軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悔しいな……

「……決めた」

毎日のように幼馴染に負け続けたミャンは覚悟を決めた。

自分には色々と足らないと最初から理解していた。

生まれ持っての才能なんて魔力ぐらいで、それだって幼馴染の半分も無い。

勝つためには自分が努力し、無理をするしかないのだ。

ならどうする?

決まっている。魔法使いが強くなる方法は決まっているのだ。

「よっと」

立ち上がって制服についた埃を払ってミャンは足を進めた。

向かう先は……彼女の居る場所だ。

「お断りよ」

「何でよ!」

色々な感情を押し潰して頭まで下げて……相手からの返事がそれだった。

顔を上げて今にも噛みつかん勢いでミャンは相手を見る。

学院で最も優れた力を持つ天才児だ。

「自分が言った言葉の意味を理解しているの?」

「分かっているわよ。でも必要なの!」

「……何の為に?」

「…………少しでもシュシュに近づきたいの。同じ系統の魔法を学んで、あの子ばかり才能を開花させていくのをずっと見たから」

「悔しいの?」

真っすぐな相手の言葉にミャンは胸がチクッと痛むのを感じた。

「……悔しく無いと言ったら嘘になる」

「で、しょうね」

「でも見返したいとかそんな気持ちじゃない!」

バンと机を両手で叩いてミャンは真っすぐ彼女を見た。

「私も見てみたいの」

「何を?」

「貴女やシュシュが見ている世界を。最強な人たちが覗くその世界を」

「……」

相手の言いたいことは理解出来た。

でもそれは決して見栄えの良い世界では無いと、アイルローゼは知っていた。

「お断りよ」

「アイルローゼっ!」

嘆息気味に息を吐いて、アイルローゼは自身の右掌を相手に向けて差し出した。

「私にプレートを作らせたいのなら、まず無地のプレートを持って来なさい。

それに刻む魔法は? まさか全てを私に丸投げして作らせる気なの? だったら今から娼館に行って全力で体を売りなさい。運が良ければ病気になって死ぬ前に私に支払う代金が貯まるかもしれないわよ」

思いもしていなかった言葉にミャンは体を仰け反らせ、それでも踏ん張って彼女を見た。

「……友人価格で?」

「私は自分の技術を値切ったりしない主義なのよ」

支払いと言う現実を突きつけられ、ミャンは肩を落として部屋を出て行こうとする。

流石にその哀愁漂う背中を見せられ……アイルローゼの心が動いた。

「ちなみにどんな魔法を考えているの?」

「……網よ」

「網?」

ピクッと天才児が反応したのに気付かず、ミャンは言葉を続ける。

「ええ。私はシュシュのように確実に相手に魔法を当てられないから、だから一度にたくさん投げて相手を絡み取ろうと考えたの」

「……」

寂しい背中を見せながらミャンは部屋を去って行った。

ただアイルローゼは椅子に座り直すと、その視線を天井に向け……目を閉じた。

「あの~先生?」

「なに?」

「無地のプレートの在庫は5枚ですから」

「……その言葉の意味は?」

「何でもありません」

ペコペコと頭を下げて部屋を飛び出して行った弟子の様子に息を吐く。

自分の考えを悟られるほど……ミローテは色々と手伝って貰っているから仕方が無いのかもしれない。

「でも網だなんて……そんな面白そうな発想を聞かされたら疼くじゃないの」

呟いてアイルローゼは思案を続けた。

「はぁ~」

女子寮の談話室として使われている空き部屋の中で、ミャンは床に座って膝を抱いていた。

アイルローゼに言われて以降……プレートの価格や何やらを調べて絶望したのだ。

特に彼女への注文はほとんど時価だった。凄すぎるな~と呆れながら笑うしかない。

「でももうこれしか無いんだよな」

呟いて自分の腕を見る。一般的にプレートを埋めるのは腕が多い。腕を斬って骨に歪曲させたプレートを巻き付かせて縫合して閉じる。

結果として強い力を得るが、対価として傷跡を得る。

自分の柔肌に傷跡なんて……と考え、ちょっとカッコイイかもへと思いが変化する。

もしかしたらその傷で意中の相手をと、妄想が暴走した辺りでハッと我に返る。

軽く頭を振って邪な思念を追い出した。

「でもお金が……全部貧乏が悪いんだ」

生まれが普通の魔法使いの家系なミャンとしては実家に立て替えて貰うなんてことは出来ない。

なら全てを諦めるしかない。強くなることもだ。

「悔しいな……」

同室のシュシュに見られたく無くて逃げてきた部屋でミャンは泣く。

膝に目頭を押し付けて、声を押し殺して肩を震わせる。

と、その肩に誰かが手を置いた。

慌てて顔を上げると、月明りに映える赤い髪を見た。

「私の実験だと言ってキルイーツに頼みなさい。本当に実験だから」

言って赤毛のアイルローゼは、ミャンが抱きしめている両膝の間にプレートを差し込んだ。

虹色に輝くそれは……芸術品を思わせる模様が刻まれていて、手に取ったミャンは見入るように見つめてしまうほどだった。

「でも私」

「言ったでしょう? 実験よ。だから文句や苦情は聞かない。私が作りたくなって勝手に作った術式だから。嫌ならそれは処分して。表に出せる魔法じゃ無いのよ」

「やだ」

ギュッと抱きしめミャンは、まだ潤んでいる目で彼女を見た。

「だって私の大切なアイルローゼがくれた物ですもの。もうこれは体内に埋め込んで……ヤバいわ。何かこれだけで知らない世界が見れそうな気がして来たっ!」

「やっぱり返して。何か色々と無駄なことをした気がして来たから」

「嫌よ! もし返せと言うなら……代わりにアイルローゼの初めてを私にっ!」

勢いで襲いかかろうとしたミャンが動きを止めた。

とてもとても綺麗な笑みを浮かべたアイルローゼの気配が危な過ぎたのだ。

「冗談。あはは~」

「ええ。だから私も今から 魔法(じょうだん) を言うわ」

「シャレにならないからっ! 本気かっ! シュシュ! た~すけて~!」

全力で逃げるミャンを追って、炎を身に纏ったアイルローゼを止める者は誰1人として居なかった。

後日手術を受けたミャンはその左腕にうっすらと傷跡を残すこととなった。

だが……その実力は飛躍的に向上し、ついには講師を任されるほどとなるのだった。

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