軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノイエって本当に凄いわね

「お疲れ」

「ああ」

出迎えたホリーにカミーラは面倒臭そうな視線を向ける。

外に出るのに自身の魔力を使い、体が怠くなっているのだ。

「宿の外の敵さんは?」

「……全員毒薬を飲んだ。お前だって最初からその可能性に気づいていただろう?」

「そうね。でもアルグちゃんは優しいからね」

カミーラは髪を掻き上げると息を吐いた。

最近はあるモノをクッション代わりにしていることの多いホリーは、今日もまた床に座り……と言うか寝そべっている。

「頼まれたことは旦那には伝えたぞ」

「見てたから分かってる」

「なら今日の仕事は終わりだ」

「そうね」

告げて部屋を出て行こうとするカミーラにホリーは口を開く。

「ねえカミーラ」

「何だ?」

「どうしてアルグちゃんにあんな話を?」

「……」

軽く笑ってカミーラは足を止めた。

「だがグローディアは止めていないだろう?」

「あれは中央の通路に居座ってるわよ。誰もこっちに来ないように」

「女王陛下が鎮座しているなら来るのはエウリンカぐらいか」

「それもアイルローゼに溶かされて深部に捨てられているしね」

気怠そうに体を起こしホリーは胡坐をかいて座る。

足の間にクッション……セシリーンの頭部を置いて彼女はカミーラを見た。

「どうしてあんな話を?」

「さてな……ただの気紛れだろう」

「嘘ね」

クスクスと笑いホリーは足の上の物を撫でる。

「今の私にはどんな嘘も通じないわ」

「嫌な奴が嫌な物を手にしているな」

「言ってなさい」

撫でていた手を止めてペシペシと叩きだす。

眉間に皺を寄せて叩かれている頭部が不満を表現しだした。

「貴女もアルグちゃんに手を出す気なら許さないわよ?」

「旦那はノイエの物だろう?」

「……それでもよ」

ブスッと頬を膨らませてホリーは拗ねる。

やれやれと肩を竦めてカミーラはまた頭を掻いた。

「生憎と私には男女の関係とか興味が無い」

「……本当みたいね」

「ただ願っているのはノイエの幸せだ」

「はい、嘘」

「全く厄介だな。なら言い換えよう。願っているのはここに居る全員の幸せだ」

「……」

ホリーは何も言わない。だからカミーラは言葉を続ける。

「私たちは確かに人生を狂わされた。でもお前や私は自ら望んで狂った人生に足を突っ込んだんだ。グローディアを恨むのはお門違いだ」

「そうね」

素直に認める。

ホリーは家族を守る為、カミーラは国を守る為にそれぞれ人を殺した。

「でも本当に望まずにそれをした者たちが幸せになるのは悪いことじゃ無いだろう? 私にもお前にもできないが……旦那ならその可能性がある。だからの賭けだよ」

「アルグちゃんがこの世界の支配者になったら世の理も変えられると?」

「そこまで望んでいないさ」

柔らかく頭を振ってカミーラは真っすぐセシリーンを見る。

「ただカミューですらああなったんだ。少ない可能性でも勝負するに値するなら私は賭ける。そうやって戦場で生き残って来た。それで良いか?」

「……嘘じゃないみたいね」

「ああ。恥ずかしいことを言わされたがな」

『もう良いだろう?』と言いたげにカミーラは部屋に居る1人と頭部に背を向けた。

「ファシーは?」

「シュシュが引き摺って行ったわ。雑音が酷くてセシリーンの耳が狂うから」

と、カミーラが肩越しにホリーを見る。

「無理をさせ過ぎだろう?」

「でもファシーの魔法は広く知られていない。たぶんこの大陸であの魔法を知っているのは、この中に居る者だけのはずよ。だから足が付かない」

「東部で腐海を使っただろう?」

「ええ。でもあれならアイルローゼが使ったと言うことでユニバンス国内なら言い訳ができる」

「本当によく考えているんだな」

「それが私の仕事だから」

クスクスとホリーは笑った。

「ねえカミーラ」

「何だ?」

「貴女の見た目で……アルグちゃんの為になら命を惜しまない人はこの中に何人いるかしら?」

「お前が思っている数だろうよ」

「そう」

パシッと抱いている頭部を叩いて、ホリーはまた口を開く。

「ならアルグちゃんのことを気にしている、恋している、愛している……そんな人は何人かしら?」

「聞いてどうする?」

「ん? ホリーお姉ちゃんは優しいお姉ちゃんだから、彼の為に活躍の場を作ってあげようかと」

「……」

胡乱気な目でホリーを見つめてカミーラは息を吐いた。

「シュシュとリグ。それと女王様かな」

「あら? グローディアも?」

「ああ。と言うより普通に考えてユニバンスに何も無ければ、あれの結婚相手の大本命は旦那だろう? 気にならない方がおかしいと思うぞ」

「そうね。ウイルモット陛下だったらそう考えるはずね」

従姉弟同士だがあの王ならば気にしない。何より国のことを考えてあの2人をくっ付け、そしてどちらかが裏切るのかを見張らせる。

両方裏切るのならば一緒に処分することを考えただろう。

「グローディアはそれを知っててあんなにも厳しく?」

「さあな。知っていてもいなくても……あれが旦那の妻に収まるとは思えんがな」

「そうかしら? 今の彼なら上手いこと御して手懐けてしまいそうだけど?」

「ならグローディアにそう言ってみろ」

「嫌よ。あれが怒ると手が付けられないもの」

軽く拗ねてホリーは笑った。

「ならグローディアにもアルグちゃんの為に活躍できるようにしてあげないとね。出来たら出番がない方が良いんだけど」

何かしら企んでいるのか、ホリーはニヤリと笑う。

正直カミーラとしては、彼女の企みなどどうでも良い。どうでも良いのだが……1つ気になった。

「……あの状態でか?」

そう。彼女は現在、酷い有り様なのだ。

「大丈夫よ。彼女なら体の半分がグチャグチャでも立ち上がって魔法を使うわ」

「……ユニバンスの魔法使いは化け物揃いだな」

「貴女もよ。カミーラ」

「お前もだろう?」

2人は笑い、カミーラは今度こそ部屋を出ようとする。

「と、ファシーは何処だ?」

「……出て右の通路を真っすぐ。しばらく行って左に居るわ」

「分かった」

アルグスタの言葉を伝えるためにカミーラは歩き出す。

自分たち以外居なくなった部屋でホリーは、そっとセシリーンの頭部を掴むとその顔を自分の方に向ける。

「ねえセシリーン? 大好きなアルグちゃんの為にもう少し頑張りなさいね?」

「……」

頭部を震わせ歌姫が振動で言葉を伝えて来る。

その返事にホリーは小さく笑った。

「大丈夫。終わったらアルグちゃんに逢わせてあげるわよ」

今一度抱きしめ直してホリーは外の様子を見る。

「彼が独占できる人間じゃないって分かっているもの。そう考えると……ノイエって本当に凄いわね」

少なくとも彼の心を独占しているのだから。

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