軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

普通じゃないなら?

割れた玉からモクモクと煙が立ち上る。

その煙がゆっくりと広がり形を作ろうとする。

「お前たちは知らないであろう! この世界には異世界のドラゴンを呼び出す力があることをっ!」

「……」

何てお約束な展開なのでしょうか? 呆れて口を開くのも憂鬱になるわ。

そっと左手でノイエの右手を握り僕は力を渡す。やる気十分なノイエは……まあ良いか。

「いくらその女がドラゴンスレイヤーと言え、異世界のドラゴンまでっ」

僕の横から消えたノイエの拳が形を作りだしていた炎のドラゴンの頭部を粉砕した。

爆散した炎が辺りに舞い……地面へと降り注いでいく。

復活は無い。

「で、御高説はまだ続くのでしょうか? ハルツェン国家元首様?」

「……」

恐れ怯えた目で彼はノイエを見つめている。

一発殴って終わってしまったノイエは、自分の拳を見つめてからキョロキョロと辺りを見渡している。

どう見てもやり足らない感じで不満げだ。出来たらその不満はここで忘れて欲しい。覚えたままだと今夜の僕は彼女が満足するまで貪られる。

「では先ほどの無礼な言葉の責任は……どう落とし前付ける気だ? この屑がっ!」

ピクッとノイエが反応し、ハルツェンを見る。

優位を失った相手程見てて滑稽な物はない。

ノイエの視線に耐えられず、彼は慌てて背を向けて駆けだした。

「殺せっ! その化け物を殺せっ!」

発せられた命令に待機していた兵たちが動く。

僕の傍に移動して来たノイエが色を変えた。黄色にだ。

「あは~。数が~多い~よね~」

フワッと揺れてノイエ姿をした彼女が力を振るう。

僕らの周囲に光の壁が生じて覆い尽す。

「カミーラが~来るまで~ちょっと~待ってね~」

「ありがとうシュシュ」

「ん~。感謝は~言葉より~別のが~良いぞ~」

「はいはい。ケーキでもお菓子でも好きな物を準備するよ」

フワフワしながらシュシュはこっちを見た。

「なら~1日~旦那ちゃんを~自由に~するぞ~」

「はい?」

「私の~お礼は~それで~」

フワフワを止めてノイエの色が変わる。

黄色から赤へ……そして光の壁が消えだし、代わりに彼女はその手に棒を作りだした。

「飯の準備をしな。ノイエの魔力を使うからな」

ニヤリと笑って……カミーラがその力を存分に披露した。

エレイーナは遠い場所から隠れるように議会場を見つめていた。

一瞬煙が見えて火の粉が舞ったように見えたがそれ以降変化はない。変化は無いが……大変、とても騒がしい。この都市に居る軍事関係者が集まっているような雰囲気すらある。

と、改めて異変が生じた。

これでもかと議会場から土色の槍が姿を現すのだ。

たぶん彼らが何かしているのだろうと悟り、エレイーナはそっと息を吐いた。

何処で何を間違えたのだろう?

自分は少なくとも真面目に生きて来た。全力で生き残ろうと必死に歯を食いしばって生きて来たのだ。

それなのに気づけば国の飼い犬に成り下がり、こんな場所に来て2人きりの戦争に付き合わされている。

不幸すぎる。絶対に呪いをかけられた感じの不幸っぷりだ。

議会場の一画が爆発し煙が立ち上る。

「また逢おう! ハルツェン国家元首よ! ぬはははは~!」

正体を隠す気など無いのか彼はそう言って高笑いすら見せていた。

絶対に狂っている。間違い無く変人の類だ。

飛び出した大鷲が……真っすぐこっちにやって来た。

「エレイーナ」

「はい」

「とりあえずノイエにご飯」

「……はい」

大鷲を送還する彼女を尻目に彼はエレイーナが座っている箱に手を伸ばす。

飛びのいたエレイーナを無視してアルグスタは箱を開くと、そこから塊のハムを取り出した。が消えた。

両手でハムを掴み、はむはむとハムを食べ出したノイエの食欲は止まらない。

軽く塊の肉を2つほど消費し、箸休めに食パンを食べ出してからアルグスタたちは箱の中身を背負い袋に移して移動を開始した。

大鷲を使い中央都市を出て南部の方へと移動し宿を取った。

指名手配も中央都市から遠く移動してしまえば、ここまで来るのに何日かかかるはずだ。

今夜はのんびり寝てと思ったけど、ホリーお姉ちゃんが出て来た。

流石の彼女も今夜は真面目な表情をしている。

普通に考えればこれで共和国対ユニバンスの構図は成立だ。

でも共和国南部にはウシェルツェンが国を興し……と言うか、ユニバンスの力を借りて領地を切り取っているはずだ。

結果としてユニバンスはまた新しい領地を得る。名目上は自治領扱いだけど。

「で、お姉ちゃん」

「なに?」

「あの魔女は何処に?」

ベッドに座る彼女は何処か疲れた感じに見える。

いつものやる気と言うか、肉食的で攻撃的な雰囲気が無い。

「普通に考えれば他国でしょうね。でも帝国には彼女を受け入れることは無い。共和国より北は諸王国が存在しているけれど、どこも魔法はそんなに盛んじゃない」

「なら何処に?」

「決まっているわ。ユニバンスよ」

灯台下暗しって言葉で合ってますか?

魔女を一発殴る為に共和国に来たのに、相手はユニバンスに向かっているとかどんな嫌がらせだ。

あの魔女……絶対に許さん。

「なら明日から急いでユニバンスに向かうの?」

ノイエの大鷲だって移動距離や疲労と言った問題がある。

たぶんユニバンスの王都に戻るのに5日はかかるかな?

「普通ならそうするわね」

「……普通じゃないなら?」

「グローディアを使うわ」

断言してまたお姉ちゃんが沈黙する。

「忙しいの?」

「大丈夫よ。ちょっと失敗しただけ」

「失敗?」

「ええ。シュシュを出した時にね」

さすさすと彼女は左腕を擦る。

「それでアルグちゃん」

「はい?」

「色々とあって現状使える人員が少ないわ」

「その色々を問いたいですが我慢します。で、離脱したのは?」

「ファシーよ」

離脱と言うかもう休ましてあげてよ。

「なら出れる人は?」

「私とシュシュ。カミーラぐらいかしら」

「先生は?」

「彼女の腐海は悪目立ちするから……何よりまだ体調が良くないのよ。無理をし過ぎて左足がもげて今もリグの治療を受けてるわ」

そっちの普通はこっちのホラーなんですけどね?

「それでどうやって戻るの?」

「ええ」

クスッと笑いお姉ちゃんは僕に視線を寄こす。

「グローディアが根性を見せるはずよ。だからアルグちゃんの仕事は食糧集め」

「穀倉地帯がやられて物価高が始まった国で……無理を言う」

本当に容赦無いわ。でもやるしかない。

(c) 2020 甲斐八雲