軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう……ばかっ

「ミシュが謹慎? また何をしたの?」

「どうも好みの独身貴族に襲いかかったとしか」

「ああ。いつものことね」

去年はそれを何度やったか思い出そうとしてフレアは止めた。数えるだけ無駄だ。

報告書と一緒に残念なことを教えてくれた部下に挨拶をし、フレアは丸太小屋へと戻る。

男女共同となっている小屋の中は、色々と環境が悪い。

鎧のさび止め油の臭いが一番きつい。何よりここで着替えることもあるのでそれが精神的に来る。毎日普通に着替えるノイエがかなり羨ましく思える。

《問題はルッテの能力よね》

彼女を調査したコンスーロからの報告書には何度も目を通している。

破格の祝福とは確かにその通りだと納得した。どこからでも上空から覗けるのは正直脅威だ。

問題は能力を使う度に多くの食べ物が必要なこと。

あと発汗が多くなるらしく、今の時期なら新年の頃なら汗ばむぐらいで済むが夏期は何かしら配慮が必要だろう。具体的には服を脱いでも大丈夫な環境だ。

《もう1つ小屋の制作を上申しましょう。ルッテの能力の為なら許されると思いたいし》

他国に比べて緩いと言っても軍は基本男性中心の場所だ。

着替える場所が欲しいなど女性らしい上申は大半が許されない。

ため息を吐いてフレアは自分の髪を撫でた。

最近は髪を切らずだいぶ長くなっている。あまり気にしていなかったが、先日のデートで彼に指摘された。『短い方も似合うと思いますよ』と笑顔で言われから何故か気になるのだ。

今まで異性に髪の毛のことなど褒めて貰った記憶が無かったから。

「後ね」

今は髪のことより受け取った報告書が先だ。

報告書自体はいつも通りだ。ここに来るドラゴンなど5日に1体あれば多い方だし、何より男性陣は誰もが優秀な者ばかりだ。こちらが何か言わなくても個人個人で対応できる者ばかりだ。

だから報告書なんていつも通りの内容で、フレアはそれを隊長であるノイエの代わりに確認するのだ。

と、彼女の手が止まった。

報告書の間に挟まっていたのは、近衛団長からの打診だった。

『宰相様の施策の一環で、貴族の子弟や令嬢などを集めて一般教養を教えることとなった。場所は王城内で会場は空いてる部屋を使える。ただ教える者が誰も居なくて困っている。やる気はあるか?』

紙の真ん中に書かれた乱暴な文字。

それを指でなぞってフレアは小さく笑った。

人に教えると言うことには少し興味があった。ノイエの相手をしていて楽しかったのもある。

何より子供たちの相手は"あの場所"で嫌と言うほどした。そしてそれ自体嫌では無かった。

フレアは事務仕事を済ませると、『夕刻までに戻ります』と言葉を残し王城へ向かった。

「引き受けるって?」

「はい。ですがあくまで仕事の合間で宜しければ」

「そうか。問題はない。調整する」

「……」

調整は仕事の方なのか、休みの方なのか……上司である彼の指示には従うしか無いのでフレアは言葉を飲み込んだ。

「正直断られたら命令しようと思ってたから助かった」

「……」

追い打ちで物凄く酷いことを言われた気がする。

心の中で冷たい嵐を巻き起こしつつ、フレアはいつも通り相手を見つめる。

「それと今持って来たこれな……まあルッテの為と言うことなら周りを説得できるな」

「でしたらお願いします」

「分かった。兄貴……宰相様に回しておく」

手にしていた書類を山の上に置いてハーフレンは部下であるフレアを見た。

「それとミシュだが」

「聞きました。またやったそうですね」

「ノイエよりアイツの方が問題が多い気がして来たな」

呆れた様子でハーフレンが頭を掻く。

「はい。ですがあの隊長と普通に会話できるということで有名ですから、きっと他に転属させようとしても断られるでしょうね」

「そうだよな。まあ迷惑かけるが上手くやってくれ」

「分かりました」

自分ばかり苦労させられていると内心泣きながら、フレアは何となく自分の髪を指先で弄んだ。

「伸びたか?」

「えっ? あっはい」

「忙しいからって手入れはサボるな」

また書類に手を伸ばし、彼は視線を紙に向ける。

「お前の長い髪は本当に綺麗なんだから。手入れしないのは勿体無いぞ」

「……そうですね。彼に嫌われないように少し頑張ってみます」

「おう」

「では私はこれで。失礼します」

仕事をし続ける上司に軽く頭を下げ、フレアは執務室を出た。

本来ならルッテの様子を見て行こうと思っていたが……逸る気持ちを押さえられず、早足で廊下を過ぎて外に出て馬に乗る。そのまま城下を駆けて王都の外へと出た。

手綱を動かし馬を走らせ……もう良いだろうと溢れる涙を我慢しない。

分かっている。今の自分が抱いてはいけない感情だと理解している。

自分は相手に捨てられ、それを誤魔化すように自分には『彼が自分を自由にしてくれた』と言い聞かせているのだから。

だから我慢しないといけないのに……涙と一緒に笑みがこぼれて止まらない。

「分かってる。分かっているから……」

声に出して荒れる心の奥を必死に宥める。無理だった。

「もうっ! ハーフレンの馬鹿っ!」

顔を上げて涙を溢し笑顔で彼に怒る。

叫んだことで気が晴れた。だから……パンッと背中の魔道具を叩いて動かす。

目の前から来る蛇型のドラゴンに対して"影"を飛ばして両の目に傷を負わせる。

キィィィっと声を上げ上空に逃れるドラゴンは、やって来た白い影が捕まえると引き裂かれて運ばれて行く。それを確認してフレアは魔道具を戻した。

「もう……ばかっ」

色んな感情を込めてフレアは言葉を吐き出した。

以降フレアは自分の髪をとにかく大切にするようになった。理由はない。

聞けば彼女はこう答える。『だって私の髪は綺麗だから』と。

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