軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鳥籠

どうしてこうなった?

少し離れた場所には2人の毛色の違う美人が居る。

片方は大陸北西部から来た日本人の流れをくむ美人剣士。

もう片方はユニバンス王国が誇る大陸屈指のドラゴンスレイヤーであり僕のお嫁さん。

どうしてこうなった?

話は数日前に戻る。

「約40日もの間、本当にありがとうございました」

「いいえ。余りお役に立てなかったようで」

「そんなこと無いです。十分な仕事をして貰いました」

何より彼女たちが来てなかったらこの無茶なプランは最初から破たんしていたんだ。

と言ってもカエデさんが納得する訳が無い。現に今も彼女の背後には死屍累々の……では無く気絶した30人の村人たちが山積みになっている。

僕らが居ない間の約30日間は、この人たちが居てくれたからユニバンス王国は無事だった訳だ。

で、残りの10日間は……僕のせいではない。カエデさんの修業が鬼過ぎるのだと思います。ウチの王国軍の精鋭も近衛の精鋭も違う場所で気絶者の山を作っているしね。

「もしかしたらカエデさん1人で十分だったのかもしれないですね」

「……」

社交辞令と言うなかれ。

まあ確かにカエデさんは強いけど、ノイエが1人でドラゴン退治が出来るのはあの機動力があってのものだ。

スッと目線を下げていた彼女の顔が上がり僕を見た。

「そうですね」

「……」

とても穏やかな口調で紡がれた言葉がとっても怖い。

「あはは。このお礼は何らかの形で」

「いいえ。もう決めてます」

「……」

強くて有無を言わせない口調で彼女が告げた。

「是非ともノイエ様との一騎打ちの許可を頂きたく存じます」

で、そうなった。

話は元に戻る。

「取り決め通り、試合は俺が100を数える間とする。そして命を奪うことはしないよう……以上だ」

審判役を買って出た馬鹿兄貴が嬉しそうに取り仕切っている。

一番の問題は何故かカミーラの姐さんもやる気を見せていることだ。前回僕のハリセンを食らうことをあんなに嫌がっていたのに、今日は『さっさとやりな』とか言いながら笑い出す始末。

絶対に良くないことが起きる。見えるよ……不幸フラグがはっきりと。

「帰国に際しての余興にしては、随分と物騒だな」

「ですがカエデ様の剣の腕は物凄いと聞きます。陛下」

観客席に居る国王様と大将軍の会話が煩わしい。

つかこの国の重臣は暇人揃いか? 珍しくクロストパージュのオッサンまで居やがるし!

「アルグスタ様。何そんなにソワソワしているんですか? お手洗いならもう間に合いませんよ?」

「クレアのようなお漏らし趣味はありません」

隣りに座る小娘が暴れ出したから、逆側に座る旦那さんの襟首を掴んで盾にする。

アカン。絶対に良くないことが……

「では、始め!」

審判が合図を出して即行で2人から離れた。身の危険を感じたらしい。

開始はとても静かだった。

カタナを抜いたカエデは下段に構え、槍を持つノイエもまた穂先を地面へと向ける。

ハーフレンのカウントを聞きながら2人とも見合い動かない。

と、同時に動いた。

「断空」

先手はカエデだ。

斜め下から斜め上にカタナを振り抜き気合を発する。

ノイエはそれを見破り動かない。

掛け声だけで剣気が飛んで来ていないことを察し、

「断罪」

斜め上に振り上げたカタナを上段に構えてカエデは剣気を放った。

上から下へ……圧倒的な圧力を放ち全部で9つの剣筋がノイエを襲う。

だが彼女はニヤリと笑い、タンッと地面を爪先で叩いた。

「なっ!」

流石のカエデもそれを見せられ驚きを隠せない。

地面から生えた土の槍は9本。その全てが振り下ろした剣気と衝突したのだ。

恐ろしいほどの度胸であり、何より魔法の凄さを改めて噛み締める。

《強い。あの糞虫ほどに》

性格や人格を除けば、彼女の兄であるマツバは強い。

その強者が持つ特有の圧力を目の前のドラゴンスレイヤーが放っているのだ。

《だからこそ……試せる》

内心で笑い。カエデは覚悟を決めた。

周りからの視線が痛いッス。姐さん……魔法は使わないで下さい。

クロストパージュ家の関係者の視線が僕のチキンなハートを抉るんですけど?

若干1名ほど隣で『あれ?』って感じで首を傾げている元クロストパージュ家のご令嬢が居ますが、このお馬鹿ちゃんは、魔法がからっきしだから分かっていないんだろう。

ああ……フレアさんの視線が痛い。コンスーロのオッサンの笑みが怖い。ケインズの助平爺なんて手招きしてるし! 何より相手が姐さんだから文句も言えないし!

良いんだ。今夜は癒しを求める。僕には癒しが必要なんだ。

ノイエの膝枕からファシーを呼んで癒されよう。決めた。

「82。83……」

進む数字を耳にし、カエデは相手との距離を取る。カタナを鞘に戻し軽く腰を落とした。

クルリと槍を回して自然体に構えるノイエは相手が発する気配に目を細める。

必殺の気配。

戦場で嫌と言うほど浴びたそれを感じ、ノイエは口の端で笑う。

「私が出来る最強の一撃です」

静かな声でカエデは発し、自身の剣気を高める。

兄はこの最強の一撃をあっさりと放ってみせる化け物だ。

「来な」

「ええ」

フッと息を吐いて、カエデはカタナを鞘の中で走らせ抜く。

「断片!」

格子状となった剣気を放つ。

代々受け継がれている回避不能の絶対の一撃だ。

だがノイエは軽く笑う。

ダンッと力強く地面を踏みしめ、目の前に土の壁を作った。

硬い金属音が響き……土壁が崩れ落ちる。無傷のノイエと酷く疲労したカエデが片膝を着いた。

誰もが勝負の終わりと思った。

「なら私もだ」

ノイエが呟き地面を蹴る。

槍を投げ捨て……パンッと胸の前で両手を合わせた。

「包め包め包め。彼の者を包み四方より死と言う名の檻を作りだせ」

片膝を着いているカエデを包み込むように地面が盛り上がる。

作りだされるのは檻。籠のような檻が彼女を包み込んで行く。

「鳥籠」

「止めなさい!」

凛と響いた声の主はメイドの姿をしたフレアだ。

彼女の放った"影"がカエデの体を包み込む中……ノイエは檻の上に降り立った。

何も起きずに檻は崩れ、そしてハーフレンは『100』を告げた。

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