軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気のせいでございます

「相手の目がグルグルと動いて?」

「本当です!」

「……」

言葉を並べるモミジさんが必死だ。

自分が"人間"相手に負けたこともあるのだろうが、何より相手の魔法の特徴が全く伝わってこない。

これだから魔法を知らない国の人はっ! そんな僕も詳しくは無いですけどね。

「グルグルと目が動くとわたしの精神が削られるように奪われたのです!」

「何歩か譲ってそのグルグルが魔法だとしようか? 何故に精神が削られるのが分かる?」

「分かりますよね? 精神が削られると、全身を包んでいる気が消失して……」

説明しているモミジさんの精神が削れて行く様が見て取れた。

気とかオーラとか漫画の世界の話だと思ってたんだけどね。そんな方法で確認を取られても魔法の国の人たちな僕にはやっぱり分かりません。

「で、『このままだとヤバいかも?』と思って突撃したら、思いの外精神的な攻撃が響いてて頭から壁に突っ込んで自滅したと?」

「はい。わたしが最初に壁を崩したのが良く無かったのか、ぶつかった衝撃で建物が崩れて……」

結果としたら完全な自滅だけど、それでもモミジさんは咄嗟に祝福を使って完全に埋まってしまうのを回避した。何より建物が崩壊する音で警邏の兵がやって来て彼女は救い出され出されたのだ。

ただ身分証を持ち歩いていなかったから、身分確認に時間がかかってしまったけどね。

「ん~」

「本当なんです! アルグスタ様っ!」

「と、言われましても……先生? 何かご意見ありますか?」

何となく視線を向けると、医者の先生が少し真面目な顔でモミジさんを見た。

「1つ聞こうか」

「はい」

「お主が見た者は……髪の色が桃色では無かったか?」

「桃色? はい。髪も瞳も桃色でした」

ガタッ

突然の音に驚いた様子でモミジさんがこっちを見る。

椅子を蹴飛ばし僕は立ち上がっていた。

当たり前だ。桃色の髪と瞳を持つ魔法使いなんて実はそんなに多くない。

その色はこのユニバンス国内でもある地方の領内に多く住んでいるのみなのだ。

「まさか……ユーリカだと言うのか?」

「ゆーりか?」

何も知らないモミジさんはその顔を傾げた。

僕は救いを求めるように視線を巡らせると、先生が頭を掻いてため息を吐いていた。

「最近近衛から診察してくれと意識不明の患者を3人預かった。呼吸に脈拍も確りしているのに意識だけが刈り取られた不思議な状況だ。それで私は考えた。こんな状況を作り出せる魔法はあるか?」

「操作系の難解で厄介な魔法なら?」

「正解だ。使い手は極度に少ないが強力な魔法……精神系なら可能だ」

「……」

最悪だ。ユーリカが生きていて、それもこの王都に居るだと?

冗談じゃない。もしノイエと接触でもされたら……最悪過ぎるっ!

「先生」

「何だ?」

「ユーリカ以外の可能性は?」

腕を組んで彼は数度頷いた。

「……前魔法学院学院長のバローズ・フォン・クロストパージュぐらいだろう。だが彼はある事件に関連して王都を出て地方の田舎で隠居している。彼が王都に出て来ることはまず無い」

「そうですか」

頭を抱えてしばらく悩む。って馬鹿か?

悩むのを止めて僕は顔を上げた。

「先生。モミジさんの怪我の具合は?」

「頭を打っているから今日は激しい運動をさせるな」

「分かりました。そう言うことでモミジさん。本日はこのまま寮の部屋に戻って寝てなさい」

「……」

何とも言えない表情でモミジさんがこっちを見て来るが、しばらくすると小さく頷いた。

「なら先生。お代はナーファに渡しておくんで」

「ああ」

迷っている暇なんて無い。まずはユーリカを捕まえることが最優先なんだ。

「待て」

「はい?」

病室を出て行こうとする僕に先生が声をかけて来た。

「相手と出会ったらまずその目に気をつけろ。ユーリカとやらの魔法は、その目を使った物らしいからな」

「……良くご存じで?」

「ああ」

軽く鼻で笑って先生が口を開いた。

「あの日のことを調べたのはお前だけではない。そう言うことだ」

「ですか……記憶もないのに?」

「ああ。記憶に無いから調べるのだよ」

「そうですね」

クスッと軽く腰を折って一礼する。

「ご忠告痛み入ります」

「第3班からの報告が途切れただと?」

「はい」

「……」

副官からの報告を受けたハーフレンは、やれやれと頭を掻いた。

王都内の"害虫"の駆除を専門にしている班がやられるとは想像出来なかったのだ。

だが精鋭揃いの部隊がやられたと言うなら、それ相応の敵が居ることを意味する。

「何かしらの敵が潜伏している可能性が強いと言うことか?」

「可能性だけですが」

副官であるコンスーロが簡単な答えを寄こす。

「……その化け物が子供らを殺して回っていると?」

「可能性は拭えません」

これ以上の質問を正直して欲しくない。

だが主であるハーフレンは不敵な笑みを浮かべ立ち上がろうとした。

「ならばっ」

「何処へお出かけでしょうか? ハーフレン近衛団長様?」

「……メイド長か」

中腰の姿勢から、ハーフレンは上げていた尻を降ろす。

執務室の入り口から静々と歩いて来たメイド姿の美人に、その場に居た近衛の者や事務担当の双子などは地獄に仏を見たかのような表情を作り出した。

ハーフレンの机の前まで来たメイド長は、自身を呼びつけた旧知の仲である初老の副官に軽く視線を向け……そして近衛団長に冷たい目を向けた。

「最近また書類仕事が滞っていると国王陛下からお聞きしました。それは……どうしてでしょうか?」

「いやだって……ずっと書類をやって来たんだ。少しぐらい羽を休めてもだな」

「少しぐらい?」

「……」

返事に窮してハーフレンは机の上に存在する書類の山に手を伸ばした。

「それで宜しいかと思います」

柔らかな笑みを浮かべ、フレアは団長様の背後へと回り込むと……時間の許す限りその場にとどまることにした。

仕方なくハーフレンはコンスーロに現場の指揮を命じた。

「なあメイド長?」

「何か?」

「……最近お前のスィーク化が酷い気がするんだが?」

「気のせいでございます」

やんわりと一礼をし、メイド長は口を開いた。

「スィーク様でしたら言葉よりもまず手が出てるはずです」

「お前の優しさに感謝するよ。全く」

完全に首輪をはめられたハーフレンは、その場から移動が出来なくなった。

(c) 2020 甲斐八雲