軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの馬鹿を呼び戻すか

「フレア様。それはちょっと」

担当官である女性が慌てた様子でフレアの前に回り込む。

だが懐から1枚の紙を取り出しそれに書かれている書面を見せながらフレアは告げる。

「国王ウイルモット様のご命令です。『ノイエをドラゴンの前に連れて行け』とのご指示です」

「ですが」

「拒否すると言うならばそれは王家に対する反逆行為となります。それでも良いのですか?」

務めて冷静な声でフレアは相手に語り掛ける。

分かっている。ノイエは色々と問題があるが素材としては一級品だ。

魔法使いや研究職なら色んな研究に使えるかもしれないと考えてしまう。それは本来の魔法使いのサガだ。フレアとしてはそれを非難などしたくない。

ポンと相手の肩に手を置いて、フレアは静かに告げた。

「私は師である人を捕えることにも加担した女です」

ハッとなり相手はフレアの顔を震える目で見つめる。

「これ以上同じ学院の者を捕えることなどしたくありません」

言って相手の肩を押し、フレアは廊下を進む。

納得して貰わなくても気持ちが伝われば十分だとフレアは思った。

いつも通り扉の前に立ち、軽く呼吸を整え……ノックをして開けた。

「おはようございます」

「……」

部屋の中を見つめたフレアの視線は自然と床に向く。

住人であるノイエは全裸で床の上を転がっていた。

年齢の割に意外と膨らんでいる胸に軽く嫉妬も覚える。自分がこの頃は……と考え軽く頭を振った。

観察の結果、どうやら下着を履こうとしてこのような状況に陥ったようだ。どうしたら下着を履こうとして床を転がる事態に陥るのかはフレアですら理解は出来ないが。

相手を立たせ、白い下着を履かせてやって白いシャツも着せる。

「ノイエさん」

「はい」

「今日は外に……この学院の外に出ます。良いですね?」

「はい」

返事は良い。

いつも迷いのない……たぶん何も理解していないからの返事だとフレアもそれぐらい分かるようになった。

乗って来た馬に2人乗りし、前に少女のノイエを座らせる。

背後から相手を抱く感じで手綱を持って……向かうは王都郊外だ。

城門で手続きを簡素化させるために実家の紋章を見せ、あっさりと外に出る。

並足で馬を進ませていると前に座らせているノイエが辺りをキョロキョロとしだす。

てっきりドラゴンを恐れているのだとフレアは思った。普通ならそうだ。

自分には魔道具があるから1匹程度のドラゴンなら追い払うことが出来る。ただ無理使いをし続けて来た結果……魔道具の寿命が確実に短くなって来ているが。

「大丈夫。この辺りにはそんなにドラゴンは」

「……居る」

「えっ?」

不意に抱きしめて居たノイエが消えた。腕の中からスッと消えたのだ。

手綱を引いて馬を止め、フレアは慌てて辺りを見渡す。彼女の姿はない。

《まさか逃げ出す為の演技だった?》

慌てる自身の心を落ち着かせ、フレアは馬を降りる。

魔法を使えないノイエが姿を消すなど想像もしていなかった。

《どうすれば……えっ?》

確かに見えた。見えたのだが、それをフレアは疑った。

今一瞬……ノイエが蛇型のドラゴンを抱えて放り投げていたように見えた。

気のせいだと思いたかったが、離れた場所で土煙が上がった。たぶん幻覚で見たノイエがドラゴンを放った方角だ。

《まさか?》

それから何度か土煙が上がり続け……しばらくするとノイエが戻って来た。

戻って来たが着ていた服などがボロボロで肌を露出させた状態だ。

「……お腹、空いた」

「えっ?」

言って棒立ち状態になったノイエは、そのまま動かなくなった。

「フレアよ?」

「分かってます。分かっています」

自分が提出した報告書を読んだハーフレンが何とも言えない視線を向けて来る。

今日の日中……8頭のドラゴンが王都郊外で圧死した状態で発見された。

その場から逃げ出すと言うか移動する女性の姿を目撃した巡回の者から報告が宰相まで届き、真っ直ぐ近衛団長に降りて来たのだ。

