軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たいちょ~っ!

ユニバンス王国の王都郊外に作られたノイエ小隊の待機所。

森だった場所を斧で切り開き、得た木材で建てられた木の小屋が1つと言う素晴らしさだ。

便所などは木陰でこっそり。上級貴族の出であるフレアとしては我慢出来ない状況であるが、この場所が現在ユニバンス王国で最も戦闘の多い"最前線"と言われている。戦場である以上甘えは許されない。

木の枝に布を吊るして姿隠しを作ってくれた部下たちの優しさに感謝しながらも、用を足すときにふと現実に気づき軽く泣いたりもする。

だが気温の低下からそろそろ雪が降りだしそうだ。

雪が降ればドラゴンは何処かに隠れ、代わって無害と言われるスノードラゴンが現れる。そうなれば一応の休暇だ。

纏め終えた会計資料を鞄に入れ、フレアは軽く整理した部屋を出た。

もう休みに突入しても問題無いのだろうが、狩る相手が居る限り隊長であるノイエは止まらない。

唯一の救いはスノードラゴンを対象にしていないことぐらいだ。あれまで対象にしていたらノイエ小隊の休みなど年に2回しかない雨期だけになってしまう。

「これで良いわね」

最後に室内を見渡し小屋の鍵を施錠する。

振り返るとゼロ距離でノイエが立っていた。

「ひっ」

慌てて飛び退いて小屋の扉に背中を強かに打ち付け、フレアは顔をしかめる。

仕事を終えて戻って来たノイエは、狩った数が少ないのもあってか今日はまだ見れた格好をしている。それでも着ている革鎧や衣服は返り血で汚れ、尻まで届く長い髪も汚れていた。

「隊長。少しは拭いて下さい」

「?」

首を傾げる相手に呆れながら、フレアは木桶に水を汲んで来ると布を手にして彼女を拭く。

頭の天辺から革鎧を脱がせて首元や腕なども拭う。服を脱ごうともぞもぞ動くノイエを制し、そのままの姿で済ませる。

ドラゴンと言う恐ろしい生き物を退治しているはずの彼女の肌には傷1つない。

もう間もなく訪れる新年で14となる彼女は、出会って以降の狩りをして食べて寝ての生活が良かったのか、今年は驚くほど身長が伸びて女性らしい膨らみも目立つようになって来た。

「隊長はこのまま大人しくしてて下さいね」

「はい」

「動かなければ貴族の令嬢かと思うほど綺麗なんですから」

「はい」

いつもの気の無い返事にフレアは苦笑しながらも、彼女の全身を拭って終える。

別に拭かなくても彼女の体に纏わり付いたドラゴンの血肉は自然と流れ落ちる。それでもフレアはこうして拭くようにしている。愛情を注いだ分、子供は懐くと……その昔ある高貴な人に言われたからだ。

「はい終わりです」

「はい」

「ならいつものように帰っても良いですよ」

「……」

普段のノイエは仕事を終えると徒歩で帰宅する。本来ならドラゴンに襲われる可能性があるから決して出来ないことであるが、彼女はドラゴンの天敵……伝説のドラゴンスレイヤーと一部の貴族たちからそう呼ばれている。襲ったドラゴンは返り討ちにあって集積場に投げ込まれる運命だ。

でも今日のノイエは帰らない。ジッとフレアを見つめたままだ。

「隊長?」

「見る」

「はい?」

「ベッド」

「あっはい」

事務仕事をしててすっかりと忘れていた。何より相手がそれを覚えていたことにも驚いた。

余程今使っているベッドが嫌なのか……でもノイエが住んでいるのは王城の離れだ。使われているベッドも高級品のはず。

「なら王都のお店に向かいましょう。急がないとお店が締まってしまいますし」

時間と約束を忘れていたことが裏目に出た。急いで行かなければ店が閉まってしまう。

フレアは自分の馬を連れに行こうとして、不意にノイエに掴まれた。

『何か?』と思った瞬間には、彼女に抱きかかえられる。

「たっ隊長?」

「急ぐ」

「たいちょ~っ!」

ドップラー効果で声を残しながら、ノイエに抱えられたフレアはそのまま高速移動で運ばれて行く。

その後ろ姿を見送った部下たちは……とても穏やかな眼差しを向けつつ胸の前で手を合わせた。

「んっ」

正面からベッドのマットレスに飛び込む。コロコロと左右に転がると、ムクッと起き上がり次のベッドに移動して同じことを繰り返す。

店に着いてからお手洗いを借りて胃の中身を全て吐き出したフレアは、まだその顔色を蒼くしたままで家具店の定員から水を貰い体調の回復に努める。

ノイエは店中のベッドを確認したいのか、全てのベッドに飛び込んで同じことを繰り返していた。

その様子はどこか子供っぽくて見てて気持ちを穏やかにさせるが、彼女は恐ろしい力を持つ存在。

万が一に備えフレアは自身の背中に付けている魔道具を動かせるように椅子に浅く座り相手を見守る。

「んっ……んんっ」

コロコロとベッドの上を転がっていたノイエが起き上がらない。ずっとコロコロを繰り返している。

どうやら気に入ったらしいのでフレアは店員にノイエが寝ているベッドを確認した。

「あのベッドは?」

「はい。当店で一番の品物になります」

何故どの店に行っても一番の品物がこう出て来るのだろう?

胡乱気な視線を向けるフレアに店員は動じることなく言葉を続ける。

「著名な職人が原価を無視して作った一品です。余りにも原価を無視したためにその職人の工房はあれが完成すると同時に店じまいする事態に陥りましたが、職人と付き合いが長かった店主が預かると言う形で当店で販売しております」

「……」

どうやらいつもの常套句では無く本当に店一番の一品らしい。

うつ伏せで動きを止めたノイエが多分寝ている様子からあのベッドが良いらしいのは分かる。

1人で使うには広すぎるが、王城の離れの部屋なら置くことは出来る。むしろベッドのみの部屋になりそうだが、自室を寝所としか使っていないノイエならあれで良いのだろう。

「ならあちらを頂けますか?」

「宜しいのですか?」

「……と言いますと?」

店員の確認の後にその意味が分かった。提示された額はベッド1つの値段では無い。

軽く腰を抜かし掛けながらも、ドラゴン退治で高給取りのノイエなら払えない金額ではない。

ノイエに代わり購入手続きをしたフレアは……ベッドから離れないノイエをそのまま搬入する手配で頭を悩ませることとなった。

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