軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もし居るのなら手を貸して欲しい

朝、いつものようにノイエと2人で登城したら、入り口で近衛の人に囲まれた。

無言で一歩ノイエが前に出ると、近衛の騎士たちは無言で腰の剣を外す。攻撃の意思は無いと言うことらしいので、黙って従い付いて行くと……辿り着いた場所はやっぱりな所だった。

「で、何か用か?」

「ああ」

「暇じゃ無いんだ。手短にどうぞ」

「……」

近衛団長の執務室。その部屋の主は椅子に腰かけ置き物になっていた。

憔悴しきっている馬鹿兄貴の姿を見るのも辛い。

誰の企みか知らないけど、ここまでうちの家族に手を出す馬鹿を決して許さない。

「なあアルグ」

「ん?」

「頼みがある」

椅子から立ち上がった馬鹿が深々と頭を下げた。

相手の本来の立場からすれば、ただの貴族の僕にしてはならない行為だ。

「フレアを助けてくれ。もう俺には無理なんだ」

「……」

喉を震わせどうにか紡ぎ出した様子の相手の言葉に胸が震えた。

「頼む。何でもする。だから!」

「だったら顔を上げて、その椅子に座って踏ん反り返ってろ」

「アルグ?」

あ~腹立たしい!

「お前は近衛の団長だ。この国の護りの要だ。だったら人探しなんて些細な仕事は下に丸投げしろ!」

グイッとノイエの手を引っ張る。

「直ぐにでも居場所を見つけてやるから!」

勢いのまま馬鹿兄貴の執務室を出て、階段を昇り続けて城の尖塔の屋根に上がる。流石にまだ冷たい風が吹いているから、ノイエを抱き寄せて暖を取った。

ここからは賭けだ。

でもあの馬鹿が僕に対して頭を下げるほど追い詰められているんだ。だったら応えるしかない。この賭けに全てを賭けるしかない。

「ノイエ」

「はい」

「聞いて忘れて。お願い」

「はい」

微かに笑ったノイエが僕にキスして目を閉じた。

物凄い無茶なお願いを聞いてくれるお嫁さんに感謝の言葉しかない。

そっと彼女の額に自分の額を押し付けて……ゆっくりと口を開く。

「お願いだ。もし居るのなら手を貸して欲しい。どうか僕の家族を救う手伝いをして欲しい。歌姫……セシリーン」

その声に、微かに顔を動かす。

まさか自分の名前が呼ばれるなんて思いもしなかったのだ。

ただやはり手は貸せない。外に出るには問題が多過ぎる。

何度も呼ぶ相手の声が胸に響いて辛くても……動けない。

「あはは~。セシリーンおひさ~」

「……元気ね。レニーラ」

「うん」

彼女が駆けて来ているのは気付いていた。

どうやら外の彼に味方をする者は本当に多いらしい。

内心で微笑み、セシリーンと呼ばれた女性は口を開く。

「貴女が来たと言うことは、私に手を貸せと?」

「ん~。強要はしないよ? 一応、それがここの決まりでしょ?」

「そうね」

強要は禁止になっているが、一部の暴君が猛威を振るっているの誰もが知ることだ。

クスクスと笑い、セシリーンはゆっくりと手を伸ばす。

伸びて来た手に自分の手を重ね……レニーラは、相手が立ち上がるのを手伝った。

「行くの?」

「ええ。でも外に出られるとは限らないわ。私の魔力は無いに等しいから」

「そっちはアイルローゼ次第かな~」

ケラケラと笑い、レニーラはゆっくりと歩く彼女を支える。

別にセシリーンと呼ばれる女性の足に問題がある訳でもない。腕なども普通だ。

問題があると言うのなら……決して開かれない瞼だろう。

彼女は生まれながらの全盲なのだ。

故に普段からノイエの奥で腰を下ろし静かに過ごしている。

動き回れないのと、仮に1人で動いたとしたら他者に迷惑をかけてしまうからだ。

「セシリーンもあんな奥に居ないで、もう少しみんなの傍に居れば良いのに」

「ええ。でも十分よ。私は耳だけは良いから……あそこに居ても"全て"聞こえるわ」

「そっか~」

ゆっくり丁寧に案内し、途中転がっているリグを蹴り飛ばしファシーを慎重に退かし……レニーラは彼女を歩かせ続ける。

