?」

「それは貴女でしょう? 何より私は気乗りしない問題を解くのは好きじゃない」

言ってもホリーは目を閉じ思案する。あくまで可能性を追求する。

「事故だったんじゃないかな?」

「事故って?」

「言葉通りよ」

目を開きホリーは息を吐いた。

「魔眼が未練を持つ者を飲み込むなんてカミューも知らなかった。だから事故が起きた」

「どうして未練を持つ者を飲み込んだのかしら?」

「それは分からない。魔眼を作った者にでも聞けば?」

ホリーの言う通りだ。だが魔眼を作った者に聞くことなど出来ない。誰だか分からない相手だ。

「その問題は後々調べるとして……最後の問題よ」

「まだ何かあるのかね?」

ハァハァと興奮しつつエウリンカの体を撫で回すレニーラを魔剣で封じた化け物が、興味津々な様子を伺わしてアイルローゼを見る。

「ええ。セシリーンが言うまで私も気づかなかったことよ」

「それは?」

「魔眼の右目よ」

「……つまり?」

理解出来ていないエウリンカに、アイルローゼは自身の背後に存在する壁を叩いた。

「私たちが今居るここは魔眼の左目。なら右目はどうなっているのかしら?」

「それは……」

言われてエウリンカも気づいた。

確かに全くと言って良いほど気にもしなかった。

「右目にもここと同じ環境が整っている?」

「そう考えるのが普通でしょうね」

ただそれだけで済めばの話だ。

「ここと同じように誰かが住んでいる可能性は?」

本当にホリーは面白くない。簡単にその可能性に気づいた。

「十分にあり得るわ。いいえ……たぶん誰かが住んでいる」

「そんな馬鹿な話がっ!」

その気配に全員が反応した。

施設で鍛えられ、それ相応に戦う技術を習得させられているからこその反応だ。

だがアイルローゼはセシリーンに目を向けていた。

彼女の警告も無しに誰かの接近を許すことなどあり得ない。

「……始めましてかな? 名探偵諸君」

悠然と歩き姿を現したのは、栗色の髪をした目を閉じた女性。

発する異様な気配は……言いようの無いほど禍々しい。

「誰かしら?」

喉の奥が張り付くほど緊張をしながらもアイルローゼが問うた。

「私は賢者よ。古いことを知る賢者。貴女たちの言葉を借りて言えば……右目で暮らす化け物よ」

薄っすらと笑う"賢者"にその場に居る全員が戦慄した。

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