軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なに遊んでるんですか?

「……」

全身から言いようの無い気配を発し、腕を組んで椅子に 座(ざ) す主。

言わずもがなユニバンス王国の王弟にして近衛団長ハーフレンだ。

余りにも恐ろしい気配に彼の弟に拾われて行った事務担当の双子を羨む者も多い。

だがこの執務室に訪れる者たちは皆知っている。彼がもう何日と帰宅もせずにずっと居ることをだ。

着替えや入浴の時などに席を離れるぐらいで、それ以外は椅子に座りじっと何かに耐えているように見える。それが何かは誰にも分からないが、主が休まない以上部下たちも休めない。

「済みません。通りま~す」

開かれたままの扉から書類の束を抱えた、小柄な少年のような男性が入って来た。

色々と悶着があって手伝うことになった対ドラゴン遊撃隊の事務の担当者だ。

彼は慣れた手つきで書類の束をあちらこちらにばら撒いて行くと、流石に最後の難関だけは躊躇したらしい。

そ~っと恐ろしい気配を見せている部屋の主の傍に行き、残った束を覚悟を決めて机に置いた。

「アルグスタ様からです。失礼しますっ!」

言って走って逃げだした少年に、自ずと視線が集まっていた。

部屋を飛びたした背中が消えると同時に、『ズドンッ!』と言う破壊音が木霊した。

何事かと慌てて見れば、全く動きを見せていなかった主が机に拳を叩きつけていたのだ。そして彼の拳の下にあるのはたった今届けられた書類の束。

『余計なことをしないでくれ~』と部下たちは心の中で悲鳴を上げて、この嵐が過ぎるのを静かに待つ。

だが問題児アルグスタは普通では終わらない。

叩きつけた拳を元の位置に戻そうとしてハーフレンは気付いた。

一番上の『や~い馬鹿王子。仕事してやったぞ?』と書かれた紙が拳に張り付いたのだ。

忌々しく紙を引き剥がせば、丁寧に溶けた飴らしき物が塗られていた。

「あの糞がっ!」

ビリビリと部屋中が震え、気の弱い者など腰を抜かして床に伏す。

ハーフレンは掴んだ紙を丸めようとして動きを止めた。

しばらく動かず……そして大きく息を吸った。

「何処までも人をっ!」

激怒し立ち上がった彼は、床を踏みつける勢いで歩き出す。

と、大臣たちの調査協力をしているコンスーロが部屋へと来た。

「お出かけですか?」

「あの馬鹿が紙に飴を塗ったくってたんだよ! 洗って来る!」

「ごゆっくりと」

平然と一礼をし、怒る主を見送る副官の姿に……部下たちは尊敬の眼差しを向けた。

『うちと近衛が仲違いしている感じの方が大臣たちが変なことをし始めなくて良いと思うんで、とりあえずしばらくはこのままってことで。

で本題として、どう考えてもフレアさんが密偵さんたちを殺す理由が思いつかない。逆にあの人なら身を挺して密偵さんたちを守りそうな気がするんだよね。

となると密偵さんたちを殺したのは別の誰かだ。

状況から見て実行出来そうな有力な容疑者は2人。ノイエとオーガのトリスシア。

でもこの2人は犯行時刻にその場所に辿り着けない状況だと分かっている。

で考えた。考えなくても犯人は別に居る。

つまりこれは何処かの王弟の弱みを握る為の工作という線が強いと思う。

最近あっちこっちで根回ししてたらしいけど、その時に下手打ったんじゃないの?

ただそうなると人の体を引き千切れるほどの人物を抱えた相手が敵となる訳だ。心当たりがあるならそっちを徹底的に調べなさい。

それと急いで帝国と共和国の大使館の動きも調べてね~』

悪戯されていた紙の後ろに書かれている文章を読み、ハーフレンはガシガシと頭を掻いた。

あの日から自分たちが必死に調べ、ようやくそっちの方の調査を開始し始めたと言うのに……どこぞの馬鹿弟は、1日もしないで自分たちと同じ結論を導き出して来たのだ。

「敵わんな……全く」

適材と言えば弟の方が適材なのだろう。自分がするよりもあっちの方が密偵の長に向いている。

だが彼は身内に対して甘すぎる。最終局面できっと優しさが勝ってしまう。

それでは駄目だ。本来なら駄目なのだ。

便所の個室で壁に凭れ掛かり、ハーフレンは握っていた紙を粉々に千切る。

(分かっている。最悪フレアを斬り捨て敵の存在を徹底的に調査するのが正しいのだ)

頭では分かっていても、それを行う心をハーフレンは持っていない。

結局自分も甘いのだ。身内を斬り捨てることが出来ない。

(でもやる。成し遂げる。俺はもうあの頃の負けっぱなしの男じゃない。絶対に勝ってみせる。そしてフレアを自力で取り戻す。絶対に負けない)

千切った紙を便器に叩きこみ流して処分した。

「ん~」

咥えたペンの先をピコピコと上下に動かすと、こっちを見ているノイエの視線がそれを追って……見てて楽しい。時折フェイントを入れると、ちょっとだけノイエがむきになって視線で追って来た。

(上上下下、上と見せかけてからの下下。ほほう。やりますねノイエさん。なら禁じ手の右!)

ノイエの視線が上でペン先は右。

ジッと不満げなノイエの視線が可愛らしい。

「なに遊んでるんですか?」

「お嫁さんと仲良くしているだけです。キスして抱き合ってばかりじゃないのだよクレア君」

「がっ! ……それ以外のことだってしてるもん!」

顔を真っ赤にさせてクレアが終えた書類の束を僕の机に置いて行く。

ただ何と言うか、今日は気乗りがしてないのですよ。

ペンを置いて椅子を回して外を見る。

先生が教えてくれた。『たぶん彼女も狂ってるはずよ』と。

それが意味することは……正直僕には分からない。

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