軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

完全に拗ねた

「アルグ様?」

「ん?」

「何処に行くの?」

仕事終わりのノイエを連れ、向かう先は王都郊外にある共同墓地だ。

「馬鹿兄貴がさ……少し手を回してくれてね」

ナガトに跨り、ノイエを前に乗せた状態でゆっくり向かう。

鞍には花束とお菓子とお酒を載せているけど、これで気づかないノイエも凄いな。

「ノイエの家族はあの日僕の祝福で、ね」

「はい」

「だから遺品と言うか、フードとか使っていた武器とかを全部拾い集めておいてくれたんだ」

ノイエが全て消した訳ではない。馬鹿兄貴たちが倒した人たちの遺体は残って居た。

その1人1人の検死も終わり、ちゃんと荼毘に付して共同墓地の一画に埋葬してくれた。

今からその場所に行って手を合わせる。

本当の意味で死者となってしまった彼ら彼女らに出来ることなんてそれぐらいだ。

何かを察したのか、ノイエは口を閉じると僕に体を預けて静かになった。

彼女の温もりを感じながら……僕らは墓地へと向かった。

「良い酒。飲んでくれ」

赤い髪になったノイエが掴んでいる瓶の注ぎ口を下に向け、中身を石碑の一部に振りかける。

墓参りを終えて帰ろうとして居たらカミーラが出て来た。そして彼女との約束を果たすこととなった。

共同墓地の一画に置かれているのは『あの日』の出来事で死んだ王国軍の兵や近衛兵の死を悼んだ作られた石碑だ。

亡くなった全員の名が刻まれていて、その中から部下だった者たちの名前を見つけた彼女はしばらく何も言わずジッと見つめていた。

「済まなかったな」

空になる前に注ぐのを止め、カミーラは残った酒を自分の口に運んだ。

前線を渡り歩いていた彼女の部隊は数多くの敵を葬った精鋭揃いだったと言う。

だがあの日、カミーラの暴走を止めることは出来ずに全員が死んだ。

瓶を掴んだまま両手をだらりと下げ、顎を上げて空を見上げる彼女が何を想っているのかは分からない。

「済まなかったな。旦那」

「いいえ」

軽く頭を振ると彼女はいつも通り何とも言えない苦笑を見せた。

僕に空の瓶を放って寄こし、こっちに向かい歩いて来る。

と、立ち止まってもう一度石碑を見た。

「その内に私もそっちに行く。その時は……」

風が吹いて彼女の呟きが聞こえなかった。

ただ笑い……カミーラはこっちを向くと、色を手放しノイエに戻る。

軽く辺りを見渡したノイエは、真っすぐ僕の所に来て抱き付いた。

「さあノイエ」

「はい」

「ポーラを拾って家に帰ろっか」

「はい」

ウリウリと胸に額を押し付ける彼女の様子が可愛らしい。

甘えているようで……どこか寂しさを誤魔化しているようにも見える。

『ノイエって本当に何も気づいていないのかな?』

ふとそんな思いがよぎった。

「何か最近お姉ちゃん出過ぎじゃないですかね?」

「嫌なの?」

「そうじゃなくて……不思議に思っただけですけど?」

若干目の端を釣り上げたホリーが怖い。

昨夜はファシーの相手をしていたから機嫌が悪いのは何となく分かるけどね。

今回の無茶の見返りをファシーに聞いたら『要ら、ない』と言って抱き付いて来たからそのまま抱きしめて一晩中好きなだけ甘えて貰った。

大人しいファシーはとても可愛いのです。ノイエに似てて……って本当にノイエにそっくりなんだよな。

ん?

「お姉ちゃん」

「何よ」

若干拗ねた感じのホリーがこっちを見てから『フンッ』とそっぽを向く。

これはあれだ。ネコ科特有の『構って欲しいけどそんな気は無いんだからね』なツンデレモードだ。

「ファシーの」

「あん?」

「落ち着いて聞いて」

放送できないレベルの凄い凶悪な目がこっちを向いたよ。

「ファシーってノイエに似てるんだけど……」

「あん?」

「ほら。立ち振る舞いと言うか、甘え方とかがね」

両手を前に突き出して『落ち着いて落ち着いて』とジェスチャーしながら伝えたいことを伝える。

「そう考えるとノイエが僕を襲う時ってお姉ちゃんに通じるものが」

「嫌なの?」

「違うって。ホリーお姉ちゃんの行為は愛情が満ち溢れてるからね!」

愛情が満ち溢れる肉食獣って何だろう?

考えたら負けな気がするから考えない。ホリーは大半は優しさで出来てます。僕はそう信じてます。

拗ね拗ねモードで膝を抱いて体育座りをするお姉ちゃんがこっちを見る。

「……あくまで推理よ」

「お願いします」

「ノイエは施設に居た頃、一番仲良くしていたのがファシーなの。友達と言う意味でね」

新事実です。

「ファシーは知っての通り幼く見えたでしょ? だからノイエも友達感覚で彼女と一緒に過ごしてた。あくまで壊される前までだけど」

「なら似た感じなのはその時の名残?」

「そうかもしれないし違うかもしれない。『セシリーン。アイルローゼに伝えておいて』……これであの研究好きが調べるわ」

調査を丸投げする様子をまざまざと見せつけられましたよ。

と、お姉ちゃんがイジイジとベッドのシーツに指をあててグリグリしだした。

「良いのよ。今回も頑張ったのはファシーとカミーラとアイルローゼだから、お姉ちゃんはファシーに酷いことをしたと思われててアルグちゃんに冷たくされるし……裏方の地味な仕事なんて評価されないのよ」

完全に拗ねた。

「そんなこと無いよ? ホリーお姉ちゃんがずっと頑張ってくれたから全部上手く行った訳だし」

「でもアルグちゃんの愛を感じないわ?」

「一応僕が心から愛しているのはノイエな訳で」

「あん?」

だからそんな凶悪な目を最愛な人の顔に浮かべないで!

いそいそとベッドを移動してホリーを捕まえる。

座っていじけている彼女を腕で包み込むように抱き締めた。

「ありがとう。お姉ちゃん」

「……うん」

コクンと頷いてホリーの表情が柔らんだ。

「何かお礼がしたいんだけど……何が良い?」

「そんなの決まってるわ」

ニコッと笑ったホリーが抱きしめて居た膝を開放して……あっと言う間にマウントポジションだ。

「一晩中アルグちゃんを可愛がることよ」

だからそれっていつもと変わらなくって! あ~! だからそっちはらめぇ~!

(c) 2020 甲斐八雲