作品タイトル不明
そっちの心配だな
《ここまでは計画通り。でもやっぱりお姉ちゃんでもこの問題は解決できなかったか……》
王城内の執務室で椅子に腰かけ、ホリーお姉ちゃんがダメ出しして手直ししてくれた書類を眺めながらため息を吐く。
ポーラが運んでくれた紅茶を啜りながらもう一度考えてみる。
《ノイエの中の人物を限定する。髪の色からしてカミーラに頼むしかない。それなら周りの人に先生と勘違いして貰えるかもしれないけど、先生が棒術を振るうとか考えられない。ノイエの髪の色をどうにかするしかない》
それでも無理ゲーだ。カエデさんとその郎党30人対ノイエとの戦いをどうやるかだ。
ノイエが対人戦闘とか出来れば……はて? そう言えば気にしたことが無かったな。
「あれ?」
そう言えばノイエって人と戦ったのってオーガさんとモミジさんだけじゃない?
つまり聞けば良い。だが昨夜呼んでしまったホリーは誰かの手伝いが無いと出て来れないはずだ。
今夜はセシリーンに頼んで誰か出て貰おう。
「酒は?」
「どうぞ」
出て来たのはカミーラ姐さんでした。
そうだよな。戦闘のことなら姐さんだよな。
グビグビと高級酒を煽って一息ついた姐さんがジロッとこっちを睨んで来た。
「セシリーンにまで手を出したって?」
「申し訳ございませんっ!」
必死の土下座だ。良く分からないが、僕の中の何かが『迷うな。やれ』と告げて来る。
「別に怒ってはいないが……ファシーが変にやる気を出してな。やる気自体は悪くは無いが、魔法はいかに冷静に使えるかが重要だ」
酒瓶の飲み口をこっちに向けて彼女は笑う。
「だからもっと別の誰かを口説いてファシーを熱くしろ。心は熱くでも頭は冷静に……それが出来るようになればファシーはこれからまだまだ化ける」
「……」
何処の熱血マンガですか? 確かに姐さんはその手のマンガが良く似あいそうだけど。
ただしそれだと僕はノイエの中の人たちを口説き続けろと言う無理をしなくちゃいけなくなる。うん。無理。
「辞退させてください」
「どうした? 男だったら女を口説いてなんぼだろう? とりあえず脈のありそうなシュシュとかリグとかどうだ?」
脈合ったの? リグは友達で良いと言ってたのに、と言うかシュシュは無いだろ? たまに出て来てはその辺をフワフワして帰って行くぞ?
「たぶん脈は無いかと」
「それをどうにかするのが旦那の腕の見せ所だろ?」
「無理な物は無理です」
「情けない」
また酒瓶をラッパ飲みして姐さんが『けふ~』と息を吐いてニヤリと笑った。
「ならアイルローゼか。あれなら口説ける」
「……」
また湧いて出て来たぞ。その電波なフラグが?
「先生を口説けるとか一番無理な気が」
「出来るだろう? 本人がお前のことを好きだと言ってるしな」
「……」
「まあどうするかは旦那次第だ。頑張りな」
それはそうなんだけど……あの先生が? 本当ですか?
空の瓶をサイドボードに置いて姐さんが立ち上がった。
カミーラは軽く肩を鳴らすと手を前に突き出す。何かが集まるかのように形を作り棒を成した。
「さあ旦那……少し私と遊ぶかい?」
「命を大切にが僕の好きな言葉です」
「冗談だ」
クルリと回すと棒が分解して消えた。
「セシリーンから聞いたが、ノイエが対人戦闘を出来るかという話だったな?」
「はい」
「結論から言うと出来る。ただ問題がある」
「問題ですか?」
「ああ。ノイエが戦い方を覚えているか……それと"あれ"だ」
「あれ?」
どれですか?
戻って来たカミーラは髪を掻き上げた。
ふと視線を外に向けると、目覚めたノイエが全力で旦那を襲っている。
寂しがり屋が寂しさを誤魔化す為に甘えが過ぎての行動の一環だろう。
「問題はあれなんだよな」
「あれって?」
「聞こえていただろう?」
「うふふ。カミーラが旦那様を口説くとか思って耳を塞いでたわ」
笑いながらセシリーンは自身の両耳を塞ぐ真似をする。
鼻で笑ったカミーラは、視線を外に……深部へと向かう通路を見る。
「エウリンカに作らせるのが一番なんだがな」
頭を掻いてカミーラは苦笑する。
ノイエの対人戦闘の師はスハだ。魔剣使いと呼ばれた彼女の弟子であったノイエは、膨大な魔力を魔剣に注いで振り回し続ける。
圧倒的な火力で敵を薙ぎ払うのがノイエの戦法だった。
「一番の問題は、ノイエが優し過ぎたから剣を振るえなかったがな」
「それで貴女に1,000回は負けてたわね」
「魔剣を握って棒立ちしていたあの子を一発殴ってお終いだったからな」
懐かしい過去の話だ。
それで目を回したノイエを引き取りに来た過保護すぎる保護者が拳を打ち鳴らし……そこからが本当の戦いだった。
「そうだ。セシリーン」
「何かしら?」
「グローディアとアイルローゼは?」
「グローディアはシュシュとホリーが探しに行ってるわ。アイルローゼはたぶん近くで休んでるはずよ。探す?」
「探せるなら急ぎはしない」
その返事を分かっていたようにセシリーンはクスリと笑った。
「大丈夫よ。たぶんグローディアもアイルローゼも協力してくれるはずよ」
「そっちの心配はしてないさ。アイツ等は元々ノイエに甘いからな」
「なら何の心配?」
「そうだな……」
苦笑いしてカミーラはセシリーンを見た。
「旦那とホリーがどこまで本気で共和国を切り崩す気でいるのか……そっちの心配だな」
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