作品タイトル不明
それが私の特技ですから
室内には、カリカリカリとペンが文字を綴る音だけが響き続ける。
ここ最近山となっていた書類がどうにか通常レベルにまで圧縮して来た。
その原因を作り出した弟たちは、どうにか大人しくなってくれた。今だけかもしれないが。
弟たちが引き起こす騒動の大半を秘密裏に処理する人物……それが国王であるシュニットだ。
優秀なのであろう弟たちは本当に好き勝手やってくれるのだからたまった物では無い。
それでも何かある度に何かしらの膿が出て国が良くなるのだから始末に置けない。
やれやれと肩を回し、机に頬杖をついて彼は息を吐いた。
今回の件は反省する部分が多かった。
自分が城内で狙われたことや遠距離間での連絡などの問題があった。相談がてら父親に伝えれば『儂はこのような身じゃ。引退だな。完全に引退だ』と笑い母親の尻でも撫でだすだろう。
つまりは国王である自分が全て対処するしかない。
遠距離の連絡は『鳩とか?』と言う弟の助言で鳥を使った物を実験しているが、ドラゴンのお陰で鳥が思うように飛行しないから絶望的だ。代わりに『犬は?』と言う意見もあったが、これも大差ない。だったら近衛が抱えている『猟犬』を走らせた方がまだ確実だ。
自身の襲撃に関しては、一時的に護衛のフレイヤが欠員となったが……前王の時代から抱えている者たちが居るので、護衛の人員的には問題は無い。一番の問題は、今回"彼女"の一撃を受けて壊れてしまった『身代わり』の魔道具を大至急求めなければならないことだ。
ただしあれは作れる者が限られる一品だ。ユニバンスでも術式の魔女が数個作っただけで、その大半は前王の身代わりとなって潰えてしまった。
(父上が使い過ぎたのが痛いな)
思い息子は苦笑する。
過去はそれほどまでに危なかったとも言える。今は王家の者が1人で王都内を移動するなど出来るが、それには住まう者たちに『この場所は安全である』と知らしめる為の行為でもあるのだ。
「ドーンです~」
隠し扉が押し開かれ、そこからドレス姿の美少女が飛び出て来る。
誰でも無い、現王妃キャミリーだ。
「アルグスタおに~ちゃんが居ませんです~」
「あれなら今日は王都中を走り回って遊んでおるよ」
「キャミリーは誘われてないです~」
頬を膨らませてソファーに座ろうとした王妃は、ピタッと動き止めて……改めて夫の元に駆け寄りその膝の上に座った。
その姿は夫婦と言うより親子である。
「落ち着くです~」
「そうか」
「はいです~」
甘えて来る妻の頭を撫でてやり、シュニットは軽く息を吐く。
「それでアルグスタの動向は?」
「いつも通りです~。隠してる書類も、不正をしている役人さんよりかだいぶ緩いです~」
「何をしているのだ。あれは?」
何の気兼ねも無く弟の執務室に入れる妻に頼み調べて貰った結果がこれだ。
これなら別の意味でもっと悪事を働いていてくれた方が喜ばしい。
「隠し事はありそうか?」
「おに~ちゃんは、隠し事だらけです~」
「……普通に喋らんか?」
「こっちが普通です~。素なのです~」
可愛らしく咳払いをして、キャミリーは王妃の顔を作った。
「演じるのは好きじゃ無いんですけどね」
「女が怖いのか、お前が怖いのか?」
「私は普通ですよ? ただこっちで喋った時のお相手の絶望に満ちた表情を見るのは好きですけど」
クスクスと彼女は笑う。その様子に悪びれた気配は無い。
普段の様子から誰もが彼女を『頭が足らなく騙しやすい』と勝手に判断し騙されるのだ。
何処に自ら進んで道化を演じる王妃が居ようか……それも抜けた知能と卓越した能力の持ち主がだ。
「書類などからアルグに汚職などは無いか?」
「無いです。本当に綺麗すぎるくらいで、やっているのは帳簿の誤魔化しくらいです」
「それはそれで問題だが?」
「自費を投入し、それを投じてないように見せかけてます。止めさせますか?」
「……ノイエ関係であろう? 何より普通は逆であろう?」
本当に頭が痛くなる弟だ。
公費では足らないから実費をつぎ込みそれを隠すなど……普通ではあり得ない。
「ノイエ様を見ていると愛され過ぎてて羨ましいです」
「……私に愛情が足らないと?」
「貴方の優しさは存じているので十分です。何より私はこの国のこの家族が大好きですから」
クスクスと笑い、キャミリーは甘えるように夫に背を預ける。
「共和国に居た時は生きた心地がしませんでした。赤子なのに全てが分かると言うのは本当に恐ろしく、乳母の母乳にすら毒が含まれているのでは無いのかと不安になるほど。
だからこんなにも成長の少ない体に」
「それはお前の好き嫌いが原因では?」
「……で、アルグスタ様の所で色々と調べてて1つだけ疑問が」
強引に話を誤魔化し、彼女は夫が最も食いつきそうな話をちらつかせる。
やれやれと肩を竦めて国王は不満を口にするのを止めた。
「何があった?」
「何も無いのです」
「無いだと?」
「はい」
クスッと笑いキャミリーは自身の頭を指さし、肩越しに夫を見た。
「何度思い出しても彼が『アイルローゼが刻んだプレートを購入した記録』が無いんです。彼の腕に埋まっているらしいプレートは本当に『アイルローゼ』の作品なのですか?」
「……無いのだな? お前の記憶に?」
「ありません。お兄様の帳票類は完璧です。だからこそどんなに遡っても購入したのは、『未使用』の物ばかりです。強いて言うと未使用の物しか買ってません」
「……」
妻がそう言うのなら事実なのであろうとシュニットは理解した。
「それと初歩的な魔法しか使えない彼が、大量に魔法書を買い漁っている点も引っ掛かります」
追加の報告でシュニットは息を吐いた。
「全て書きだせるな?」
「はい。それが私の特技ですから」
言ってペンを手にしたキャミリーは、自身が見た記憶の一部を正確に複写して行く。
彼女の生まれ持った能力……それは絶対記憶能力だ。一度見た物を彼女は決して忘れないのだ。
故に恐ろしい勢いで、弟がいつどこで何を買ったのかが紙に書きだされて行った。
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