軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子守歌?

耳がピリピリとする。

ピリピリ? ビリビリ? あっ……何かが破裂しそう?

「痛っ……イテテ……マジか?」

鼓膜が破裂しそうって、このことかっ!

セシリーンが発するただの一言。それが四方に広がるが、発生源に居る僕の耳はもう死にそうです。

ドクドクとヤバい痛みを耳に感じていたら、セシリーンの声が止まった。

「かふっ……こふっ」

「ん? 大丈夫?」

「くふっ」

咳き込んでいる彼女の口元が真っ赤だ。手で覆っているが、指の隙間から血が溢れる。

肩を震わせ呼吸を整える彼女が、血の気を失った顔で僕の方を見る。

ゆっくりと口を覆う手を退かした。

「流石、ね。ノイエは、凄い」

「大丈夫?」

「ええ。もう治りだしてる」

そっちの答えで間違って無いんだけど、何かが間違っているような気がする。

何度か深呼吸して呼吸を整えたセシリーンが、胸に手を当てて大きく息を吐いた。

「もう大丈夫よ。続けましょう」

「はい」

セシリーンはまた顔を空へと向けてゆっくりと口を開く。

「ら~」

一回目の時よりも低い声が響く。

ただ長い。驚くほど長く一定の音が響き渡る。

ノイエの肺活量って凄いな~と、場違いの感想を抱きつつも彼女の様子を見る。

口元を鮮血で濡らしながらも声を発していた。

本当に無理をしてくれていることだけが分かる。彼女もノイエもだ。

「……ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「きついわ」

喉まで血で濡れた彼女が辛そうに笑う。

本当に辛そうなのに笑って居られるのって凄いと思う。

また呼吸を整える彼女は、こっちに体を向けて来る。

「ノイエの服は汚れていないかしら?」

「大丈夫です。後で新しいのを準備しますから」

「あら……お嫁さんに洋服を買ってあげるのね」

「ノイエは欲が無いから定期的に買ってますよ」

「そうね」

クスクスと笑い、彼女は軽く耳を澄ました。

「思ったより広がらないわね」

「そうなんですか?」

「ええ。本来の私ならこの国の隅々まで響き渡るんだけど、この体だと半分くらいかしらね。範囲内に居ないと絶望的だけど、でも弟子が頑張ってくれたのだもの……どうにかするのが師匠よね」

