軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人の過去を弄ぶのは感心しないけど?

「……」

呆然と、ただ呆然と……フレアは天井を見つめていた。

目の前には子供の頃は毎日のように見上げていた天井が見える。

何より使い慣れた湯船は浅く広い。横になって体を伸ばせる作りになっているから、子供の頃は良くこのお風呂で横になっては泳ぐ練習もした。その度に彼に叱られたが。

思い出したら恥ずかしくなってフレアは湯の中に顔を沈めた。

子供の頃から一緒にお風呂など、あの頃の自分は本当にどうかしていたとしか思えない。

一途だと言えなくも無いが、それでもすることに限度がある。

息が続かず苦しくなって顔を上げ水気を払う。

バッサリと髪を切った後もあって正直お風呂は有り難かった。

ただこの後のことを考えると心が痛く、そして苦しくなる。

この場所には彼らが居るのだ。

自分が殺そうとした前王ウイルモット。そしてその妻であるラインリアが。

今更どんな顔をして会えば良いのか分からないが、会わなければいけない。

何故ならそれを相手が望んでいるからだ。

今日が自分の命日だと思い込まされたスィークの言葉の後、有無を言わさず引き摺られ案内されたのが屋敷の浴場だった。

『汚れを落とし綺麗になさい』と言われた時は、このまま本当に男たちの中にでも放り込まれるのかと不安にすらなった。

全身を震わせ、許しを乞う為に口を開こうとして……フレアは思っていた以上の言葉を受けた。

『前国王並びにその王妃であった者に会うのです。身ぎれいにするのは当然でしょう?

何より前国王は誰かの手により傷を負っています。汚れなど以ての外です。まああれ自体が汚れて穢れていますが』

最後の毒舌よりも前半の言葉でフレアの顔は血の気を失っていた。

下手な話……前王なら恥を忍んで尻でも撫でられて居れば許されそうな気がする。

ユニバンス王城内で前国王の女性騎士たちの評価は概ねそんな感じだ。

問題は病気療養中の前王妃だ。

体を壊し人前に出なくなった彼女は、この屋敷に住んでいたフレアですらある日を境に姿が見れなくなった。生きてはいると聞かされていたが、決して会うことは出来なかった人物が自分に会いたいと言っているのだ。

自分の歪んでしまった想いと勝手な価値観などで……やはり暴走していたのだと自覚のあるフレアとしては、本当にどんな顔をして会えば良いのか分からない相手だ。

あの人が怒る姿は想像できないが、それでも自分は最愛の人を傷つけた張本人だ。

文句の1つも言われるかもしれない。叩かれるくらいされるかもしれない。もしかしたら……嫌な想像が頭の中で膨らみ、フレアは自分のお腹に手を当ててそっと目を閉じた。

「生きていますかフレア?」

「あっはい!」

何て言葉を投げかけて来る相手かとも思ったが、あのスィークなのだから仕方ない。

「準備していたゴミ……薪がもう少し残っているのでゆっくりなさい。良いわね?」

「はい」

若干上がりたかったフレアは我慢を強いられることとなった。

普通なら雑用専門の者がする仕事であるが、今日だけはスィークが湯を沸かしていた。

と言うより燃やしたい 書類(ゴミ) が沢山あるから、これ幸いにと燃やしているのだ。

本当にあの夫と来たら、自分が居なければ普通に死ぬことも出来ないらしい。

こんな書類が近衛や国王の手に渡ったとしたら、王族であってもハルムント家は潰えてしまう。だからこそ先回りをし、書類の類の全てに目を通して……夫が関わる物全てを奪って来た。

そしてせめてものお詫びとして近衛団長の机に手紙を置いたのだ。

密告の類として、あの施設の場所を知らせたのだ。

「死後に後妻に鞭打つ夫などきっと良い死に場所に落ちてませんね。これだったらわたくしが出向いても直ぐに見つけられることでしょう」

言って笑い、スィークは書類の全てを火の中に投じるのだった。

「アルグ様」

「ん?」

普段より若干甘えた声を出したノイエが顔を腕に擦り付けて来る。

「後は?」

「うん。あともう一か所……行く必要あるのかな? でもここまで好き勝手やったから一応行って話した方が良い気がするんだよね」

「……行くの?」

「行こう」

「はい」

腕に抱き付いているノイエにそう宣言し、僕らは大通りを並んで歩く。

今日は色々とあり過ぎるのでナガトはお城の馬房に放置プレイだ。まっ何かあればノイエが呼べば勝手に歩いて来そうな馬だけどね。

と、あれ? あの後ろ姿は……パパンの診察にでも来てたのかな?

いつもの無駄に尊大な気配など微塵も発せず、若干背中を丸めて歩くその人物は医者の先生だった。

「ねえノイエ」

「はい」

「耳を塞いで」

「はい?」

立ち止まりそう言うと首を傾げながらもノイエは耳を塞いでくれるのです。本当に可愛いお嫁さんだ。

そっと耳を塞いでいる彼女の手に僕のも重ねて厳重に封をする。

「セシリーン? もし近くに誰か居るなら、リグが見れるように手配してくれるかな? お礼はそれなりに考えます」

告げてノイエの手から自分の手を退けると、首を傾げたノイエが僕の方に手を伸ばして首に抱き付きキスして来た。

「なに?」

「キスしてからの質問が凄いな」

「はい」

『したかったからしましたが?』と言いたげなノイエの頭を撫でて、そっと彼女の手を握り先生の後を追う。

「人の過去を弄ぶのは感心しないけど?」

「うん。でも……一度あの人とリグのことを話してみたかったんだ」

「そう。なら好きにすれば良い。リグは私の隣で寝てるから」

「了解」

先生らしき気配が消え、普段のノイエとなった彼女から手を放す。

「先生。こんな所で何してるんですか?」

僕は迷わずその背に声をかけた。

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