軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女の子の年齢は口にしちゃダメだぞっ

額に浮かんでいた魔法語の脈動が終わりを迎え、ゆっくりとその文字が消えていく。

ハーフレンは信じられない様子でその全てを見ていた。

傷つけられた傷跡も何もかもが完全に消えている。良く見れば古傷の類も残っていない。馬鹿な弟のせいでチリチリになっていた毛先も綺麗になっている。

何もかもが完全な状態だ。

「ん……」

「フレア?」

ゆっくりと目を開きフレアは視線を彷徨わせた。

映り込んだ相手の顔を、愛しい人の泣き顔を見て……フレアは目を瞠り慌てて起き上がる。

「馬鹿。寝てろ」

「馬鹿はこっちの言葉よ。どうしたのハーフレン?」

「どうしたって……覚えて無いのか?」

「はい?」

首を傾げてしばらく考え込んだフレアは、何かに気づいて自身の胸に触れる。

ボロボロになっている黒いドレスの胸元は、流れ出たはずの血ですら残っていない。ただ慌てて触ってしまったせいで、破れかけていたドレスが破れ……小振りだが形の良い胸が飛び出した。

「見ちゃダメ」

「うおっ」

「……」

その声に反応し、フレアは咄嗟に胸を隠すと視線を巡らせる。

いつも通りの夫婦が……ノイエの手によって目を隠された彼がジタバタと暴れていた。

「ダメって言ってるのに」

「今のは不可抗力だって」

「ダメ」

「はい」

妻の言葉に結局折れて、こちらに背を向ける上司の姿にフレアはつい笑いそうになった。

「こいつらは何があっても変わんないよな」

「……ありがとう」

自身の脱いだ上着をフレアの肩に掛けたハーフレンが苦笑する。

その様子にフレアは増々笑いそうになって我慢した。

良く分からないが、とにかく今は胸の中が軽くて些細なことですら楽しく思えるからだ。

「アルグよ」

「へ~い」

「外の連中を頼んで良いか?」

「分かった」

「あと……出来たらしばらくは……」

言い淀む兄の言葉に、弟はやれやれと首を振る。

すると妻の肩を叩いて『シュシュ』とその口が動いたようにフレアには見えた。

「ん~。えいっ」

不意にフワフワと動いたノイエが、魔法語を紡いで腕を振るう。

その魔法の全てを知っていたフレアは、全身の肌が粟立つのを感じた。

「嘘っ! ……これはシュシュの封印魔法?」

「防音式で~姿隠しも~完備~だよ~」

「はい喋らない」

「ムググ~」

その声を残し、フレアとハーフレンは作られた淡く光る箱の中に閉じ込められた。

「これは?」

心配そうに箱の内部を覗くハーフレンに、フレアはどこか呆然とした感じで口を開く。

「シュシュの封印魔法。術者が解かない限り破れないと言われているわ」

「本当か?」

「先生なら破れると思うけど」

そっと手を伸ばし光の壁に触れたフレアはその壁に指を走らせる。

全く変わらない。何度か冗談や防御の為に閉じ込められたことがあったが、あの時と変わらず天才的でとても繊細な構造が成されている。

「シュシュの魔法よ。これは」

「全くアルグの奴……まだ何か隠してやがるな」

やれやれと頭を掻いて、それでもハーフレンは今回ばかりは目を瞑る気持ちで居た。

結局何から何まで弟によって助けられ解決して貰ったのだ。これで彼の嫁の立場が悪くなるようなことは出来ない。

何より今は……折角作って貰った2人きりの時間なのだ。

「なあフレア」

「はい」

「俺はお前が好きだ。愛している」

包み隠さない真っ直ぐな彼の言葉に、フレアの胸は激しく脈打った。

「私も好き。大好き。貴方のことが」

「そうか」

だからこそ言わなければいけないことがあると彼は理解していた。

全てはあの日の過ちから始まったのだから。

「聞いてくれフレア」

「なに?」

「俺はお前に対して酷いことをした。その全てを話したいんだ」

「シュシュはどうする?」

「ん~。戻ったら~これが~解ける~から~しばらく~ここに~居る~」

フワフワと揺れ動く彼女を見つめてちょっと不安になる。

飽きっぽい彼女がずっと大人しくしているのかが不安だ。

「ほれほれ~旦那ちゃんは~あっちの~様子を~見に~行くと~良いぞ~」

「行くよ。行くけど……本当に平気?」

「失礼~だな~」

ふわ~と揺れてシュシュは自身が作った箱に寄りかかった。

「フレアは~同級の~友人だぞ~」

「そっか……そうなの?」

「だぞ~」

「つまりシュシュって今は、にじゅ」

「女の子の年齢は口にしちゃダメだぞっ」

珍しく機敏に動いてアルグスタの口を立てた指で制する。

口調の割には真剣な眼差しだったので、彼は数度頷いて理解を示した。

「なら~さっさと~行けだぞ~」

「へいへい」

「では~覗くぞ~」

「……後で感想宜しく」

「分かった~ぞ~」

分かってくれたので、アルグスタはスタスタと歩いて洞窟の外へと向かった。

「あは~。雄よ。雄がいっぱい寄って来て私に群がっている~」

「ご機嫌ですね駄犬。人生最後にモテて良かった様子で」

「あはは……ってババア! 本気で死ぬぞ! このまま洞窟内に撤退を進言する!」

「なら入ったが最後、入り口から順番に押し寄せるドラゴンとどう戦うと言うのか教えなさい」

「……隊長が中に居るから」

「そのノイエがまだ出てこない状況を考えなさい」

多数の怪我人を抱え、洞窟の入り口まで撤退していたスィークたちは冗談抜きで窮地に陥っていた。

死者が出ていないのは、伝説と現役の最強暗殺者の2人の奮闘があってのことだが……それでも1匹としてドラゴンを仕留めていない。あくまで2人の最強は人間相手なのだから仕方ない。

「あれ~? 意外と困ってる感じ?」

不意に響いて来た声に、それを聞いた全員が後ろを振り返る。

やる気の無い様子で歩いて来たのは、王都で近衛団長の留守を預かっているはずのアルグスタだった。

「何で居る!」

「ノイエに逢いたくなって?」

「凄い惚気なのに納得した自分が居たよ!」

噛みついて来たドラゴンから逃げ回るミシュは中々に元気そうだ。

ただ怪我人が多数の様子に……彼はため息をついて頭を掻いた。

「いい加減この力を使うのも考え物なんだけど……今回は仕方ないか」

「どうにか出来ると?」

「はいな」

叔母であるスィークの問いに頷き返し、アルグスタは腰の袋から小石を取り出した。

「今から全部片づけるから、ちょっと下がってください」

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