軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なら狩ってこい

「おーおーやっとるね。新人くん」

「ミシュ先輩」

「うんうん」

若干踏ん反り返ってノイエ小隊の執務室に入って来たミシュは、いつも通り隊長席で勉強しているルッテの様子を確認した。

その机の上に山積みにされた教本を見ると、自分はまだ良い時期に騎士に慣れたなと思う。

ただ先輩風を吹かせたいミシュはそのまま彼女の机に進み、終わっているらしい教本を手に取る。

軽く中を見て間違いを指摘してやろうと……開いた教本の中身を確認してから閉じる。そのままクルクルと丸めてルッテの脳天に振り下ろした。

「いたっ!」

「って、全部間違ってるとか何してたの? ねえ?」

「そんなことを言っても~」

叩かれた頭を押さえてルッテは涙目になる。

勉強とは無縁の人生を歩んで来た狩人の娘だ。数字なんて10の指を折って数えれば事足りるし、何より住んで居たのは読み書きなんて必要としない田舎の集落だ。自分の名前だって書けないのだ。

うるうるとしているルッテを見て、ミシュは自分の頭を掻いた。

相手の様子から全てを察することが出来たのだ。

「あ~。フレアの悪い病気が出てるわ~」

「病気ですか?」

「そう。あれは天才とか言われる類のお嬢様だから『分からないことは調べれば良い』と思ってるんだよね~」

呆れながらミシュはルッテがやった教本の内容を確認する。

綺麗に全滅だ。ある種芸術的だ。

「これはダメだわ~。指導役を間違ってるわ~」

「ふわわ。わたしダメなんですか?」

「このままだとダメになるわ~」

「あわわ~」

慌てるルッテを椅子に座らせ、ミシュは部屋を出て辺りを見渡す。見知ったメイドが居ないから、壁を叩いて知り合いを呼ぶ。

少しすると見知ったメイドが静々と歩いて来た。密偵衆に所属する女性だ。

「ちょっとルッテの勉強見ててあげて」

「……一応任務中なのですが?」

「分かってる。長には私が言うから」

「分かりました」

一礼をし部屋に入るメイドにルッテを押し付け、ミシュはその足で近衛団長の執務室へと向かった。

「……忘れてたな」

「お前が元凶か。責任を取れ」

「全く……」

書類の山に囲まれ疲れ果てているハーフレンに、ミシュはルッテの現状を告げた。

「それでルッテは?」

「アンナが居たから見て貰ってる」

「……任務中だろう?」

「知ってる。だから許可を取りに来た」

「……分かった。コンスーロに話をしてお前がやっとけ」

「面倒臭い」

やれやれと肩を竦めてミシュは、勝手にソファーに座るとメイドに紅茶の準備をさせる。

この部屋に付いているメイドは全員密偵衆だ。だから遠慮などしない。

「茶菓子も忘れるな~」

「遠慮しろ」

「知るか。部下をこき使って何が悪い?」

「全く……」

頭を振って椅子から立ち上がったハーフレンは、視線で待機しているメイドに指示を出す。

紅茶の支度をして来たメイドだけが残り、もう1人のメイドは外に出て扉を閉じた。

「何だよ~? 私と2人きりとか……まさかっ!」

「リミィが居るだろうが?」

「メイドなんて路傍の石ですって誰か言ってたよね?」

「親父だな」

「……」

流石はあの国王だ。言うことがあれ過ぎて……と言うか、最近の陛下はメイドに見せたがっているとも聞いた。

あの親から生まれたんだからこの子でも仕方ないのかと、何故かミシュは納得した。

「アンタの親父さんはメイドに手を出し過ぎだって」

「問題無かろう? 密偵には手を出していないしな」

「はんっ! 私の部下に手を出したらあれのあれをチョンと切る」

「分かった。陛下に進言しておこう」

「止めて~」

茶菓子を頬張りながらミシュは泣くという器用さを披露する。

「部下想いの上司なんだろう? お前は?」

「ならコンスーロのオッサンが言ったってことで」

「上司に罪を擦り付けるな」

盛大に息を吐いてハーフレンはミシュを見る。

ユニバンスの猟犬と呼ばれ恐れられる存在。

密偵衆の現場指揮官の1人であり、彼女から見れば上には統括のコンスーロと長であるハーフレンの2人しか居ない。

下を見ればこの国の密偵の大半が彼女の部下になる。

「なあミシュ?」

「なんだよう?」

「お前もそろそろ出世するか?」

「それはオッサンの跡を継いで統括になれってことか?」

「そう言うことだな」

「なら断る。私は面倒臭い事務仕事は嫌いだしね~」

紅茶を飲みつつ焼き菓子を食べるミシュは、まあ本心からそう言っているのだろう。

何より彼女は現場に出ることを望む人間だ。

「で、人払いして何か用?」

「ああ。仕事だ」

「だからさ~。王都での仕事は」

「敵の首はタインツの護衛として王都に来るムルイトだ」

ミシュは口の中の菓子を紅茶で押し流しカップを置いた。

「あれはエルダーの護衛でしょう?」

「そのはずだった。だが今朝来た報告だと、タインツはムルイトを連れてワヒルツヒを出た」

「どうやってあの糞爺を呼び出したの?」

「脱税容疑で国王陛下から召喚令状が出た」

「無茶するわ」

やれやれと肩を竦め……ミシュは股の間に手を置き、何となく天井を見上げた。

相手は師匠であるスィークに匹敵するとも言われているルーセフルトの用心棒だ。

その昔どっかの師匠がルーセフルト家を脅迫しに行き、その恐怖を忘れられなかったタインツが大金払って雇った傭兵。そんな人物が何故エルダーの護衛をしていたのかは謎のままだが。

「方法と場所の指定は?」

「今回は無しだ。狩れるのであれば好きにやれ」

フッと笑いミシュはその場から姿を消す。

扉の前に跳んだ彼女は、肩越しに主を見た。

「『あれば』なんてふざけるな」

「なら狩ってこい」

クルッと反転しミシュは一礼する。

「主人の御心のままに存分に楽しんでまいります」

笑う猟犬は解き放たれた。

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