軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの人なら何て言うのかしらね?

「初めまして。私はフレア・フォン・クロストパージュと言います。フレアと呼んでください」

「……」

白いシャツを着せられた全体的に白い少女とフレアは初めて対面した。

綺麗な白銀の髪。傷1つない白い肌。何より特徴的なのが赤黒い瞳と触覚のように前へと飛び出ているひと房の髪。

赤黒い瞳は大陸南西の魔法に長けた山間部族の特徴と一致しているが、彼女は生粋のユニバンス人だ。

施設に売買証明が残って居た。彼女を拾ったらしい人買いは、簡単なメモを残していた。

北部の王都寄りの川岸で口減らしにでもあったのか、うち捨てられていたそうだ。

《先生以外で他人の目を移すなんてことが出来るとは思えない。何より成功例がほとんど無いと言いう話だったし……魔法で何かしたのかしら?》

ジッと少女の瞳を覗き込んでいたフレアは顔を上げるともう一度優しく笑いかける。

年齢は12だと言う。それは少女の口から確認したことなので間違い無い。

「今日からしばらくここに来て少し話をしたいのだけれども良いかしら?」

「……はい」

「そう。良かった」

向かい合うように椅子に腰かけフレアは正面から少女を見る。

「なら名前を聞かせてくれるかしら?」

「ノイエ」

「家名とかは無いの?」

「……」

小さく首を傾げる様子に一般の出だと判断する。

それからいくつか質問をし、フレアはノイエに別れを告げて部屋を出た。

出てすぐ……その場でしゃがみ込んだ。培ってきた何かを根底から覆された気分だった。

人は話しながらでも色々と思考し、それが顔などに微かな変化をもたらす。だが対面したノイエは全く表情が動かない。無表情で固定されそれこそ人形とでも話している気分になって来た。

《徹底されて教育されているのか……それとも他に理由があるのか》

気持ちを入れ直し立ち上がったフレアは、施設を出るため歩き出した。

《考えられるのは……魔法しかない》

先に診察をしたキルイーツは彼女に身体的欠陥や損傷はないと断言している。

それもまだ処女であるとも。その項目はフレアが静かに黒いインクで塗り潰した。

今度会ったら亡きあの人に代わって一発ぐらい殴っても良いだろうと思う。

《異国の魔法だとしたら想像も出来ない》

一般的な物なら広く知れ渡っているが、各国ともに魔法を研究し独自の魔法などが数多く作られている。

《リグの魔法のように滅んだ国から流出した類の物なら良いのだけれど……》

手に持つとして預かった彼女の簡単な書類を握り直し、フレアは何となく息を吐いた。

魔法学院を卒業し、魔法使いとしての職では無い自分が未知の魔法に挑むなどおかしな話だ。

《あの人なら何て言うのかしらね?》

研究棟を出てチラリと視線を巡らせる。

かつて通った研究室は封鎖されたと聞いている。研究室内の資料の大半は持ち出され何も無い部屋だけが残るのみだと。

《……こんな場所に来て感傷的になっているのね。それに先生にも会ったし》

キルイーツとてこの場所に来るのは心苦しかっただろう。

彼もここで可愛らしい養女と共に狂ったような騒がしい毎日を過ごしたのだから。

「嫌になるわね……本当に」

その言葉を残しフレアは魔法学院の敷地を出た。

自分が考えすぎだった……と気づいたのは、3回目の挨拶でのことだ。

「ノイエさん」

「はい」

「私の名前は?」

「……」

クククと少女の首が横に傾いて行く。

思い出そうと努力しているのだろうが、その努力が実らないこともある。

「誰?」

「フレアです」

「はい」

うんうんと頷いた少女は、どこか『今思い出したから』と言いたげな様子にも見える。無表情だが。

こんな感じだ。前回も同じ感じの受け答えをしたが、今回もそれだった。と言うより毎日顔を合わせている学院の担当官ですら同じ対応をされるらしい。

死ににくい体と信じられないほどの魔力を持つ少女は……人間としての何かがゴッソリと欠落しているのだ。だから学院の検査で何か不都合は無いかと聞いても返事は無い。不都合なのが分からないのもあるが、何より検査されたことですら忘れているのだ。

兵器として考えれば都合は良いだろう。

使った時点から忘れて行くのだから精神がすり減ることは無い。それを考えて彼女をこんな風に作り上げているのなら余程の天才の指示だと思われる。

「現状は厄介でしかないけど」

本日も資料室と銘打たれた部屋に戻って来たフレアは頭を抱えた。

減らない報告書も頭痛の種だが、あの『ノイエ』と言う少女は想像を絶する厄介者だ。

彼女を学院の研究室に預けて15日。分かったことは少ないようで多い。

魔法はほとんど使えないらしい。複雑怪奇に絡み合う術式のような物をその体に宿している様子だが、キルイーツの診察で彼女の体内にプレートが埋め込まれていないことが分かっている。

頭は悪くなく文字の読み書きも出来る。だが魔法語は読めないらしい。

この国で一番の魔力量を個人で持つのに魔法が使えないのはおかしい。

一番おかしいのは1人だと着替えすら出来ないのだ。

ご飯を食べることは出来るが基本手掴み、着替えは出来ずお風呂も自分で体などを洗えない。

化け物を作っていたらしいあの施設は本当に何を作りたかったのか……何よりそれを上に報告しなければいけないフレアとしては、本当に頭痛の種が無くならずに改めて頭を抱え直した。

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