作品タイトル不明
感謝はこっちに欲しいわ
これでノイエの代わりは手配出来た……後は何をすれば良い?
僕の代わりはあっちに押し付ける。フレアさんの協力を取り付けて一番厄介な相手を口説く。
一番の問題は、僕らは共和国の地理などさっぱりなことだ。道案内が欲しい。
これは流石のお姉ちゃんでもお手上げ案件の1つだった。
「それでお前が一番欲しいのは何だ?」
渡りに船とはこのことか?
「道案内」
ダメ元で言ってみたら馬鹿兄貴がうんうんと頷いた。
「分かった。それは俺が手配してやろう。弟に対してのお兄ちゃんからの愛情だ」
キモい。吐き気が。
「良し死ね」
「お前を殺してやろうか?」
「コホンッ」
「「……」」
メイド長の咳払いが一番怖い。
「後は何が必要だ?」
「メイド長の協力ですかね」
「だ、そうだ。どうだフレア?」
「はい。私はただのメイドですので仕事を頂けるのならばこなすのみです」
「ならお願いします」
これで欲しい物は揃った。
後は準備を整えてノイエ"たち"と旅行に行くだけだ。
「楽しい旅行になりそうだ」
「アルグスタ様。ノイエ様と旅行に行くんですか?」
「その方向で頑張ってます」
クレアに渡された書類を眺め、カリカリとペンを走らせて必要事項を記入して行く。
馬鹿兄貴が食い散らかして行ったお菓子の箱を片付けていたポーラが、チラチラとこっちを見て来る。
「結婚して1年。いつも王都待機で王都を出たのも大型ドラゴンが出た時に南部に行った時ぐらい。2人っきりでのんびりしたいのです」
「まあ分かりますけど……」
クレアが口に指をあてて上を見る。
「わたしたちもまとまった休みを貰って無いんですけど?」
「僕より先に休むなど許さん。以上だ」
「ひどっ! ……でもこれでアルグスタ様が休むならわたしたちも休んで良いんですよね?」
それに気づいたクレアが小躍りを始める。
ゴミを片付けたポーラが踊るクレアの横に立った。
「にいさま」
「ポーラはお留守番です。ノイエと2人で旅行したいから……今回だけは残ってくれるかな?」
「……はい」
しょんぼりして俯いてしまった。
でも今度ばかりは連れて行けない。
「それで何処に行くんですか?」
踊りを止めたクレアがこっちを嬉しそうに見て来た。
「一応国内をノイエと2人で見て回ろうかと。でも行く先々で滞在がバレると面倒臭いことになりそうなので、2人で変装して楽しむ予定です」
「あ~。歓迎とか接待とかありそうですね」
「そっ。だから姿を隠して楽しんで来ます」
ただしまだまだハードルが多いのが問題なんだけどね。
「アルグスタ様」
「どうも」
菓子を食い漁った馬鹿兄貴を捨てに行ったメイド長が戻って来た。
「私に任せたい仕事を伺いに来ました」
「悪いね」
メイド長の登場にクレアは自分の席に戻り、ポーラはとりあえずソファーに戻る。
静々と歩いて来た彼女は……まだお腹とか目立たないな。
「何処を見ているのですか?」
「メイド服変わった?」
「ええ。少しゆったりした物にしましたが」
ゆったりと言うかスカートがもっさりしているように見えるがまあ良いか。
「で、メイド長に頼みたいのは……ハルムント家当主、イールアム・フォン・ハルムント氏をこの部屋に呼んで来て欲しい。どんな手を使ってでも」
軽く目を瞠った彼女が僕を見る。
ハルムント家。スィーク叔母様の家であり、何より現当主は亡きウイルアム様の1人残ったご子息だ。
そして僕の実家は彼の家族を殺害したルーセフルト家だ。
馬鹿兄貴は何度か『顔を合わせる機会を作る』と言ったが実現しない理由がそれだ。彼の周りが警戒し会うことを阻止している節がある。それは仕方ない。
「……それは内密にと言う意味でしょうか?」
「そう言うことになるね」
内情に詳しいフレアさんはこっちの気持ちを察してくれた。
「アルグスタ様なら懇意にしているスィーク様を頼れば良い気もしますが?」
「それね。それをするとスィーク叔母様に借りを作るから」
「確かにあの人に借りを作るのは恐ろしいことでしょうね」
何故かさすさすとフレアさんが二の腕を擦りだした。
「分かりました。私の方でどうにかします」
「助かります」
「いいえ」
スッとその目を冷たくしてこっちを見つめて来る。
「私も今回のことは腹立たしく思っていたので」
「そりゃどうも」
フレアさんもノイエの親代わりをしていたからな。
何か僕よりノイエの方がハーレムの主人に思えるよ。
一礼をし出て行くメイド長を見送る。
後はイールアムさんが来たらカエデさんに商売のことを話し合って貰って、ついでに僕の留守中の仕事を全て押し付ける。
王族である彼がこの椅子に座って居れば大臣もその他諸々も文句は言い難い。
唯一の問題はお兄様だが……そっちは"あれ"で納得して貰う。と言うか文句を言う暇が無くなるか。
《セシリーンが居るから探し出せるはずだ。残る問題は何処までやるかだが……まあ良い》
椅子から立ち上がり軽く耳の下を叩いて部屋を出る。
気をつけないとポーラが付いて来るから『漏れる漏れる』の言葉を忘れずにだ。
「ノイエ。仕事が終わったらお城に真っすぐ来て」
お仕事中のお嫁さんにコールしたら、ズドーンと振動が伝わって来た。
返事が地震クラスの振動とか……僕のお嫁さんは本当に規格外だな。
「こんな場所で2人きりだなんて……」
「前回と同じでしょう?」
「もう酷いわね」
ぷ~っと頬を膨らませ拗ねるセシリーンの頬にキスする。膨れた頬が元に戻った。
「それで人探しよね?」
「ええ。居るかどうかも分かってませんが」
「そうね。でもホリーの話を聞いてると居そうな気がするのよね」
「僕もそう思います」
前回の手順通り頭の中に相手を思い浮かべる。
セシリーンはキスをしてから僕の額に自分の物を押し付けた。
「彼ね? なら探すわ」
音を発し……彼女の声が響き渡る。
共和国に居場所を無くした彼はたぶんこの国に居るはずだ。
帝国に逃れれば厄介なことになるし、何より北の諸国に行ったら共和国に引き渡される。
可能性が一番高いのがこのユニバンスに隠れているって線なんだ。
しばらくして、鮮血を吐き出しながらセシリーンが笑った。
「居たわ。流石ホリーね」
「それを見つける貴女も凄いです」
「あら? 感謝はこっちに欲しいわ」
クスッと笑ってセシリーンは自分の唇に指を向けた。
あ~。仕方ない。ご褒美が血の味のするキスってそれで良いのかな?
せがまれるままにキスをし、彼女を優しく抱き締める。
見つけた。元共和国内務大臣ウシェルツェンはこの国に居た。
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