笑ってセシリーンはクルリとその場で一周する。

言ってることがとんでもない内容な気がするけど……この人は結構規格外だから納得しておこう。

「うん。こっちかな」

ピタッと足を止め、セシリーンはまた一言発する。

『ら~』と音を響かせ、彼女はまたこちらを向く。

「ねえ旦那様」

「はい?」

「ノイエは好き?」

「はい」

「即答ね」

「愛してますから」

「あら……本当に羨ましいわ」

クスクスと笑いセシリーンはまた音を発する。

そのやっつけな様子に、段々とこの人はフレアさんを探しているのか不安になって来る。

「でも大変でしょう? ノイエは頑固だから」

「可愛いですよ?」

「本当に即答ね」

「そうですか?」

クスクスと笑ってまた顔を一方向に向け、一言発する。

「でもノイエの頑固は筋金入りでしょう? 出会った頃なんて大変だった」

「そうなんですか?」

「ええ……ずっと私の足元に纏わり付いて『歌って』って。何度断っても毎日のようにね」

「ノイエらしいかも」

何となくだけど想像できる。多分その様子は猫のような愛らしさだろうな。

「そうね。でも私はもう歌わないって決めていたから」

流れる動作で一言発したセシリーンと会話を続ける。

「歌わないんですか?」

「ええ。知っているでしょう? 私は歌で殺したの」

悲しそうに呟いてセシリーンはそれでも笑う。

「自分の生き甲斐だった……命とさえ思っていた歌で人を殺したの。だからもう歌えない」

「そうですか……」

とても悲しそうに見える。生き甲斐を奪われた、それを捨て去った彼女は見てて辛い。

ああそうか。だからノイエはずっと纏わり付いていたのかもしれない。セシリーンに。

「僕も聞いてみたいです」

「えっ?」

「貴女の歌を」

彼女は戸惑いながらも顔を動かし一音発して、またこっちを向く。

閉じたままの目は何も見えないはずだけど、彼女を見ている僕には何となく分かる。

「無理よ。もう歌えないの」

「ええ。貴女がそう思っている限りはね」

「私が?」

「そうですよ」

会話をしながら、彼女はことあるごとに顔を背けて一音を発する。

何をしているのかいまいち分からないが、たぶんきっとフレアさんを探してくれているはずだ。

「あの日……きっと貴女はその歌で、その声で人を殺めてしまったのでしょう。でもそれまでにきっと貴女の歌で救われた人も居るはずですよ」

「……」

そのはずだ。あの日……人を殺して捕らわれた人たちの中で、処刑回避の嘆願が多かった2人。それがセシリーンとレニーラだ。

レニーラはどうも信用出来ないが、セシリーンは何となく分かる。きっとこの人は他人の痛みを知ってそれを癒すために歌い続けた人なのだろう。

「ここ最近ずっと貴女たちの資料を読んで来ました。一度しか実現しなかった舞姫と歌姫の共演は、とても素晴らしかったとか。レニーラももう一度したいのかもしれないですね」

「……そうかしら?」

「さあ? でも貴女が歌わないのであれば実現は無理です」

今の彼女にあるのは、希望だった歌で人を殺めてしまったと言う絶望だ。

その絶望はきっと簡単に払しょくすることは出来ない。どんなに言葉を並べてもだ。

「ねえセシリーン」

「なに?」

「僕もノイエも貴女の歌が聞きたい」

「……」

「でも今直ぐにとは言わない」

そっと手を伸ばして彼女を捕まえる。

ノイエの体に住む彼女たちは長く生きられないのかもしれない。

でも関係無い。ノイエの家族を奪う存在を僕は決して許さない。

足掻き続けてやる。どんなに無様でも彼女の家族を護れるのなら。

「もし僕らに子供が出来たら……子守歌を歌って欲しい」

「子守歌?」

少し泣き出しそうな顔で彼女がこちらを見る。閉じられたままの目で。

「うん。だって子供に聞かせてあげたいでしょう? 世界一の歌姫と言われた歌を」

僕は子煩悩な親になりたいのです。

そっと息を吐いて彼女は柔らかく笑った。

「……2人の子供を見た時にでも考えるわ」

「そう言って貰えると光栄です」

「もう……みんなが貴方のことを好きになる理由が分かったわ」

「はい?」

知らない間にジゴロスキルとか体得してましたか自分?

「貴方の言葉は人の心に入り込むの。甘く優しく……だからみんな虜になるのね」

そっと背伸びをして彼女が頬にキスして来た。

「悪い男性だ。ノイエを泣かしたら許さないわよ?」

「大丈夫です。僕は基本ノイエ一筋ですから」

「あら……今の言葉、中のみんなに伝えなくちゃ」

「うぉ~い。たぶん殺されるから勘弁して下さいっ!」

「クスクス。ダメ。許さない」

柔らかく抱き付いて来て、セシリーンが僕の顔をある1点へと向ける。

「ここからまっすぐ行った所……岩山が2つある土地。その岩山の片方に洞窟があってその中に居るわ」

「本当に?」

「ええ。洞窟の中には禍々しい気配を放つ存在が2人居る。1人は探している子ね。それ以外に人が2人ほど居るわ。問題は洞窟の外に複数のドラゴンが居る。この時期では考えられないほどの数よ」

心配そうに告げて来る彼女に軽く頷き返す。

「そっちは僕の方でどうにかします」

「そう。なら捕らわれている子を助けてあげなさい。ずっと泣いているから」

「分かりました」

クスクスと笑いセシリーンは、もう一度背伸びをして僕にキスをすると……笑顔で色が消えていく。

白い僕の自慢のお嫁さんに戻った彼女を力いっぱい抱きしめる。

「アルグ様?」

「ノイエ~」

「はい?」

「帰りに服を買って行こうね。今日はノイエに似合うのを何枚も買ってやる」

「……はい」

薄っすらと笑い、ノイエが僕にキスして来た。

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