軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いつも、書いてる

「ありがとうファシー」

「は、い」

「ごめんなさいね。彼に逢いたかったんでしょう?」

「……」

コクンと頷いてから顔を左右に振る。

本心を覗かせるファシーにセシリーンは柔らかく笑った。

「平気。明日、逢うから」

「そう。ありがとう」

手招いてみると警戒しながら彼女が歩み寄る。

手を伸ばし頭を撫でるセシリーンにファシーはその目を細めた。

ここ最近のファシーは、あのカミーラに弟子入りし、魔法使いとしての基礎を学んでいる。

元々才能はある。だからこそしっかり学べば成長を見せる。

ファシーはあの施設ではほとんど学ばず、管理する者たちの厳しい視線から逃れ隠れて小動物を愛でていた。そこに合流し一緒に遊んでいたのがノイエだった。

向学心も見せず性格が優し過ぎたファシーは不適合者となり、ユーリカの魔法で壊された。

それ以降酷い雑音が彼女の心を満たしていた。聞くに耐えられない酷い音ばかりだ。

頭を撫でていた手をファシーの胸に手を当てる。

僅かな膨らみしか感じない胸に触れつつ、セシリーンは耳を澄ませる。

あれほど煩かった雑音は小さくなり聞き取りにくい。

「心が静かね」

「は、い?」

「出会った頃には戻れないでしょうけど……このままなら人前に出ても大丈夫だと思うわ」

「はい」

コクンと頷きファシーは泣き出しそうな表情を浮かべる。

心を壊され感情が狂ったファシーは思いとは別の表情を浮かべる。

泣き出しそう……と言うことはそれほど嬉しいのだ。笑顔なのだ。

もう一度今度はファシーの頬に手を当て、セシリーンは柔らかく笑った。

「頑張りなさい。彼に好かれるためにも」

「……」

ポロリと涙を溢し、ペコリと頭を下げたファシーは逃げるように駆けだした。

その背を見れないセシリーンは、耳で彼女を追い続ける。

駆けながら泣き続けるファシーは真っすぐカミーラの元へと向かっていた。

本当に頑張り屋なのだ。だからこそあの様に狂わされても彼女はノイエの手助けること選んだ。

《私も少しは頑張らないと》

苦笑気味に笑いセシリーンはそっと自分の胸に両手を当てた。

歌を捨てた自分は今までにどれほどの努力をして来ただろうか?

この耳と祝福でどうにか生き永らえた自分としては、ファシーのような努力をしているとは思えない。

「……」

口を開き歌おうとしても喉が詰まり声が出ない。

息苦しさから喉を押さえて呼吸を整える。

情けない。自分はきっとこの中に居る誰よりも臆病なのだと思う。

「恥ずかしいわね……本当に」

息を吐いてセシリーンは零れた涙を拭った。

「アルグスタ、様」

「……」

セシリーンの言葉通り次は本当にファシーだった。

ベッドの上でモジモジとしている様子は本当に可愛らしい。

ただ物凄く久しぶりに見た気がする。

「おいで」

「は、い」

ベッドの上で四つん這いでやって来たファシーが抱き付いて来た。

甘え方がノイエに似てて物凄く可愛い。小動物っぽくて愛でて居たくなる。

「ファシー」

「は、い」

「最近何をしてたの?」

「……勉強」

ここにも勉強好きが居たでござる。

「何の勉強?」

「魔法」

「……」

魔法使いが魔法の勉強だと? どれほど勤勉なのか?

「カミーラに、習ってる」

「串刺しの方法を?」

「違う」

フルフルと頭を振ってファシーが頬を擦り付けて来る。

「基本。カミーラは、それが、大切、って」

「だね。僕も先生から基本ばかりやらされてる」

「……」

グイッと身を乗り出し彼女が僕の顔を見た。

「何を、するの?」

「はい?」

「アイル、ローゼは、何を、教えて、くれるの?」

「……こっちに」

ファシーの圧に押し負けて彼女を机に連れて行く。

先生が前に書いた手本である紙を見せて……ファシーが先生の手本を手にする。

物凄く真剣な眼差しで書かれている魔法語を確認し、ファシーは椅子に座ると辺りを見始めた。

引き出しを開いて紙を手にするとこっちを見た。

「使って、良い?」

「良いよ。ペンとインクはこれを使って」

「は、い」

ペン先をインクに浸して彼女は紙に魔法語を綴りだす。

先生ほどでは無いが早いし確実だ。僕なんてまったく太刀打ちできない。

でも最初は正確だったが、途中から集中が切れて文字が歪み出した。

書き終えた物を見てファシーが笑顔を見せる。うん。危険だ。危ない。

「最初にしては凄く上手だよ?」

「……いつも、書いてる」

うおっと笑顔が増々濃く。

「でもこんなにびっしり長くは書かないでしょう?」

「は、い」

「先生は単純作業をどこまで集中して書けるのかを追及して来るからね。魔法語の発音も同じ。単文の魔法語を延々と言い続けて口が覚えるまでやり続けるんだ。辛くて舌と顎が痛くなるけどね」

ジッと自分が書いた紙を見つめたファシーが僕の顔を見た。

「アルグスタ、様も、頑張って、る?」

「うん。ノイエにばかり苦労させられないし」

「……は、い」

コクンと頷く彼女は少し泣き顔だ。

良し良しと撫でてやると……ファシーが抱き付いて来た。

「アルグスタ、様」

「なに?」

「……」

「はい?」

ウルッとした目で彼女が見つめて来る。

「痛い、こと、したい。して、くれる?」

まさかの連続か? 大丈夫か僕? 何かが枯れてしまいそうだぞ?

少し笑っているファシーを見ると、どうやら僕は頑張るしかないらしい。

「良し。ファシーが痛くないって思うぐらいに頑張っちゃるぞ~」

「は、い」

増々泣き顔になったファシーが涙を溢した。

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