軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人生博打の師匠が何を?

彼は偶然それを見つけた。

化け物の管理役として随伴を半ば強制的に命じられ連れて来られた。

何かあったらすぐに逃げられるように列の一番後ろを歩き、そしてユニバンスの王弟を見てサッと茂みの中に飛び込んだのだ。

ズリズリと地面を這って進んでいたら、目の前に見覚えのある金髪が居た。

あの日……ユニバンス王都で自分を苦しめたあの糞王子だ。

腰のナイフに手を伸ばし、気づかれないように匍匐前進を続ける。

十分に近づいて彼は立ち上がった。

「くたばれ! この王子!」

背後から声がしたから反射的に前に飛んだ。

良く分からないけど綺麗に回った。回ったからまた起き上がれた。

頭を巡らせると、ナイフを振りかぶった男と目が合った。

誰でしょうか? こんな鼻の曲がった人に襲われる筋合いは無いんですが?

「死ねやっ!」

「にゃはっ!」

動物的な勘で飛び退いたら回避できた。

でもヤバい。結構大ピンチだ。

僕って普段から武器とか携帯していないから……またナイフがっ!

「死ねっ!」

「うりゃっ!」

掠った。胸元をナイフが掠ったよ!

『助けてノイエ~!』と胸の中で叫んでみるけどピンチは継続だ。

武器……ええい。何も無いよりか!

「くたばれ!」

両手で掴んだナイフを男が振り下ろして来る。

咄嗟に突き出した右手から生じたハリセンが相手の頬を打った。

「ぐおっ!」

会心のカウンターが決まったけど……所詮ハリセンでした。

「舐めるなっ!」

相手の怒りを増す効果を発揮しただけで僕のピンチは変わらない。

終わった~と思ったら、また両手を振り上げた男が……グリンと両目を白目にして崩れ落ちた。

「……こんな所で何をしているのですか? アルグスタ様?」

男が崩れて開けた視界の先に……黒い髪をポニテにした日本人っぽい女の子が、右手にカタナを握って立っていた。

「モミジさんっ!」

「はい?」

小首を傾げる彼女の様子にイラッとする。

分かってます。弱い自分が悪いってことは……でも本当に怖かったのです。

「遅いよ馬鹿っ! 何してんだよ!」

「……はふっ! ちょっとお花摘みに」

一瞬で頬を赤くした彼女が、太ももを擦り合わせる感じで茂みの奥へと早足で移動して行った。

立ち上がった魔女を前にノイエは動けなくなっていた。

まただ。また……これだ。

あの抱き付いて来てベタベタと触って来る人と同じ、体の中にドラゴンが居る人だ。

軽く頭を振ると周りから同じ気配を感じる。

「む~」

面白くない。このドラゴンは殴っても倒せない。

自分だと倒せないから彼の"あれ"が必要だ。

チラリと視線を向けると、彼が誰かに襲われていた。

地面を蹴って駆け寄ろうとして、ノイエは自分の肩を掴まれたことに気づいた。

「何処に行くの? お前の相手は私よ?」

頬まで裂いて大きな口を開いた女に押された。

地面に向かい肩を掴まれたままで一気に叩きつけられ、右肩からボキッと鈍い音が響くのを聞いた。

「逃がさない。お前を殺す……殺すわ」

「邪魔をしないでっ!」

地面を蹴って立ち上がり、また彼の元に行こうとするが掴まれ地面に叩きつけられる。

それでも彼の元に行こうとしたら、黒髪の人が近くに居た。

大丈夫だ。でも助けられなかった。

ノイエは立ち上がると……自分の前に居る人物を見た。

「邪魔を」

「ん?」

「邪魔をするからっ!」

全力で拳を握って殴る。

邪魔をされなければ、きっといっぱい頭を撫でてくれたのに。

ノイエは両の拳で魔女を殴り続け出した。

「おい馬鹿王子!」

「何だ売れ残りっ!」

「思ったより相手が強い!」

「奇遇だな。同意見だ!」

胴斬りを振り回し、相手との距離を作る。その隙間に飛び込むようにミシュが移動するが、相手はその攻撃を先読みでもしているかのように余計に間合いを取って回避する。

距離が詰められない。ならばと魔法と矢に期待するが、そっちも対応されていた。

フレアが扱う砂鉄の影に対して土の壁で塞がれる。ルッテの矢も同じだ。

「ジリ貧ですね」

短剣を鞘に戻したスィークが相手の動きを観察する。

受けた祝福の効果が切れたらしくもう攻撃が通じないのだ。

「ザッと半数残ってますが……誰か何か案はあるかしら?」

「「……」」

全員の沈黙にスィークは盛大なため息を吐いた。

「これだから最近の若い者は」

「だったら何か対策があるのかババア!」

「無いから意見を募っているのです。あったら命じてます」

「なら偉そうに言うなっ!」

やれやれと肩を竦める師匠に弟子がマジギレした。

ハーフレンはチラリと背後を確認し声をかける。

「フレア。もう1つの影はどうだ?」

「無理よ。あれだと強度が足らなくて拘束しきれないわ」

「となると……アルグをここに連れて来て祝福の追加を受けるしか無いな」

戦いながら全員の視線が木々に隠れるアルグスタに向いた。

『どうする?』と口を動かし問い合わせて来るアルグスタの姿を見て……皆の心が1つになった。

全員で『死んでしまえ』と口を動かしはっきりと気持ちを伝えた。

「本気の殺意は後回しにして……問題は現状の打破です」

年長者であるスィークは軽く息を吐くと、アルグスタとの距離を確認した。

自分の足なら往復できる。ただ相手に自分の速度に追いつける者が居れば終わる。

「賭けは好きでは無いのですがね」

「人生博打の師匠が何を?」

「ミシュ? 後で殺します。いいえ。今やります」

「本気かいっ!」

敵と師匠の攻撃を回避しつつ、ミシュは悲鳴を上げた。

(c) 2020 甲斐八雲