結果として謎の人物が自分の部下だと理解したハーフレンは、彼女を呼び出した。

フレアも呼ばれることを理解していたのか、事前に作成していた報告書を持参してやって来た。

「あれをノイエがやったと?」

「はい」

「魔法も使わずに?」

「いいえ。たぶん使いました」

「どう言う意味だ?」

フレアは返事に困る。

あれを説明する丁度良い言葉が無いのだ。

「ノイエはたぶん魔法では無く術式の類を使ったのだと思います」

「だが彼女にはプレートは無いと……」

不意にハーフレンは違和感を覚えた。

ノイエの報告書には確かこうある。『ノイエには解除不能な術式が存在する』と。

「俺は魔法に関してははっきり言って無知だ。だから素直に聞く。ノイエにはプレートが存在しないが、術式は存在するんだよな? 意味が分からん」

彼の様子にフレアは小さく息を吐いた。

日々のノイエの異常性に目が行ってしまい彼女の魔法に関することを忘れてしまっていた。

何より自分はあの魔女の弟子であったが術式は知識を持っている程度なのだ。

「あの子は色々と問題が多く何より魔法が使えないから術式のことなどすっかり忘れていました。ですからここに来る前に学院からの報告書に改めて目を通しましたが……たぶんノイエはプレートでは無い何かに術式が刻まれ、それを体の中に埋められているのでしょう」

ノイエが内包する術式は、魔法学院でようやく解明を始めた物だ。

参照がてら添付されていた魔法式の断片的な写しに……フレアは自分の目が腐ると思った。

砂浜で落した一粒の砂を拾って来いと言われたような絶望感を覚えた。

好きな者なら一生を費やして解明したくなる一品かもしれないが、一生を費やしても解明できるのかすら怪しい。

物思いにふけるフレアに小さく咳払いをしてハーフレンが目を向けた。

「……全てお前の憶測だよな?」

「はい」

だがフレアには思い至る記憶がある。

よく一緒に遊んだ異国の少女は全身に刺青と言う方法で術式を刻んでいた。

考えたくは無いが……ノイエもまた『禁忌』の類で術を刻まれているのかもしれない。

「もし究明するのであれば、先生……キルイーツ先生に依頼して徹底的にノイエの体を調べて貰うことが必要かと思いますが?」

「そうだな」

ハーフレンは軽く目元に手を当て、自身が使っている机の引き出しから一通の手紙を取り出す。

迷うことなそれをフレアに向けてくる。受け取ったフレアは内容に目を通した。

『ノイエと言う少女の調査に関しては今後一切手伝う気は無い。もし命令や無理やりにと言うなら、私はこの王都を、この国を出て旅することとする。あの子の生まれた地を見てみたいしな』

筆跡に癖があった。何度も"彼女"の元に届いた文章を読み覚えていた。

つまり彼は、最初の診察でその可能性に気づき事前にこんな手紙を書いていたのだろう。

自分が大切にしていた養女と同じ傷を持つかもしれないノイエと接したくないから。

「……正直あの人には恩があるからな」

母親を救って貰った恩を持つハーフレンとしては、キルイーツを追い詰めるような仕事をさせたくない。この件に関しては兄や父親も納得するはずだ。

「ノイエの術式に関しては学院に任せよう」

関係はしているが解明するには時間のかかる案件だ。

「話を戻して……ノイエはドラゴンを退治できるんだよな?」

「間違い無く」

出来ると言うよりやってみせたのだ。

その事実を目撃したフレアとしては、嘘を吐く理由が無い。

幼馴染であり最愛の人物の返事を見て……ハーフレンはため息を吐いた。

「このことは全て宰相殿に報告する。陛下にも伝わるだろう。場合によってはお前も呼び出され質問されるかもしれんが……まあその時はありのまま答えろ。良いな?」

「はい」

「なら戻って良い」

「失礼しました」

退出した彼女の背を見送りハーフレンはガシガシと頭を掻いた。

「何か悪い予感しかしないな。仕方ない。あの馬鹿を呼び戻すか」

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