軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お~こわっ

ガタッと椅子を揺らし、隣で座っていた彼女が周りの目など気にせず立ち上がった。

今日は数多くの人たちが来ている。国王陛下や近衛団長。それに大将軍などもだ。

トンッと槍の石突きを地面に触れさせて顔を振るった彼女の周囲に白銀の髪が煌めく。

フッと息を吐いて……彼女は槍を放ると辺りを見渡し、真っ直ぐ駆け寄って来た。

「アルグ様」

「お疲れ」

「はい」

フリフリとアホ毛を揺らす彼女の頭を撫でてやると、周りの目も気にせず抱き付いて来る。

そして彼女の背後に見えるは死屍累々……では無く30人の呼称猛者たち。ただし全員気絶しているが。

「アルグ様」

「なに?」

「ドラゴン……」

「行っといで」

「はい」

アホ毛をセンサーの様に動かしていた彼女は、僕にキスをすると食事を受け取ると姿を消した。

完璧だ。これで誰もノイエに質問出来ない。

「と言う訳でカエデさん。約束通りで良いですか?」

「……ええ。分かりました」

苦々しい表情で彼女は承諾した。

「では自分も仕事があるので」

「待てよアルグ」

「ですよね~」

チッ……逃げられんか。

諦めて馬鹿兄貴御一同様に顔を向ける。

「何でしょうか?」

「分かっているだろう?」

「ですよね~」

仕方なく馬鹿兄貴は無視して国王陛下の前に立つ。

どっかのダルマが文句を言おうとしたが、後ろに居るメイド長が彼の肩に手を置いたら黙った。

「アルグスタよ」

「はい。陛下」

「ノイエは人とも戦えると言うことを証明した理由を問うても良いか?」

疲れ果てた感じのお兄様が可哀想になって来た。

でもごめんなさい。兄不幸な弟で本当にごめんなさい。まだ続きますから。

「はい陛下。ですが前提が違いますので訂正を」

「前提が違う?」

眉間に皺を寄せ不審がるお兄様に軽く頷く。

「今回はあくまでカエデ様が統治している村の強者たちとノイエとの鍛錬の一環です。

ドラゴンしか退治していないノイエに負けるような強者たちが、30人集まってもノイエは負けないと実証されましたが」

バキッ

カエデさんが座っている椅子のひじ掛けが粉砕した。

あれはあれで怖いから視線は向けないようにしよう。

「大陸西のドラゴンはたぶん弱いんですよ。ですからあの30人を預かってしばらくユニバンスで修業させると言うことになります。それがカエデ様との約束です」

「……そうか」

深い深いため息を吐いて、国王陛下は椅子から立ち上がった。

「報告は逐一すること。それとかかる費用は全て」

「はい。今回は自分個人が勝手にやったことですから……責任は全て自分が」

「余り無茶はするな」

ポンと肩に手を置いて陛下がお城へと戻る。

大将軍は呆れたように笑って何も言わずに立ち去ってくれた。

これで問題は全て、

「俺を無視して帰ろうとするとは良い度胸だな?」

「助けてメイド長~」

「アルグスタ様。私はスィーク様とは違います」

ポンとフレアさんが馬鹿兄貴の肩に手を置いたら彼は動きを止めた。

スィーク叔母様と遜色無い働きをしてくれていると僕は思いますが?

「こんな野郎ばかり転がっている場所で話しても面白くないからお城に戻りましょうか」

「逃げないならそれでも良いぞ?」

「逃げませんよ。何も悪いことはしてませんしね」

僕はただホリーお姉ちゃんの指示通り動いているだけですしね。

「カエデさん。お城に戻りますが……」

ふと視線を向けて僕は悟った。

負けず嫌いと言うか、あの人は怒らせちゃダメなタイプの人だ。

スラリとカタナを抜いたカエデさんが気絶している人たちを蹴り起こして回っていた。

薄っすらとその背中にどす黒いオーラを漂わせている彼女は触るな危険だ。

「終わったらお城に案内するように手配しておいて」

「だ、そうだ」

兄貴に頼んだらメイド長に下請けを出した。

ニコリと笑ったメイド長の恐怖は……主人である兄貴に頑張って貰おう。

さあ急いでお城に逃げ……帰ろっと。

「カエデさんとの商業的な会合は、イールアムさんにお願いすることになってます」

「なに真面目に報告している?」

「報告しろ……と、言ったのはお兄様でしたね」

「おい。やる気を無くすな」

ダラッとソファーに座ったら兄貴が文句を言って来た。

「それであの30人を倒した訳は?」

「……ノイエが強いと実証したかった?」

「ふざけてるのか?」

バキバキと指を鳴らす筋肉ダルマに、僕の後ろに立つ可愛いメイドが逃げ出した。

まあポーラがあれと対等に相対するとか不可能だ。

静かにダルマの肩に手を置いたメイド長が柔らかく笑うと全員が静かになる。

凄いぞメイド長。前任者と遜色無さ過ぎる。

「それであれをやった理由は?」

「ん~。ちょっと待って」

軽く腕を組んで考える。

ここで馬鹿兄貴を仲間にする意味はあるのだろうか? 馬鹿兄貴は要らないが、メイド長は仲間にしたい。

「ちょっとノイエと旅行に行こうと思ってましてね。結婚してからのんびりしてませんし……だから留守中ドラゴン退治を出来る人を集めたかったんですよ」

「……お前正気か?」

馬鹿兄貴が心底呆れた顔をした。

「はい。だから誰の妨害も邪魔も受け付けない。苦情や文句は後で聞きます」

相手を正面で捕らえて僕は宣言する。

「ノイエと2人の旅行を邪魔するなら容赦無く対応する。それほど僕はこの旅行を楽しみにしているので……手加減はしない」

「お~こわっ」

お道化た兄貴が肩を竦めた。

(c) 2020 甲斐八雲