軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

千切

セルスウィン共和国中央都市ドルランゼ

エレイーナは正門の見える場所に居た。命じられて渋々来た。

目の前に見えるはセルスウィン共和国の新首都である中央都市ドルランゼの正門だ。

鋼鉄製の堅牢で巨大なこの門は、中型ドラゴンの突進ですら耐えると言われている。この門を突破するのは普通に考えて不可能だ。

もし破るとしたら魔女マリスアンの大規模術式ぐらいのはずだ。そのはずだ。

何度目か分からない唾を飲み下し……エレイーナはそれを待った。門が壊れる時を。

「ふふふ……あはは……みんな死んじゃえ……死んじゃえばいい……」

髪を栗色にしたノイエがとても物騒な言葉を連呼している。

初めて出会った頃のファシーだ。完全にあの頃に戻っている。

そこまで無理しなくて良いのに、セシリーン越しにお姉ちゃんにお願いしているのに……ファシーは出で来ると笑い出し止まらなくなる。

「断ち切れ断ち切れ断ち切れ……我が前に存在する全てを断ち切りる剣よ」

スッと右手を伸ばし、彼女は正面の門に向けて掌を向ける。

「千の刃となりて全てを断ち切る武器となれ……" 千切(せんぎり) "」

放たれた魔法は目では見えない。ただファシーの手が向いた先に存在するモノを全て斬っていく。

千以上の刃かもしれない魔法の刃が中央都市の正門に殺到し、本当に千切りみじん切りにした。

「あはは……みんな死んじゃえばっ」

「ファシー! もう良いから! もう使わなくて良いから!」

二度目の魔法の準備を始めたファシーを後ろから駆け寄ってギュッと抱きしめて制する。

ジタバタと暴れて僕のことを腕や足で打ち付けて来るけど、今の彼女は本当に限界ギリギリの状態だ。

「もう良いから。ありがとうファシー」

「……あはは……あは……は、い」

小さな声を残してノイエから色が抜ける。

そのままギュッとノイエを背後から抱きしめて居たら、彼女は僕に背中を押し付けて来る。

「アルグ様」

「なに?」

「ギュッは前が良い」

腕を離すとノイエがクルッと回って抱き付いて来る。

「こうが良い」

「僕は後ろからのギュッも好きだけど?」

「はい。でも立ってる時はこっち」

つまり後ろからはベッドの時が良いと言うことか? たぶん頭も撫でて貰えるからとかそんな理由と見た。

「ならこっちでギュッ」

「……はい」

スリスリと体を密着して来るノイエが可愛い。

普段のファシーならこんな感じに甘えて来るのに……これが終わったらファシーには存分に甘えて貰おう。

そのままキスをたっぷりしてから、僕らはその場所から逃げ出した。

都市の外でエレイーナと合流し、正門破壊の様子を聞く。

都市内は騒然となって物凄い騒ぎになったそうだ。そりゃそうだよな。

「旦那様?」

「ほい」

「この後はどうするんですか?」

「決まってます」

決まっているんだけど僕もこれは正直想定外だ。

ファシーに優しくする度に、お姉ちゃんの指示が鬼仕様になって行く気がする。

「敵の本拠地に乗り込みます」

「……」

『コイツ正気か?』と言う目で僕を見ない。

僕もお姉ちゃんの正気を疑ったから。

「そう言う訳でノイエ」

「……んぐっ」

それは返事じゃないぞ? 何より塊であったハムは何処に消えた?

「大鷲を呼んで」

「はい」

ノイエが大鷲を呼び出している間にこっちの確認もしないと。

「共和国のお偉いさんは、緊急時に避難する場所は議会場だっけ?」

「はい。何かあれば1番堅牢なあの建物に避難するはずです」

エレイーナの返事を得て、行く先は決まった。

「そう言うことらしいので、ノイエ」

「はい」

パンを1斤ほど飲み込む様に食し、ノイエが大鷲をひと撫でした。

「お久しぶりです。ハルツェン財務……では無くて国家元首か」

「お前……」

『どうやって』とか言ったら『空からです』と言うつもりで居たのに言葉を飲み込むなよ。

僕らは上空で大鷲を召還し、自由降下で議会場に乗り込んだ。

中央の広場らしき場所に着地を決め、出迎えてくれた兵たちに槍を向けられた状況だ。

「共和国って友好国の使者に対して槍を向ける国だったんだ~。怖いわ~」

「何を白々しい! 友好国の使者が礼を弁えず空から来ることなどあり得んだろう!」

「え~? だって急ぎでしたし~。何より僕らは同盟国である共和国に、火急の報を伝えるために大急ぎで"今"やって来たんですけど?」

怒鳴る武官らしき人に僕はいつも通り、ヘラッとした感じで対応する。

「嘘に事欠いて! お前たちが国内で騒ぎを起こしていることは分かっているんだぞ!」

「え~? なら証拠を提示して下さいよ~。僕らが何処で何をしたのかをひと目で分かる証拠の提示を望みますぅ~」

「……っ!」

顔をあり得ないほど赤くした武官さんが腰の剣に手を掛けてこっちに来ようとする。

無音でノイエが僕の前に移動して壁となる。武官さんは周りの人に制されて近づいて来なかった。

「情報を伝えるために来たと言ったな? アルグスタ殿」

「はい。国家元首様」

恭しく礼をしてやったら、前にあった時よりも冷たい表情でハルツェンが睨んで来る。怖いわ~。

「……内容は?」

「ええ。お宅のウシェルツェンさんでしたっけ? 彼が共和国の南部で武力蜂起をして国を興そうとしてるんですよ。何でもハルツェン様が前国家元首を毒殺してその地位を不正に奪い取ったから、その行いを糾弾する為にと言うことで……実際前国家元首の死亡報告すら受けていないユニバンス王国は、彼の言葉を信用したようで」

「っ!」

澄ました面したハルツェンが流石に驚いたらしくその目を見開いた。

「それで我が国の陛下は彼の支援を決めたようです。

でも僕はノイエとの結婚式に貴方様から多額のお祝いを頂きましたので、その恩に報いようと思い急いで報告までにと」

「……」

全員の冷たくて厳しい視線が突き刺さるっす。

これって絶対に喧嘩を売ってるだけだと思うんですが……本当に大丈夫なの? お姉ちゃん?

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