作品タイトル不明
なんでやねん!
「おっちゃん」
「どうした坊主?」
「感謝って何だろう?」
「良し分かった。おっちゃんが女の口説き方を教えてやろう」
「どうしてそうなる? 僕としては真面目に感謝についてですね」
「大丈夫だ。良いか匠? 男女の感謝って言うのは最後にどれだけ巧く、そして強く出来るかだ。千の言葉よりも一回の行為で全てが伝わるんだ。具体的に言うとだな……こう斜め下から突くべしっ! 突くべしっ!」
鋭く腰を振ったおっちゃんは、腰がギックリしてしまったらしく動かなくなった。
お陰で本日は強制的にお休みとなった。
《アルグ様……どこ?》
(分かってるよ。でももう少しだけ待って)
聞こえてくるのが涙声なので辛い。でももう少しだけ待って欲しいんだ。
何がどうしてこうなったのかは分からない。でも僕は最初で最後の機会を得たんだ。
この機会を逃せば僕はきっと永遠にこの思いを引き摺ってしまう。だからただ言えば良いんだ。母さんに。
でも……知っている。母さんはこれからどんどん体調を崩して、病気になって来年には。
「どうしてかな。結末を知っているのに……その前に来るなんて酷いよな」
分かってる。だから僕は本来なら何もしない方が良いんだ。過去や未来を変える行為はしない方が良いんだ。
でも、それでも……別に母さんに感謝の言葉を伝えるくらい良いだろう?
あの時言えなかった言葉をただ伝えるだけだ。それだけなんだから。
「どうして泣けてくるかな……本当に」
腕で目を擦り涙を隠した。
機会は山のようにあったのに、結局言えずに夜を迎えた。
僕を呼ぶ彼女の声はずっと泣いている。
本当に辛い。大好きな人の泣き声なんて聞いていたくない。
「ダメだ。明日言おう」
そう覚悟を決めて寝る前に水でも飲もうと台所へ向かう。と、また居間から明かりがこぼれていた。
覗くと母さんがまた机を枕にしていた。
疲れているのだろうに……そう思いタオルケットを手にして戻って来る。
肩にかけてあげて明かりを消す。
「……ありがとう匠」
「ふぇ?」
縁側から差し込む月明りに、顔を起こした母さんの様子が見て取れた。
「前もこうしてくれたわね」
「うん」
「ありがとう。私は優しい子供を持って幸せだわ」
涙が溢れそうになって顔を隠す。
違う。僕の方こそ感謝でいっぱいなんだ。
「母さん」
「なに?」
「……産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう」
「何を言ってるのよ。そんなの……当り前よ」
言って笑う母さんの様子が手に取るように解る。
当たり前なんだ。こんなにいっぱい苦労してくれたのに……母さんからしたら普通なんだ。
それだと僕は一生母親と言う存在に勝てない気がする。僕には出来そうに無いから。
「母さん」
「なに?」
「本当にありがとう。ちょっと行って来る」
「何処に?」
「うん。僕の大切な半分の所に」
「……そう。でも早く帰って来なさいよ」
「は~い」
行って廊下を走り靴を引っ掻け外へ出る。
後は全力で走って……小高い丘の頂上に立った。
「ノイエ~! 僕はここに居るぞ!」
天に向かい手を伸ばして声を張り上げる。
大丈夫。ノイエには聞こえるはずだ。だって彼女は僕の大切な"半分"なのだから。
空に光の粒子が集まり大きな光円を作り出す。
「ここだ! ノイエ!」
もう一度声を張り上げて手を伸ばすと、光が割れて彼女が手を伸ばして来た。
「アルグ様っ!」
「ノイエっ!」
彼女に掴まれ、体からヌルッと引き出されるような感触を覚えたら……強引に引っ張り上げられて、ぎゅ~と彼女が抱き付いて来た。
痛いぐらいに顔を押し付けて来るノイエの泣き声が止まらない。
「ぐすっぐすっ」
「ごめんねノイエ」
「ダメ」
「はい?」
「居なくなるのはダメ!」
顔を上げてノイエがその顔にはっきりと見て取れる表情を浮かべていた。
お怒りだわ~。めっちゃ怒っていらっしゃるわ~。
「ダメ!」
「はい」
「ダメ!」
「もうしません」
「ダメ!」
「分かりました」
「……大好き」
「そんな卑怯なっ!」
またぎゅ~と抱き付いて来るノイエが甘えだす。
この子ったらいつの間にこんな甘え上手に。
「ノイエ」
「はい」
「大好き」
「はい」
「愛してる」
「はい」
「ずっと一緒に居てね」
「はい」
彼女の背中を撫でて……さて問題です。ここはどこでしょうか? フワフワと宇宙空間のような場所に浮かんでいるのですが? 何よりノイエはどうやって救出に来たの?
「……気づいたら?」
「ですよね~」
質問したらその答えがそれだった。
流石僕のノイエだ。ある意味でブレない。
多分良く分からないままに先生とかが協力して送り込んだに違いない。
ならば直接聞けば良いのか。
「先生? 出て来てちょ」
ノイエに気づかれないように囁いてみる。
セシリーンが居るはずだからこれで十分のはず。しかし変化がない。
しばらく待ったが全く変化が無い。
「マジか?」
「はい?」
「反応が無い。意外とこれって危機的状況なのでは?」
「はい」
「とりあえずで頷かない」
「……」
ぎゅ~と抱き付いて来たノイエがスリスリと顔を擦り付けて来た。
本格的にどうしたら良いのか悩んでいると、僕の右手がほんのり光っていることに気づいた。古いことを知る賢者さんから貰った不思議な魔法を宿した部分だ。
確か魔力を注いで軽く振れば具現化するらしい。魔法を貰った時に脳内にそんな説明文が浮かんだから覚えている。
魔力を注いで右手を振ると、確かに思いもしない物が出た。
「って、なんでやねん!」
パシンッ
これを持ったらそれを言って何かを叩かなければいけない気がする。
僕の右手に生じた物……それはハリセンだった。
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