軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まほうをならいたい

「旦那様?」

「何よ」

「奥様を宿に残して良いんですか?」

「ああ。気にしないで」

朝から商店を巡って金の力で食料を集める。

ユニバンスから持って来た保存食はもう底を尽いた。現地で購入もしているけど、ノイエの消費が激しく貯蓄は出来ていない。

それほどノイエの家族がこの無茶に付き合ってくれている証拠でもある。

「パン1つの値段が……」

「気にしたら負けだよ」

「ハム1つの値段が……」

「明日はもっと高くなりそうだね」

だがユニバンスの金持ちを舐めるなよ。

金貨を積んで言い値で買い漁る。あまり時間はかけたくない。

一気に買って荷物を抱えて宿に戻る。

2人で部屋に入るとノイエの姿が無い。ただ奥の寝室からゴソゴソと音がするから何かしてるんだろう。

「荷物は全部ここに置いておいて」

「は……い」

荷物持ちを兼任しているエレイーナが滝のような汗をかいて荷物を床に置いた。

「で、エレイーナ」

「はい?」

「実はここから別行動になります」

「へっ?」

「だから別行動」

とりあえず準備しておいた小袋を彼女に手渡す。

それだけあれば、たぶんユニバンスまで馬車で帰れるはずだ。ユニバンス行きの馬車が走っていればだけど。

「今まで色々と大変だったけどありがとうね。無事に王都に戻って来たら僕の執務室を訪ねてよ。1年間ケーキ食べ放題の手続きをするからさ」

「……ありがとうございます」

感激してくれる彼女の笑顔を直視できません。

本当に良いんですね? 僕はお姉ちゃんを信じるからね?

「今日は宿でゆっくりして明日にでも帰国に向けて行動して頂戴な」

「分かりました」

何故か小躍りして彼女は食堂に向かい走って行った。

食事でも飲酒でも好きにすると良い。

ただ君が宿泊している部屋は、僕の名前で借りられているのだよ。つまり何かあれば君の部屋が襲撃される。

でも腐ってもユニバンスの密偵の人間だ。きっとどうにかするだろう。

一応部屋の外を確認し、ドアを閉じて施錠する。

「お~い。開けても良い?」

寝室のドアをノックするが返事はない。

ゴソゴソと物音はするからドアを押し開くと、家具を部屋の端に寄せて金髪のノイエが床にお絵かき……何やら不可思議な模様を描いていた。

「戻ったの?」

「あっはい」

「準備は?」

「終わってます」

「そう」

床に模様を描く手を止めずノイエ……では無く、グローディアがこっちも見ずに手を動かす。

黙って部屋の壁際に立って彼女の作業を見守る。

時折手を止めては苦痛に歪む表情を浮かべ、自分で頬を打って作業を続ける。

グローディアの作業は体感にして3時間ぐらい過ぎたと思う。ようやく彼女の手が止まった。

「終わったわ」

「お疲れ様です」

疲れ切った表情を向けて彼女は大きな息を吐いた。

「……少し休んだら魔法を使う。ノイエに限界まで食事をさせて待たせてて」

「はい」

荒い息をしてグローディアは一度目を閉じ、彼女は改めて僕を見た。

「解放なさい。命令よ」

「はい」

「……本当に嫌な男ね。大嫌いよ」

フンッと鼻を鳴らして彼女がそっぽを向く。

するとノイエから色が抜けていった。

ユニバンス王国北部国境

「この私を歩かせるなんてね」

クスクスと笑い魔女マリスアンは視線を前に向けた。

だが国境は過ぎた。後は真っすぐ進みあの憎きユニバンス王国とあの小娘を皆殺しにする。

興奮に胸が躍り笑みが止まらない。

それだけの力は手に入れた。手駒も揃い邪魔をする者たちも十分に黙らせることが出来る。

「さあ……まずはこの国の住人を皆殺しにして、戻って来たあの憎き夫婦を返り討ちにしてあげましょう」

自分の居ない共和国で暴れているあの夫婦が戻って来た時にどんな表情をするか……マリスアンは自分の体を愛おし気に抱きしめ妖艶に笑う。

「さあ行きましょう。全てを終わらせるために」

ユニバンス王国王都ユニバンス北部、ドラグナイト家邸宅

王都郊外に存在する北の砦とも呼ばれるドラグナイト家の屋敷で、今日もポーラは1人で夫妻の部屋を掃除していた。

数えて25日……まだ『にいさま』と『ねえさま』は戻ってこない。

箒を手に部屋の隅々まで掃除をし、ポーラは椅子に座って膝を抱く。

いつもなら仲良くベッドの上に居る2人は居ない。これほど寂しく辛いことは無い。

言われた通り毎日勉強もしている。メイドさんたちにメイドの仕事も習っている。剣術だって。

ただお城に行く回数は極度に減った。

自分の為に毎日騎士たちの護衛で王都に向かうのも何か心苦しく、数日に1日だけお城に向かい……ケーキばかり食べている小さな"おひめさま"に意を決してお願いした。

『まほうをならいたい』と。

紹介された先生はフード姿の変な人だった。

彼女は『弟子になるならこれをして』と紙の束と見本と言って不思議な文字が綴られた紙を手渡された。

『その紙が尽きるまで書きなさい。出来たら持って来て。それで決める』と。

何でも魔法学院で秘かに続く練習方法らしい。

にいさまの部屋でそれを書いていたら、やって来たメイド長がスラスラと貰った見本よりも綺麗な見本を作ってくれた。

『それをするならこれぐらい書きなさい』と言われた。

寂しいけれど、ちゃんと勉強して無ければにいさまに怒られてしまう。

怒ったりしないだろうけれど……でもきっと寂しそう表情で頭を撫でて来る。

それは辛い。怒られるよりも、叩かれるよりも、もっと辛い。

「おそうじ……しよう」

1日に3度掃除しているが、それでもポーラは掃除をする。

綺麗な部屋で2人を出迎えたいから。

抱いていた膝を解き立ち上がろうとしてそれに気づいた。

ベッドの周辺が……床が光り輝いていることに。

見たことのない現象に怯え身を竦ませる。それでも視線はベッドから離れない。

トクントクンと胸が高鳴る。何故か分からないが高鳴る。

閃光が生じ目が眩んだポーラは両目を押さえる。

ボロボロと涙を落としそれでも視線を向けると2人が居た。

目がおかしいのか、一瞬姉の髪が金色に見えたが……見直すと普段通りの綺麗な白銀だ。

「……気持ち悪い」

「……お腹空いた」

ただ同時に2人はベッドの上に崩れ落ちた。

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