軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宜しくおはようございます

肌を刺す冷たさはやわらぎ、積もっていた雪は解けて大地がぬかるむ時期となる。

王城の離れで食べては寝るを繰り返していたノイエは、目覚めると体を起こし辺りを見渡した。

クルンと触覚にも見えるひと房の髪を回し、その視線は窓の外へと向ける。

「ノイエ様」

「はい」

「本日はどう致しますか?」

「……ドラゴン」

「分かりました」

彼女が離れに住むようになってから、担当することとなったメイドは慣れたものだ。

主人であるノイエに床に立ってもらい、軽く寝間着を直して椅子を運び座らせる。サラサラの髪に何度も櫛を通し彼女の着替えを開始する。

『ドラゴン』と主人が言ったので、綺麗に洗われた寝間着では無く頭から着られるワンピース状の服だ。

「お食事は皆様とどうぞ」

「はい」

メイドたちに見送られノイエは離れを出る。

トコトコと歩いて決められた場所に向かうと、鎧姿の男性たちが彼女の姿を見て一斉に道を開ける。一直線に作られた道を通り、騎士たちが使う大食堂の入り口を潜り足を止めた。

停止すること暫し……白い少女の元にグシグシと目を擦る小柄な女性が来る。ミシュだ。

「あれ? 隊長が居る」

「……」

「隊長。ご飯はこっちですよ~」

ミシュは彼女の手を掴むと、食事を待つ騎士たちの列に並ぶ。

ノイエに特製の盆を渡し、ミシュはその前を歩く。メインとなるおかずは朝から肉だ。

それを山と盛ったノイエ特製の深皿を彼女の盆に乗せ、後は特製容器でスープと盆の隙間を埋めるようにパンを置く。

軽く5人前の料理を持ったノイエは、目の前に居る"小さい"人の後を付いて歩いてテーブルに向かう。

「良い?」

「どうぞ」

「……」

初手から骨付き肉に手を伸ばすのがノイエだ。無表情のまま黙々と食べる。

ミシュは自分の盆をテーブルに置くと、コップと水差しを掴んで戻って来た。

「スープはスプーンで」

「はい」

骨付き肉は骨を掴んで食べるのは大目に見ても、骨の無い肉を手掴みは周りの目もありフレアが許さない。水と一緒に持って来たフォークとスプーンをノイエの視界に入る場所に置いて、ミシュはようやく自分の食事を始める。

ただ周りには壁と言うか近寄りがたい空気が出来上がる。

ノイエが拒絶しているのではなく、周りの騎士たちがノイエを恐れて距離を置くのだ。

最初は大食堂に来たドラゴンスレイヤーに声をかける者も居た。

興味や好奇心。欲や実家からの指示など声をかける者たちの思惑は色々だ。

ただ全員が彼女の反応を見て諦める。まず会話が続かない。

基本ノイエの返事は『はい』か沈黙だ。自分のことを話さない彼女から日々の生活を聞きだそうとしても『ドラゴン』か『寝る』の二択だ。

無表情で感情も無くただ黙々と食事をし、外に出れば淡々とドラゴンを殺す存在。

いつしか彼女に声をかける猛者など居なくなった。

「あら? 隊長。おはようございます」

「……はい」

唯一例外はノイエ小隊の2人の副隊長だ。

女性騎士の中でも特に有名な2人……フレアとミシュだ。

フレアはその容姿や教養の持ち主であり、上級貴族クロストパージュの令嬢と言う肩書を持つ。何より第二王子の元婚約者と言う不名誉な称号まで持つのだから悪目立ちしている。

対してミシュは悪い方で有名だ。

『問題児。素行不良。売れ残り』などなど『何故それで騎士に?』の言葉が彼女の行いを聞けばついて回る奇異な人物だ。ただあのノイエを手懐けていると言うことで、彼女が騎士をしていることに対して不満を言う者は圧倒的に減った。

もし彼女が騎士を辞めさせられ後任に『自分が選ばれたら?』と想像し、周りの者たちが恐怖するのだ。

「フレア先輩。どこですか?」

「こっちよ」

「あ~はいはい」

お盆を手にワタワタと歩いて来る少女にミシュは呆れつつもコップを準備し水を入れる。

ノイエ小隊期待の新人……破格の祝福を持つ少女ルッテだ。

真新しい服を着て腰に下げる騎士見習いの紋章は新品で光っている。

叙勲式の後で急遽任命されることとなった彼女は、1人だけで国王陛下から叙勲されると言う拷問……名誉を受けた。

やって来てフレアの横に座り、ルッテはそこで初めて見る存在に気づいた。

自分と同じで鎧姿でない少女……と呼ぶには大人に見えて可愛らしくて綺麗な人をだ。

「先輩? この人は?」

「ああ。ルッテは隊長を見るのは初めてね」

「ふぇ?」

『隊長』と言う単語を聞いてルッテの背中に冷たい汗が拭き出した。

ノイエ小隊の隊長ノイエは、あの伝説の『ドラゴンスレイヤー』の称号を実質得ている人物だ。

何でも空飛ぶドラゴンを掴んで地面に叩きつけたり、口を上下に引き裂いたり、胴体から上下に千切ったりと大変恐ろしい行為に及ぶ人らしい。

それを知った両親など『今の仕事は辞められないのか?』と泣きながら言うほどだ。

でもルッテが見る相手は、とてもそんなことが出来そうには見えない。

身長は隣りに座るフレア先輩と同じくらいで、何より服の袖から覗かせる腕など細い。

「隊長さんなんですか?」

だから確認の意味を兼ねてルッテはそう質問していた。

「ええそうよ。彼女がノイエ小隊の隊長」

「まあ噂ばかり聞いてると、とんでもない大女とか化け物染みた存在を想像するよね~」

2人の先輩の言葉からしてどうやら事実らしい。

今一度ルッテは彼女を見る。

全体的に白くて……天眼で追えなかった人物に見えた。と言うかこの人だ。

「わわわ。わたしがルッテです。宜しくおはようございます」

まずは挨拶と思い慌てて挨拶したら物凄い言葉が口から出てしまった。

恥ずかしさで顔を紅くするルッテを、ノイエの赤黒い目が見た。

「……はい」

「ふぇ?」

「あ~。隊長に返事とか期待しない方が良いよ~」

「そうね。これから追々と慣れて知って貰うけど」

ミシュの言葉をフレアが引き継ぎ、苦笑しながら口を開いた。

「ウチの隊長はかなり個性的だから」

「だね~」

「……」

どうやらとんでもない場所に来たのだと、ルッテは気付いた。

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