軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

老婆心からの助言

今日は一日無事に時が過ぎた。何の変化も起きなかった。訃報も届いていない。

瀕死の状態である前王には義母さんが付きっきりだ。

医者の先生が治療に出向いているから、本職の腕を信じて待つしかない。

馬鹿兄貴は戻って来るなりフレアさんの捜索再開した。

やる気を取り戻した大臣たちも元気に命令を飛ばしまくりで……正直色々と気疲れが酷い。

お蔭で城内で2つに派閥が別れだしていて面倒臭さこの上ない。

げんなりしながら帰宅して、一通りのことを済ませてて寝室へと戻る。

色を変えたノイエが、鞄を開いて中身を取り出し始めた。

「何よそれ?」

「『転移の魔道具』よ」

「はい?」

「だから転移の魔道具」

サラリとそんなことを言って、グローディアが座布団サイズの布切れを広げた。

見た感じ小型なペルシャ絨毯かな? そんな感じに見える。

「それをどうするの?」

「これに使用者の血液を滲み込ませるのよ」

「へ~」

座って布を広げていた彼女がそれを膝の上に置くと、上半身を捻ってこっちを見た。

「だから血が要るの」

「はい。あぐっ!」

迷うことの無い正拳突きが僕の顔面にヒットした。

鼻の辺りを強く押された感じのパンチに……中途半端なダメージだけが残った。

「本当に厄介ね。これ」

「だからって! 追い打ちとか! 痛いって!」

何発か殴られたけど、ただ鼻が痛いだけ。

いい加減にして欲しくなったので、彼女の腕を掴んだらバランスを崩して……覆い被さるように組み敷いてしまった。

「……離れてよ」

「……」

「離れなさいよね」

嫌がるお嫁さんが頬を紅くする姿ってズルいと思う。

本当に何て可愛らしいのでしょう。うちのお嫁さんは。

「いい加減にしなさいよねっ!」

「はぐっ!」

ビンタがさく裂して目の前に星が散った。

本日一番の攻撃が平手打ちでしたよ。

「あっ」

「ようやく出たわね」

タラーとした感じが鼻と唇に。

慌てて手で押さえると、床と僕との間から逃げ出したグローディアが試験管のような瓶を持って来た。

「はい」

「……」

手渡されて鼻の穴にあてて血を流し込む。

一本が終わり二本目が来て……それに入れたら終了となった。

「これで準備が出来るわ」

「あの~。その準備って?」

チラリとこっちを見たグローディアがそっぽを向いて口を開く。

「貴方の力はとにかく使えるってアイルローゼが言ってたわ。だから万が一の為に準備しておくのよ」

「そうですか」

万が一のために殴られ続けた僕って一体?

「準備をしたら寝るから、貴方も顔を洗って来なさい」

「へいへい」

確かに血だらけだから、洗わないとベッドのシーツが大惨事だ。

寝室を出て行ったアルグスタを見送り、グローディアは採取した彼の血を使い魔道具の準備を進める。

ただもう一本の方には封をし、中身を保存する特別な呪符を張り付けた。

「これで良いの。これで良いのよ」

手の中の瓶を見つめ、彼女は自分を納得させるように呟いた。

執務室から部下たちを下がらせハーフレンは頭を抱えていた。

『もうどうやっても取り返しがつかない』

仮にここから引っ繰り返せるような一手があるなら教えて欲しいくらいだ。

絶望的過ぎて何も言えない。結局自分は過ちを繰り返し、そしてどうにもならなくなる状態までにしてしまったのだ。

「もう……無理なのか?」

自分なら、今の自分なら出来ると信じていた。

あの頃よりも確実に強くなり、彼女を愛し護れるという気になっていた。気になっていただけだった。

現状は何も出来ずに頭を抱えて苦しんでいるだけだ。

何も出来ない。誰も救えない。自分が愛した者を。家族すらも救えないのだ。

「結局俺は弱いままだ。フレアを救えない」

自分の無力さに涙が止まらない。

結局、自分が弱いのだと思い知らせれただけだ。

「失礼。ハーフレン」

「……スィークか」

「今はただの叔母よ」

「そうか」

疲れ果て衰弱している甥を見つめ、スィークは鼻で笑った。

本当に馬鹿で愚かな一族だ。唯一マシなのは現王とあの問題児ぐらいだろう。

だからこそ相手をしてて面白い一族でもある。愛着が湧くほどに。

「何か用か?」

「ええ。老婆心ながら助言でもと思ってね」

「助言?」

「そうだよ。そこの1人で背伸びばかりしている馬鹿な甥っ子にね」

腕を組んで笑う彼女はメイド服を脱いでいた。ただの黒地の喪服だ。

「これはあの馬鹿娘が1人が巻き起こしたことだと思っているのかい?」

「違うのか?」

「違うよ。もしそうなら、どうして私の夫まで殺される?」

「っ!」

椅子を蹴ってハーフレンは立ち上がった。そんな報告はまだ届けられていない。

鼻で笑いスィークは言葉を続ける。

「ハルムント領に向かう街道には化け物が居て、やって来る騎士を食い殺している」

「本当か?」

「この目で見て来た」

それでも退治せずに戻って来たのは、彼女の手に余る存在だったのだろう。

「ウイルアム様はなぜ殺された?」

「知らないよ。それを調べるのがお前の仕事だろう?」

「ああ。でも今の俺は」

「甘ったれるな」

ピシャッと言い捨てスィークは甥を見る。

「仮にアルグスタが今のお前の立場であったら、そんな所で頭を抱えて思考停止なんてしていない。必死に足掻き……何より相手を信じて行動を続けているだろうさ」

「……そうだな」

何よりも諦めが悪く動き続けるのがあの馬鹿な弟なのだ。

「だから老婆心からの助言だよ」

「……聞かせてくれ」

素直にそう告げた彼を見てスィークはまた笑った。

「家族のことで困ったのなら、あれに助けを求めれば良い。あの子は決して家族の『助けて』と言う言葉を無視できるような子じゃないのだから」

「……」

「それと」

話ながら立ち去ろうとするスィークは肩越しにハーフレンを見た。

「強さを求めるならあれから学びな。アルグスタは厄介なほど強いよ」

「アルグが?」

「ええ。あれは強さの一つの形を得ているからね」

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