軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あの日狂ったのはフレアだけじゃない

尖塔から降りると同時に、ノイエが座り込んで動かなくなった。そしてお嫁さんでなければドン引きしてしまうほどお腹を鳴らしている。何が起きたのでしょうか?

「大丈夫ノイエ?」

「お腹、空いた」

何故かお嫁さんが非難染みた視線を向けて来たぞ?

さっきまであんなに情熱的なキスをしていたと言うのに……もう愛が冷めてしまったの?

「アルグ様」

「ん~。ご飯が良い? それともお風呂?」

「……両方」

「どっちかになさい」

「両方」

結構本気でお怒りのご様子なので、適当に声をかけてみたらメイドさんが駆け足で飛んで来た。

「お呼びでしょうか?」

「うん。ノイエがお風呂しながら食事したいと」

「えっ?」

新人なメイドさんなのか、こちらのお願いに顔色が変わった。

そんな風に顔色に出すようではメイド長からのお叱りを受けますよ。

ここは心を鬼にして、このメイドさんの教育がてら無茶振りをしてこう。

「まっとりあえず助けを呼んでどうにかしておいて」

「あっあの~? アルグスタ様?」

「僕はちょっと仕事を片付けて帰り支度をするんで。では」

ノイエに『また後でね~』と告げ、とりあえず急いでユニバンス王国の地図がある場所へと向かった。

自分では不可能だと理解し、弟に助けを求めた。

結果として自分はあの頃と変わらずに弱いままだと気付かされる。

苦しいまでの現実を痛感させられたが……スィークの言葉が胸に突き刺さっていた。

弟が得ている強さとは何なのか?

自分とは毛色の違う人間であるとは前々から気づいていた。

何かあれば妻であるノイエを前面に出して卑怯な手を使う。あれが強さだと言うなら確かに最強だろう。ただそんなことを褒めるスィークでは無い。

なら何なのか?

分からない。分からない。分からない……。

「おい馬鹿兄貴」

「どうした?」

ひょいと通路から顔を出し部屋の中を覗いたアルグスタは、兄しか居ないことを確認し、軽い足取りで室内へと入って来た。

考えたいことが多過ぎて……人払いの意味も兼ねてハーフレンは、ここ最近執務室で仕事をしていた騎士たちに、運動不足の解消がてら走り込みを命じた。

全員蒼い顔をして出て行ったが、流石にやり過ぎたかもしれないと少し後悔している。

「椅子に踏ん反り返って、偉そうに仕事してろって言ったはずだぞ?」

「お前が居ない間に問題が出た」

「また?」

呆れながらソファーへと向かい歩く弟は珍しく一人だ。

いつもなら妻を腕に抱き付かせているはずなのに。

「で、問題って?」

「ハルムント領に向かう街道に化け物が出た」

「へ~」

「もう1つはクロストパージュ領からハルムントの領主屋敷が焼け落ちていたという報告だ」

「2つもかよ」

勝手にソファーに座った弟は、待機しているメイドに紅茶を求めだす。

「それで対応は?」

「化け物の方は軍を派遣することになる。シュゼーレが対応する」

「ならコンスーロのオッサンは迂回してハルムントか」

「その通りだ」

疲れ果てた様子の兄に、アルグスタは面倒臭そうに息を吐いた。

「ほい質問」

「何だ?」

「僕が『あの日』のことを個人的に調べているって知ってるよね?」

「らしいな」

今するべき質問なのか……正直怒りすら覚えながらハーフレンは適当に返事をする。

「で、調べてたら1つ疑問に思ったんだ。たぶん『あの日』、狂っていてもおかしく無い人材が、現在も普通に暮らしているかもしれないってね」

「……」

ジロリと睨むように視線を向けてくる兄に、アルグスタは懐から1枚の紙を取り出した。

「交換条件と行こうか?」

「交換だと?」

「そう。フレアさんの居所らしい場所の地図とでどう?」

ガタッと椅子を蹴ってハーフレンは立ち上がった。

啖呵を切って出て行った弟が、もうその情報を掴んで戻ってくるなど考えられなかった。

「調べていたのか?」

「大事な部下ですしね」

「どうやって?」

「決まってます。僕には出来ないから出来る人にお願いするんです」

「お願い?」

「そうです」

メイドから紅茶を受け取った弟は屈託のない笑みを浮かべた。

「僕はノイエのようになんでも出来る人じゃ無いから……だから他人のお願いを引き受ける分、こっちからもお願いをして、助け合ってどうにかするんです。

人なんて出来ることなんて決まってるんだから、全部1人でとか、完璧とか無理も無理。なら素直に『助けて』って言います」

ケラケラと笑う弟に、ハーフレンはスィークの言う強さを見た。

「自分でどうにかしようって気概は無いのか?」

「あるよ~。あっても出来ないんだから仕方ない」

「そうかよ」

ガリガリと頭を掻いて、ハーフレンは蹴倒した椅子を戻すと、ソファーまで歩き弟の前に座った。

「なあ馬鹿弟よ」

「ほい?」

「もしノイエに……人に言えないような秘密があって、それをお前だけが知っているとする。その秘密が原因で彼女が罪を犯したとしたらどうする?」

腕を組んで首を傾げるアルグスタは、何故か冷や汗を垂らしている。指摘しても答えをはぐらかす弟だと知っているハーフレンは、今日は見逃すことにした。

純粋に相手の答えが知りたかったからだ。

自分とは違う生き方をする弟の答えが。

「ん~。前提が限定し過ぎてて難しいな」

「限定?」

「うん。だって僕はノイエの秘密を知ってるんでしょう? なら頑張ってノイエが罪を犯さないようにするよ。出来たらノイエと協力して、2人で乗り越えられればもっと仲良くなれるしね」

「2人でか……」

「そっ」

質問を根底から引っ繰り返されたが、ただ弟らしい返事に何も言えない。

弱々しく頭を振るハーフレンを見かねて……アルグスタは手にしていた紙を、テーブルの上を走らせて兄へと投げ渡した。

「僕なら過去とか過ちとかそんな物一緒くたに飲み込んで、ノイエと2人で乗り越えます。それが夫婦だと思うんで……片方だけが頑張っちゃダメなんじゃないかな?」

「……そうか。お前の方が確りと夫婦をしていたんだな」

受け取った紙を手にハーフレンは息を吐いた。

「詳しい内容は兄貴にでも聞け。ただ1つ言っておく」

「ほい?」

「あの日狂ったのはフレアだけじゃない。俺とミシュもだ」

「そうっすか」

ピラピラと手を振りサッサと行けと言いたげな弟に促され、ハーフレンは自身の執務室を出た。

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