軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本気でネタ魔法よね

「フレア」

抱き締めた存在に優しく声をかけ、ハーフレンはその時を待っていた。

もう彼女に返事をする力も無い。胸に刺さる剣が作った傷から溢れる血は勢いを無くしている。

あと少しで全てが終わる。終わってしまう。

「本当にダメなお兄ちゃんでごめんな」

「全くだね」

「アルグ……」

泣き顔で見れた物じゃない兄の様子に、弟である彼は頭を掻いた。

「馬鹿兄貴。1つ聞きたい」

「……何だ?」

「フレアさんって『とっておきの魔法』を受けたことがあるとか言ってた?」

「とっておき?」

「うん。結構重要だから死ぬ気で思い出して」

「……」

理解出来なくても『重要』という言葉にハーフレンは思考を走らせる。

「受けたかは知らんが、その存在を調べたことはあるはずだ」

「納得。これで後は条件次第か」

チラリと兄を見つめた弟は、若干引き攣った様子で口を開いた。

「今からフレアさんを救うから、何もしないでそのまま抱きしめてて」

「救えるのか?」

「あ~うん。たぶん」

何故かチラチラと別方向を見る弟の様子が気になったが、このまま失われるくらいならハーフレンは藁にも縋る思いで彼の言葉を応じることにした。

「やってくれ」

「怒るなよ?」

「良いから早く!」

「分かったよ」

と、アルグスタは迷うことなくフレアの体に足を掛けると……剣を掴んで一気に引き抜いた。

「何をっ!」

「これで条件達成のはぶっ!」

飛んで来た兄の拳を受け、アルグスタは吹っ飛んだ。

追い打ちなどせず彼女を抱きしめ直したハーフレンは、土色の相手の顔を見つめる。

ゆっくりと息を吐いたフレアの口が静かに動き言葉を作るが声にはならない。

それを見つめ……彼は最後まで大切な人の全てを見続けた。

力が抜け落ち、命尽きる瞬間まで。

不意にハーフレンはそれを見た。

フレアの額の上に浮かび上がる魔法語を。

何が綴られているのかは分からないが、それは力強く脈打つように蠢く。

「何が?」

目の前で起きる出来事に理解出来ず、彼はただ茫然とそれを見つめる。

それはある不幸な女性が残した奇跡。

『とっておきの魔法』だった。

「その場のノリと冗談と勢いと酔いに任せて作った魔法が……まだ残ってるなんてビックリよね」

石を椅子代わりに腰かけその様子を見つめるノイエは、頬杖をついて魔法の動きを見る。

完璧だった。あれを綴った者は余程の才能を持っていたのだろう。

「惜しいわね。あれは使用者の全てを代価に1度だけ使える強制蘇生の魔法。使った人は確実に亡くなってしまう」

だからこそ途中で潰えて消失している物だと決め込んでいた。

数百年と受け継ぐような魔法では無いのだから。

「不死者『ジークフリード』なんて名前を付けたけど、本気でネタ魔法よね。今度から魔法を作る時は気をつけないと」

何度となく同じことを繰り返し注意しているはずだが、忘れっぽい彼女は基本忘れる。

「まっ何にせよ。あんなネタ魔法を本気で使いたくなるほどの相手だったってことね。それだけ使用者に愛されていただなんて……少し羨ましいわ」

言って彼女は探すように視線を巡らせる。

「それにしてもうちの旦那様も良い性格してるわね。

『絶望の中で希望を求めて何が悪い』ってまんま中二発言よね。それを言い切れる彼なら、もしかしてこの世界の呪いを解いてくれるかもしれない」

ニコニコと笑い、彼女はそっと目を開いて地面の上で転がる彼に向け声を飛ばす。

「戻って来なさい」

「ぬがっ! 痛いんですって!」

「全く」

軽く指を走らせ刻んで魔法とする。それを投げて彼の傷を癒した。

顔を押さえて暴れていたアルグスタは、ムクッと起き上がると辺りを見渡し慌てて駆けて来た。

「あれで良いの?」

「良いはずよ」

「もしも~し?」

「知らないわよ。古い魔法だもの」

敢えて自分が作った魔法だとは言わない。何より正体をまだ明かす気も無い。

だから彼女は自身を『古い魔法を知る賢者』と偽っていた。

彼が来る前に閉じておいた目もそのためだ。瞳の五芒星を見られれば正体がバレてしまう。

「さてと。私は本当ならまだ出てくる予定が無かったからしばらく眠るわ」

「そうなの?」

「そうよ。因みに他の子たちに私の存在を告げたら、貴方のこの大切なお嫁さんがどうなるか分からないから」

すると彼は本気で泣きそうな顔をする。

「もう止めてよ。ノイエを人質にするの~」

「だってそれが一番効果的でしょ?」

クスクスと笑い刻印の魔女は左手を伸ばして彼の手を握る。

そっと引き寄せて右手を走らせ刻んで魔法とし、その魔法を彼の右手に宿した。

「次に出てくるまでにその魔法を極めておきなさい」

「何っすか?」

「ん~。『選ばれし者のみ扱える武具』よ」

先の誓いも何とやら、早速て適当な名前を付けた魔法を彼に渡し……刻印の魔女は握っている彼の手を口元に寄せるとその甲にキスをした。

「頑張って足搔き続けなさい。そうすれば絶望の中でも希望は見えるはずよ」

「はい」

「なら……またね」

言って彼女から色が抜けノイエへと戻る。

一瞬辺りを見渡したノイエは、また色を変えて赤くなった。

「何してるのよ? フレアは?」

「あ~」

「フレアは?」

凶悪な視線を向けて来る彼女に、アルグスタは腰を引きつつ背後を指さす。

そこでは術式の魔女も知らない魔法が発動している最中だった。

「何よあれ? 知らない……嘘? あれって刻印の?」

「うわ~。先生。せめて色っ! 色だけは消して。お願いだから!」

フラフラと吸い寄せられるように歩き出した彼女を捕まえ、アルグスタは全力でアイルローゼにお願いし続けた。

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