軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僕の私怨だ

対ドラゴン遊撃隊の隊長が長期休暇に突入してから約26日。

ユニバンス王国近衛団長ハーフレン・フォン・ユニバンスは、早起きと言う単語を思い出しずっと真面目に早朝から登城するようになった。

問題は山積みだ。何よりドラゴン退治をしているサツキ家の関係者の消耗が激しい。

見立てでは後5日で大変な事態になりかねない。それでも王国軍は動かせない。半数以上をパーシャル砦から共和国領へと進行し平定している最中だ。

隠れ家を襲撃し捕らえたウシェルツェンは、こちらからの提案を全て飲んで自治領の領主になることを選んだ。

たぶん後々に独立を考えるだろうが、それまでにこちらの国力を建て直せば良い。

過去の戦争でユニバンス王国は絶対的に足らない物がある。人間だ。

『産めよ育てよ』と声高に叫びたいところだが、こればかりは各家庭の都合もある。

《本当に色々と面倒だな》

頭を掻いて彼は自分の執務室へと入った。

双子の事務担当はまだ来ていない。女性は年齢に関係無く準備に時間の掛かるものだ。

それは良い。それは良いのだが……何故ソファーで夫婦2人で旅に出た弟が寝ているのだ。

迷わずソファーに進み、ハーフレンはドカッと座った。

「って! 死ぬっ! 退け!」

「ソファーが喋るようになったな」

「良いから退け!」

「……」

ため息交じりに尻を上げ、ハーフレンは向かいのソファーに座り直した。

「それでどうやって戻った?」

「秘密裏に、ね」

「返事になってないぞ馬鹿」

腹を押さえてまだ苦しがるアルグスタは、大きく息を吐いて上半身を起こした。

「問題が起きて戻って来た」

「どうした?」

「魔女がこの国を襲う為に向かって来る。部下を連れてね」

スッと目を細めハーフレンは若干前のめりになる。

「どうするつもりだ?」

「今回は僕の私怨だ。手出し無用でお願いします」

「……まあそうなるな」

実情王国軍は動かせない。近衛は王都の護りが仕事だ。

「2人でどうにかなるのか?」

「するしかないよ。施設に居た者たちの相手が務まるのは、僕とノイエだけだし」

「そうか」

軽く頷きハーフレンは椅子から立ち上がった。

「ならお前が片を付けろ。後始末は俺の方で手配してやる」

「助かります」

アルグスタも立ち上がると、その足で部屋を出て行こうとする。

「でもアルグスタよ」

「はい?」

足を止めて振り返った弟に、兄であるハーフレンは軽く笑ってみせた。

「……勝手に手伝いに行く馬鹿が出るぞ?」

「正直迷惑なんですけどね。止めて貰えません?」

「努力はしよう。約束は出来ないがな」

「やれやれです」

肩を竦めてアルグスタは部屋を出る。

机に向かったハーフレンはペンを走らせると、副官に対してメモを残す。

『留守にする。後は任せた』と。

「あっ……」

「どうしたおっぱい?」

「何ですか、それ?」

グルンと首を回し、顔を向けて来る後輩が怖い。

何かしらの力が働いたらしく、彼との見合いが延期となってからどうも気配がおかしいのだ。

ただそれを見るミシュは知っていた。延期させた張本人は留守にしている上司だ。

逝ってしまった表情を向けて来るルッテは、頬を引き攣らせて糞先輩を見つめた。

「アルグスタ様を発見しました」

「……へ~」

軽く俯いてミシュは返事を寄こす。

密偵の網にもかからずに戻って来るとは、あの大鷲を使わずに帰って来たことになる。

本当に異常が通常の不思議な上司だ。

「今どこに居るのさ?」

「王城を出て自分の屋敷に向かってます」

「そう」

あの上司が動いているってことはまだ続いているのだ。

その証拠に妻であるノイエがドラゴン退治に出て来ていない。

「あっハーフレン様も城を出てお屋敷に向かいますね」

「……そう」

つまりはあの糞王子も『馬鹿な弟の手伝いをするぞ~』と意気込んでいるのだろう。

困ったものだ。部下の苦労を本当に理解しない上司ばかりで。

「ルッテ」

「はい?」

「たぶん仕事だ。ここを一時的に離れるから持てるだけ矢の準備を」

告げてミシュは、鎧の胸の余白の多い空間から騎士の紋章を取り出すとそれを腰に取り付けた。

「騎士の務めに行く」

「はい。ミシュ先輩」

自分も騎士の紋章を取り出し、腰に纏ったルッテは武器庫に向かう。

ミシュは近くの部下たちに声をかけ、留守の手配を手早く済ませた。

「そう。アルグスタが戻ったと」

「はい。スィーク母様」

今朝アルグスタの執務室に出勤したイールアムは、置かれていた手紙を読み理解した。

本来の部屋の主であるアルグスタ・フォン・ドラグナイトからの手紙には『もう数日お願いします』とあった。

「そうですか」

手渡された手紙を確認し理解したスィークは、手紙を義理の息子に返しクルッと踵を返して歩き出す。

「母様。何処へ?」

「あの子に死なれると困るのですよ。今はまだ」

スッと息子に背を向けたまま、口元に笑みを浮かべて彼女は歩く。

行き先などは分からなくともたぶんあの馬鹿王子を調べれば分かるはずだ。

と、彼女は足を止めて手近な壁に組み込まれている隠しドアを開いてそこに居た少女を掴んだ。

「こんな場所で何を? 王妃様?」

「離すです~! シュニット様にお知らせするのです~!」

ジタバタと暴れる少女を脇に抱え、スィークはその足を別の方へと向けた。

確かに国王に話を通しておいた方が良い。何よりあの夫婦は秘密が多い。

味方だって知られたくないことが多いだろう。だったら人払いは徹底した方が良い。

「シュニット王に逢いましょう。手伝いなさい王妃様」

「何故か命令されてるです~! はうっ! お尻をっ叩くっのはっ……はうっ」

躾をしながらスィークは足を動かした。

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