軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去を残してくれて

「ん~。なに?」

「ですよね~」

ノイエに描いた車いすの図案を見せたら首を傾げられた。

おかしい。過去の自分ならもっとこう描けていた気がする。

幼稚園の頃には保育士さんが『元気いっぱいに描けてるわね。先生は好きよ?』と言ってくれたのに……何故だ!

「……アルグ様」

「ん?」

「虫?」

「ちっが~う!」

車いすが虫に見られただと? これは由々しき事態だ。

だが一生懸命に描いた旦那様の作品に対してしょっぱい評価を下したお嫁さんの暴挙は許しません。

ノイエの脇腹をもにゅもにゅし続けて彼女を悶絶させておく。

「少なくともこれを他人が見て理解出来るようにしないと」

「……」

床に転げている彼女が恨めしそうな目を向けて来るのはスルーです。毅然とした態度です。

何より虫は酷過ぎる。これはあれだ……黒い蟹だな。うん。あれ? 蟹って確か虫だったような気が?

「ぬあっ!」

「ここ」

「ちょっとノイエっ!」

「ここも」

復讐のお嫁さんが的確に僕の弱い所をっ!

ならば逆襲の旦那さんの実力を見せつけるまでだ。

彼女のアホ毛をパクッと咥えて舌で舐める。ふにゃっと膝から崩れたノイエがペタンと床に座った。

「ダメ。そこは……ひうっ」

エウリンカが手を加えてから、ノイエのアホ毛は感度が増したのを知る僕としてはここは禁じ手にしていた。

だがその禁止を解き、今宵は徹底的に……うがっ!

全身が動かなくなってバランスを崩して床に転がる。

何事かと思ったら黄色いノイエが僕を覗き込んだ。

「変態~だ~ね~」

「変態ではありません。お嫁さんと2人っきりの時間を楽しんでいたのです」

「ん~。いい~わけが~ミャンの~よう~だね~」

止せよ。あんな真正の変態たる同性愛者の狂人と一緒にして欲しくない。

「で、何か用事?」

「ん~」

フワフワと歩き出した彼女は、部屋の一画に飾られている絵に向かう。

額を新調して改めて寝室に飾ったのは、シュシュ曰く『我が人生で最高の傑作』らしい絵画だ。

額が汚れ過ぎていたのもあるが、改めて見ると物凄く繊細で何より色使いが上手い。

部屋に飾ってからポーラやメイドさんたちからの評価も凄く良い。何よりノイエがアホ毛をクルンクルンと回して見入る作品なんてあの絵ぐらいだ。

「それを見に来たの?」

「ん~。いつまでも~見て~居られる~ぞ~」

「そうですか」

それは良い。だからこの拘束を解けと言いたい。

「お~い。シュシュ」

「何だぞ~」

「この拘束を解いてよ」

「ダメ~だぞ~」

「何故?」

「旦那さ~んは~色違いの~ノイエを~見ると~襲うと~有名だぞ~」

「誰の言葉か問いたい」

「私~だぞ~」

これは怒っても良い気がする。良し怒ろう。拘束を解いて貰ってからだな。

「襲わないから解いてよ」

「ん~」

フワッと手を動かす姿が見えた。すると体全身を覆っていた圧迫感が消える。

立ち上がり彼女の背後から一緒に絵を見る。

「ねえシュシュ?」

「ん~?」

「この中の何人かは中に居るんでしょ?」

「ん~。居ない~人も~居るぞ~」

「居ない人って?」

ピタッと止まりシュシュが絵に手を伸ばす。指先でガラスの表面を撫でる。

「戦場で死んだり、あの日に死んだり……皆がみんなこの中に居る訳じゃない」

男性や女性の顔を指先で撫でて、シュシュはクルッとこちらを向く。またフワフワしだした。

「旦那ちゃんの~虫の~絵を~見せると~良いぞ~」

「虫ではありません」

「見るん~だぞ~」

フワッと僕の前から横移動をし、彼女は床に転がっている画を拾う。

「新種~だぞ~」

「虫じゃありません」

「ん~」

絵を手にし、シュシュは僕が使っていた机に移動し椅子に座る。

新しく紙を取り出すと、使われたままで置いておいた筆を手にした。

「聞いてた~感じ~だと~こう~だぞ~」

フワフワと筆を動かし、あっと言う間に色付きの車いすを描き上げた。

何この子? もしかして天才の類なの?

近寄り受け取ると……描きたかった物より数倍良い感じとか。

「下とか~こうかな~。横は~こうして~。椅子は~柔らかく~こうして~」

元々1人で使用することを前提にせず、メイドさんが押すような形を想定していたので、シュシュがそれを汲み取ってとても贅沢なイメージを描いてくれた。

「ん~。満足~だぞ~」

使い終わった道具を放り出して、シュシュはフワッと立ち上がった。

「ん~」

「ん?」

クルッとこっちを見た彼女は相変わらずのフワフワだ。

何故こんなに揺れているのか疑問だ。

「旦那さま~」

「呼び方を統一しなさい」

「嫌だぞ~」

ヘラッと笑いシュシュが一歩踏み込んで来た。

フワフワ揺れずに真っすぐ来た彼女に反応できず、あっさりと距離がゼロになった。

「ん~。誰に~聞いても~旦那さんは~これが~良いって~」

唇を離して少し頬を赤くしながら、シュシュはフワフワしながら笑う。

ちょっと待て。それはそれで僕がみんなにどう思われているのか問いたくなって来たぞ?

揺れるのを止めて僕の胸に抱き付いて来た彼女は、体や頭をこちらに預けて来る。

「……あの絵をここに運んでくれてありがとう。あれは私の中で唯一のピッカピカの思い出だったから」

押し倒されないように彼女の肩に手を回し優しく支える。

「ありがとう。私の過去を残してくれて」

「お安い御用だよ」

「うん。ありがとう」

顔を上げて柔らかく笑うと……ノイエから色が抜けた。

僕に抱きしめられた格好の彼女は一瞬視線を左右に動かし、真っ直ぐ僕の目を見つめる。

「する?」

「道具を片付けたらね」

「……はい」

僅かに表情を動かし、ノイエは僕から離れるとベッドに向かう。

メイドさんを呼んで絵画の道具を片付けて貰うと……良し。今夜は何となく頑張っちゃる!

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