軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たぶん貴方なら分かるわ

準備したのはただの剣である。

ポーラの練習で相手役を務めるメイドさんが使用している物だ。

刃は潰してあって突かない限りは事故にならないはずだ。

「……」

受け取ったノイエがキョトンとした感じで剣を眺めている。

アホ毛が『?』となっている様子から理解できていない様子だ。

「ノイエさん」

「はい」

「この剣で人と戦って欲しいんだけど」

「……」

クククと首を傾げたノイエが、クンッと頭を起こしてこっちを見た。

「ダメ」

「はい?」

「斬られたら痛い」

「……」

「だから斬るのはダメ」

迷うことなくノイエが僕に剣を戻して来る。あぶなっ! 剣先をこっちに向けて戻して来るなって!

慌てて受け取って剣を鞘に戻す。

基本的な何かを忘れていた。ノイエは優し過ぎるんだ。どうしよう?

ベッドを椅子にしたノイエがこちらを見る。スヤスヤと寝ているポーラは熟睡中だ。

ふとノイエがベッドの上を這ってポーラの頭に指先を這わせた。

「困っているみたいね」

栗色の髪になったノイエが振り返る。

目を閉じた……いつか出た古いことを知っている賢者さんだ。ってこの人は何者なんだろう?

「今のって?」

「簡単な魔法よ。気にしないで」

目を閉じてこちらに微笑みかけて来た。

「それで心優しい私が相談に乗ってあげるから困っていることを言ってみなさい」

「相談ですか?」

「そうよ。私は賢者なのだから知識は豊富なのよ。さあ言ってご覧なさい」

「本当っすか?」

「鰯の頭も信心からよ」

「ですね」

ダメ元という言葉もあるから相談するだけしてみよう。

「実はノイエが人と戦えないんです」

「そうね」

「だから誰か代役を出そうにも髪の色でバレるんです」

「だったら髪の色をどうすれば良いのね?」

それ以外にも問題はあるんだけど、それさえどうにか出来れば多少の無理も可能なのです。

「出来ますか?」

「右手を出しなさい」

「はい?」

そっと彼女が手を伸ばし、僕の右手を掴むと手の甲に指を這わせた。

「これで良いわ」

「はい?」

「ちょっと弄ったから叩く時に色を念じてみなさい。髪の毛が指定した色に一定時間……1時間ぐらい染まるから」

「本当ですか?」

それって魔法の概念を越えている気がするんですけど?

訝しんで相手を見つめると、クスクスと笑った彼女がゆっくりと目を開いた。

栗色の瞳の中に金色の線が走り五芒の形を作っている。

馬鹿なあり得ない。彼女は過去の人であって……何よりどうしてノイエの魔眼の中に居る?

「気づいたかしら? 私は魔女。刻印の魔女」

「嘘だ。貴女が居る訳が無い」

「でも居るのよ。詳しい話はいつか話してあげる」

スッと右手を伸ばし彼女が宙に文字を刻む。

描いた文字を指で弾いて……

「……ルグ様。アルグ様。アルグ様」

「ふぇ?」

目覚めたらノイエの膝枕が最高でした。

スベスベなので存分に味わっていたら……はて? 僕はどうして床で寝ているのだろうか?

「ノイエ」

「はい」

「何があったの?」

「アルグ様が……」

ノイエの目が泳いだ。

「寝てた」

ですよね。安定のノイエだ。

「その前を聞きたいんですけど」

「……剣はダメ」

「ですか」

その記憶は残って居る。その後ノイエがベッドに座って……記憶が無い。寝落ちしたの?

ただなんだろう……凄く右手が気になる。魔力を込めて振るとハリセンが生じた。

「ノイエ」

「はい?」

「ん~。金色」

パシッと彼女の頭を叩くとノイエの髪が金色に染まった。

本当に染まった。ビックリだ。

「なに?」

「鏡を見て」

「はい」

立ち上がったノイエが鏡を覗き込んで自分の髪を手にする。

金色になった髪だ。普段の色と違う……本来のノイエの髪の色だ。

「どうして?」

「これのお陰かな?」

「凄い」

何処か嬉しそうに鏡の前に居るノイエがこっちを見た。

僕のハリセンを凝視して……その髪の色を赤くしてだ。

あはは。二重書き換えは出来ないんだ。覚えておこう。

「何処でそれを手に入れたの?」

「……貰いました」

「何処で?」

「それが記憶に無いんです」

「……」

釣り上がった目でこっちを見ているのは間違いなく先生だ。

ただ好奇心が暴走している状態の先生は……詰め寄って来た彼女は、僕の襟首を両手で掴むと激しく前後に振り出した。

「根性入れて思い出しなさい! それは刻印の魔女の魔法なのよ!」

グルングルンと頭を振られて気持ち悪くなる。

「だから本当に記憶に無いんですって」

「思い出しなさいって……イタタ」

襟を放し、先生は顔を歪めると跪いた。

右腕を押さえている彼女は顔色を悪くして震えだす。

「先生?」

「……大丈夫。まだ体が万全じゃないだけよ」

震えている先生を気遣い、彼女をベッドへと誘う。

く~く~と寝ているポーラを少し退かして先生をベッドに横たえる。

呼吸を荒くした彼女は、何度か深呼吸をして息を整える。

「もう少し休まないと無理そうね」

「ですね。無理しないでちゃんと治して下さい」

「……そうね」

もう一度深く息を吐いて、先生が顔をこちらに向けて来た。

僕もベッドに座り彼女の顔を見る。ノイエの顔だが先生だ。

『術式の魔女』

ユニバンス王国に誕生した稀代の魔女。

最近色々と聞き取りをした結果、ようやく終末魔法の内容を把握できた。

『腐海』

全てのモノを腐食して腐らせ溶かす魔法。

彼女はそんな魔法を作りだし使用した大罪人だ。

「ねえ先生」

「何よ?」

「どうして腐海なんて魔法を作ったんですか?」

「……」

アイルローゼは何も答えず左腕を顔の前に動かすと両目を隠した。

「たぶん貴方なら分かるわ」

「分かる?」

「ええ。だから次に出て来るまでに、どうしてそれを作ったかを貴方なりに考えてその答えを聞かせなさい。正解だったらご褒美をあげるから」

告げて彼女は色を手放し……赤から白銀へと変化した。

ムクッと起き上がったノイエが僕を見つけて飛び込んで来る。

「アルグ様」

「……ノイエ」

「はい」

「大好き」

そっと彼女を抱きしめ返すと……何故か分かった気がした。

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