軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちょっと、かなり、危ないです~!

新年を迎えたユニバンス王都は、例年になく華やいでいた。

共和国より長子であるシュニット王子に姫が嫁ぐのだ。

共和国は共和制であり姫と言う名称は使われないが、彼の国が名ばかりの共和制であるのは共通の認識なので誰も指摘などしない。

豪華な馬車が共和国より長い隊列を作りユニバンス王国へと来る。

新年で浮かれる国民たちは、次期王妃となる姫をひと目見ようと街道に鈴なりとなるが……固く閉じられた窓が開かれること無く王城へとその列は入って行った。

「こんな時は国軍が頑張って欲しいよな」

「おい馬鹿王子?」

「数年前までは国境で殺し合いをしていた相手だぞ? それを歓迎するとか……違った意味で負けた気がするんだよ。気分だがな」

「言いたいことは分かるけどね」

近衛団長の正式な衣装を身に纏ったハーフレンは、馬上の人となりやって来た隊列を出迎える1人となっている。彼の馬の傍で控えているのはこれまた女性騎士の正装をしたミシュだ。

新年の祝い酒で酔い潰れた彼女が呼び出された理由は簡単。やって来た共和国の者たちの中に不穏な動きをする者が居ないか監視させる為だ。

「で、動員数は?」

「ほぼ全員だ」

「だから見知った顔がメイドの姿とかしてるんだ。ってアイツ……男よ?」

「遠目に見れば女に見えるだろう?」

「女装させられるとは可哀想に。後で女性用の下着を差し入れしてやろう」

周りが近衛の精鋭……ハーフレンが一番信用している者たちばかりだからこんなふざけた会話も出来る。 出来るが遠慮なくタメ口を使える女性騎士の存在に、周りの騎士たちはその背中に冷や汗を垂らしていた。

「で、隊長とフレアは?」

「あっちは離れで待機だ。フレアは見張りだな」

「はんっ」

「何だよ?」

「……隊長が居た方が楽しいことになるかな~って。いてっ」

軽く爪先で馬鹿の頭を小突いてハーフレンはため息を吐いた。

「ノイエは今回病気で自室待機ってことになっている」

「隊長が?」

「ああ」

普段なら頭を掻くところだが、場所が場所なだけにハーフレンも我慢する。

「共和国がノイエの体質と言うか祝福を理解しているのは分かっている。だが相手はそれを露骨に言うことは出来まい? 今回だけの緊急措置だ」

「二度目は無いね」

「そうなる。次の雨期に行われる成婚式の時は別の理由を作らんとな」

「頑張れ~」

「お前がなっ」

また爪先で馬鹿を小突いてハーフレンは深くため息を吐いた。

「ん」

「どうぞ隊長」

「はい」

良く分からないが起きてから豪華な食事が出される。ノイエはそれを口に運んでは食べ続けていた。

フレアが考えた作戦はシンプルな物だ。食事を与えて満腹にさせて眠らせる。

ドラゴンスレイヤーと呼ばれる相手に使う作戦では無いと内心で呆れつつも、フレアはその作戦を使うしかない。気紛れで外にでも出て共和国の列でも覗きに行ったら……想像を絶する始末書を書かされそうな気がしてフレアは穏やかな笑みを浮かべた。

「さあ隊長。今日は何を食べても良いですよ」

「……お肉」

「分かりました。丸焼きでも何でも持って来て」

メイドに指示を飛ばしフレアは決して彼女の傍から離れない。

ノイエは普段通りの無表情で鳥の丸焼きをペロリと食べきるのだった。

「決まりごとはまだ終わらんのか?」

「見てて飽きるよね~」

使者らしき者が共和国の元首からの手紙を延々と読み上げている。

どうせ中身は書記官が書いた物で、元首などは最後に署名をササッと書き入れるぐらいだ。

それを偉そうに読み上げている使者の言葉を延々と聞かされている父親と兄には、本当に頭が下がる思いだ。

「おっ」

「終わったね」

折り畳まれた書状が豪華な筒に入れられ国王ウイルモットに手渡される。

ようやく何かしらの動きが生じる様子に護衛をしている者たちに緊張が走る。

「あれだな。馬車の中に居る姫さんも可哀想だな。あの中に暖房とかあるのか?」

「魔道具とかあるんじゃないの? 昔はユニバンスもその手の物を作って売ってたし」

「ああ。戦時中でもその手の物は売れたからな」

戦争していても経済は回る。

需要と供給で、ユニバンスは生活用の魔道具を作らせて売っていたこともある。

「そんなると……敵は尿意か?」

「おおう。なんとなく忘れていた現実を思い出させるなよう」

「何だ? 我慢出来ないならそこら辺の端でして来い」

「おおう。わたしが女だって忘れて無いか?」

「お前だったら周りなんて気にせず立ったまま出来るだろう?」

「そうそう。あの開放感がって馬鹿か。死ね」

不敬を通り越した発言に周りの近衛の騎士たちが蒼ざめる。

「ああ。もう帰りたいな。早く終われよ」

「激しく同意」

仲が良いのか何なのか、見て聞いている方としては心臓に悪いが……近衛団長は終わりまで居るしかない。

と、女官らしき者が馬車の扉を引き開ける。

取り付けられた台を踏んで、ふわりとしたドレスを纏った少女が飛び出した。

共和国の国家元首一族に見られる黒い髪では無く、焦げ茶色をした髪をフワフワと揺らした幼い姫は、周りの制止や声など気にする様子はない。

「お手洗いは何処です~。ちょっと、かなり、危ないです~!」

姫様の緊急事態を告げる言葉にその場に居る全員が肩を落とし呆れる。

『うな~です~』と叫び駆けて行く姫の背中を見つめたハーフレンは、ポンと手を叩いた。

「ミシュよ」

「おっおう」

流石のミシュも圧倒されたのか、ぎこちない視線を主に向けた。

「信じられるか? あれが俺の義理の姉なんだぞ?」

「……楽しそうで良かったね。うん」

とりあえずハーフレンは爪先を馬鹿の後頭部に突き刺した。

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