周りには感じさせず、でも急いでいる様子の相手に……セシリーンは微かに声を立てて笑った。

「レニーラもノイエの旦那様が好きなのね?」

聞こえて来るレニーラの心音が優しく軽やかで、それを聞くセシリーンですら自然と微笑んでしまう。

恋する……愛して止まない人が放つ特徴的な音色は、本当に聞いてて心地が良いから。

「うん。旦那君は優しいしね。それにすっごいんだから」

「そうなの?」

「うん」

頷いてレニーラも笑う。

「あんな一途にノイエと言うか……私たちまで必死に護ろうとするなんて、もう絶対に変態だと思うよ」

「それって褒め言葉なの?」

「私的には最大級の賛辞だよ~」

ケラケラと笑いレニーラが立ち止まった。

「ここから先は、今は入れないんだ」

「そうね。あまり無理とおふざけはしないようにね?」

「あはは~。でも旦那君のことが気になるんだもん。ほらあれだよ。惚れた弱みって奴?」

ケラケラと笑いながらレニーラが逃げるように駆けて行く。

それを耳で追い見送ったセシリーンは、一度だけ口の中で舌を打った。

「アイルローゼ?」

「……するなら一言欲しかったわ」

「ごめんなさいね」

軽く頭を下げ、歌姫は魔女の私室となっている場所へと入る。

実際は魔女の存在を気づいていたのだが、セシリーンはわざと舌打ちをしたのだ。

舌打ち一発で周囲の状況を確認できるセシリーンは、自分の足で歩いて久しぶりに魔女と向かい合う。

歌姫が発した舌打ちで、耳を塞ぐのが間に合わなかったアイルローゼは、耳を押さえ眉をしかめている。運良く鼓膜は破れずに済んだ様子だった。

不意打ちで警戒が緩んでいるアイルローゼの心音が歌姫の耳に届く。出会った頃と比べると、別人とすら思えるほどの軽やかで心地の良い音色だ。

セシリーンは足を止め、満面の笑みを魔女に向けた。

「何よ?」

「ん? ん~」

「何よ?」

訝しむ相手に微笑むセシリーンは口を開いた。

「いいえ。あのアイルローゼも女の子だったんだなって……間近で確認して驚いているだけよ」

「何よ!」

カッとなって声を荒立てる相手に、クスクスと全盲の女性が笑う。

「レニーラと同じ音ね。むしろホリーくらい強いかしら?」

「……」

「一番良い音をさせているのはノイエだけど、貴女も負けないくらい良い音色よ」

「何が言いたいのよ!」

顔を真っ赤にさせてアイルローゼは反射的に吠えてしまった。

自身がとんでもない過ちを犯したと、言いながら気づきつつもだ。

「ん~。貴女が彼を愛しているってことかしら?」

サラリと言われた言葉に、アイルローゼの顔がますます真っ赤に染まる。

余りにも真っ直ぐな言葉で何も言えなくなった魔女に、セシリーンはさらなる追い打ちをかける。

「あれでしょ? ノイエの体なのに数字とか知られたくなかったのは、恥ずかしかったのでしょう? 今は貴女の体でもある訳だし……何より出る度に衣服を正したり、肌を隠そうとしたり意識し過ぎよ」

「にゃにを言ってるのか分からないわよっ!」

普段の彼女からは想像できないほど慌てふためくアイルローゼに、笑顔のセシリーンがさらなる追い打ちをかける。

「ん? なら最近はノイエの振りをして」

「待って! あれは違うから!」

真っ赤な顔をしたアイルローゼが必死に言い訳を考える。

「あれはあの馬鹿弟子が私の言葉を信じないであっさりと騙されるから! だから警告として何度かやってるだけで!」

「でもこっそりよね? 相手に何も告げないで?」

「違うの~!」

うわべだけの言い訳などあっさりと論破される。

耐え切れず床に伏したアイルローゼが全力で転がりだした。魔女の威厳など微塵も感じさせずに。

ノイエの中で、唯一術式の魔女に圧勝すると言われる人物……それが歌姫セシリーンなのだ。

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