作品タイトル不明
馬鹿です。それも酷い
「フレアよ?」
「詳しく聞かないで下さい」
「と言ってもな……」
受け取った報告書を一読したハーフレンは、何とも言えない表情で相手を見た。
彼女が嫌がらせの類でふざけた書類を作ったりはしないと信じているので、この報告書の内容は『正しい』のだろう
「俺は魔法は全くダメなんだが……魔法も使えないのにこの国一番の魔力量っておかしく無いか?」
「ええ。普通に考えればおかしなことです」
普通に考えなくてもおかしい。
初歩的で広く知られている一般的な攻撃魔法を使わせるだけで、あのノイエと言う少女は恐ろしい兵器になる。魔力が途切れないから延々と同じ魔法を撃ち続けることが出来るのだ。
どんなに初歩の魔法でも質より量で放たれ続ければ圧倒的な武器になる。そんなことどんな馬鹿でも考えついて実行するはずなのに、だ。
「魔法語は読めないんだな?」
「はい。幾つか書いて見せましたが全く」
「誤魔化している様子は?」
「話した様子からはそのような感じには思えません。たぶん本当に読めないのだと思います」
『読んでみて』と渡した発火の魔法語を見たノイエは一生懸命に読もうとしている様子だった。でも読めない。その様子に落胆するフレアに気づくと、彼女は今まで以上に頑張ろうとする。
まるで何かに怯えるように必死にだ。
「あの施設でどんな教育をしていたのかが分からないので何とも言えませんが……たぶん彼女は魔法の教えを受けていません」
「そうか」
ガリガリと頭を掻いて彼は顔を歪める。
自分同様にこんな報告書を上に届けることがどれ程苦痛か理解しているのだろう。
「唯一の知識は……ドラゴンに関してか?」
「はい。あの施設が一応対ドラゴンの兵器作りと言うことですから」
「だからって魔法も教えないで何させる気でいたんだよ? 馬鹿か?」
「遠慮なく言わせていただけるなら……馬鹿です。それも酷い」
「だよな?」
『あ~っ!』といら立ちの声を上げていないが、彼がガリガリと頭を掻くのを見てフレアは何とも言えない気分になる。また上から色々と言われているのだろう。
確かに素材だけ見ればノイエは底無しの才能を秘めている。それを全く生かされない教育をされているが。
ドラゴンの知識だけがずば抜けていて、死ににくく魔力量はこの国一番……本当に悪夢だ。
疲れた様子で肩を落とし、ハーフレンはその目をフレアに向けた。
「お前だから言うが、上からノイエが使えるならドラゴン退治にと言う意見が出ている」
「彼女をですか?」
「ああ。そうだ」
「まだ12の少女ですよ?」
渋面になったハーフレンが嫌々言葉を続ける。
「数年前まではそれぐらいの年齢なら戦場に出ていただろう? それを理由に、とある貴族を中心に馬鹿な貴族たちが物凄い勢いで突き上げて来ているんだそうだ。
たぶん演技だろうが一応陛下は反対している。でも兄貴が動いてないから上も『使えるなら』と思ってるんだろう」
やれやれと首を振る様子からフレアは悟った。
彼の立場では1人反対するのも難しい。何よりドラゴンの被害は右肩上がりに増加している。
ただ国王ウイルモットも乗り気だと知ったフレアは、何とも言えない気持ちにさせられる。あの子……ノイエはどう見ても戦いには向いていないように見えるからだ。
何より許せない存在が居た。
彼女が戦えないと知ってるはずの者が中心になって騒いでいるのだ。
「騒ぎの中心は、ルーセフルト家ですか?」
「ああ。ノイエをこっちが奪ったことを糾弾せずに、手のひらを返して『王家はドラゴンを退治できる者を匿い独占している』と被害に遭っている貴族たちに言って回っているんだ」
「厄介ですね」
「厄介だよ……あのエルダーと言う男はな」
もう一度ため息を吐いてハーフレンは頭を掻きむしる。
頭を使い過ぎた時の彼の癖だ。『もうこれ以上俺の頭を使わせるな』と行動で告げているのだ。
フレアは今一度自分の頭の中から『エルダー』の知識を引っ張り出す。
あのルーセフルト家で現在最も力を持つ人物だ。
本家筋では無いが、分家で本家に近しい血筋であることもあり、彼は何かと重宝されている。何よりその政治力は現宰相のシュニットに匹敵する。
ただシュニットが内政向きだとしたらエルダーは外交向きだ。
交渉など広く扱い、そして噂では第三王子のアルグスタの教育係だと伝わっている。
「猟犬を差し向けたらどうですか?」
厄介で面倒臭いのであればそれが一番だとフレアは判断する。
何なら自分が出向いて殺害しても良い。彼がこんなにも苦しむ相手ならそれが良いに決まっている。
ハーフレンは軽く両頬を叩くと顔を上げた。
「エルダーにはムルイトが付いている。あれの実力はどこぞの化け物メイドに匹敵するとか」
「そうですか」
相手が何であれ必要なら両方の命を狙うまでだと、フレアはその2人の情報を重点的に集めると決めた。
「話を最初に戻すぞ? ノイエを……と言うよりドラゴン退治をどうにかしないと貴族たちは王家に不信感を募らせる」
「そうですね」
「……どうにかならんか?」
一度天井に視線を向け、フレアはため息と共に視線を戻した。
「明日にでも出向いて確認してみますが……ご期待なさりませんように」
「ああ済まんな」
告げて立ち上がったハーフレンは軽く腰を回すと部屋を出て行こうとする。帰宅するには少し早い気もするが……そう思いついフレアは相手を呼び止めてしまった。
「どちらに?」
「帰るぞ。朝からずっと仕事していたから色々と疲れた」
「……そうですか」
自分はまだやることがあるのに……一瞬だけ殺意を覚えたがフレアはその気持ちを飲み込む。
ハーフレンはそんな彼女に追い打ちをかけて来る。
「それに妾が5人も待っているしな。早く帰らんと寝るのが遅くなる」
「…………そうですか」
先ほどまでの言葉とは打って変わり冷ややかで凍り付くような気配すら見せる。
半ばキレつつも表情に笑みを浮かべフレアは彼を見る。
「ならお早くお帰り下さい。後は私がやっておきますので」
「お~。頼んだ」
軽い足取りで出て行った彼を見送り、フレアは自分の背中を叩いて魔道具『影』を動かす。
主人が居なくなった椅子に対して、彼がその場に座っていたら何十回は死んだであろう攻撃を繰り出し留飲を下げるのだった。
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