軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不思議現象

「お疲れさんです」

「ええ。ご依頼の件……これで宜しいでしょうか?」

「どうも」

キシャーラのオッサンの部下であるヤージュさんに挨拶をしつつ右手を差し出す。

成功の握手とかではなく僕の掌に1枚の紙が置かれた。

確認すると、ぴっちりとまあ……でも許容範囲内の必要経費だな。どの項目も限界値ギリギリの数字に見えなくも無いが、そのギリギリを選んで来れる才覚を褒めるしか無い。

「事前の報酬とこれを上乗せしてキシャーラ殿にお支払いしましょう」

「宜しくお願いします。アルグスタ様」

一礼をし彼は僕の前から急ぎ立ち去って行く。

新領地の運営で随分と忙しいらしいが、我が儘を言って仕事をして貰ったので仕方ない。

何より完遂してくれたのでこっちとしても文句はない。助かりました。

「さてノイエ」

「はい」

「今日も可愛いね」

「……はい」

隣に居る冬服のノイエは、厚手のワンピースと手袋と帽子を装備した可愛らしい姿です。

その帽子を少し正して髪の毛を完全に覆い隠しておく。何があるか分からないからね。

「アルグ様。なに?」

「今から人に逢うから綺麗にしておかないとね。ノイエは自慢のお嫁さんだから」

「……はい」

ほんのり頬を紅くしてノイエが照れる。

若干目じりが下がっているのが 愛(あい) らしい。

「さあ行こう」

「はい」

「どうも」

「初めまして」

「はっ初めまして」

尋ねたのは王都にある高級宿の一室。ホリーの姉と弟がいる部屋だ。

ノック一発で入室した僕にガチガチに緊張した2人が。

何故に2人? 青髪が2人と言うことは、この2人がホリーの姉弟かな? なら確か弟さんのお嫁さんが別に居るはずだが?

「確か弟君には奥方が?」

「申し訳ございません。旅の疲れで奥で伏せています」

「ああ。だったらそのままで。どうせ挨拶と簡単な説明だけですから」

今にも呼びに行こうとする弟さんを制して、とりあえず椅子に座って姉弟と向かい合う。

ちょこんと座っているノイエが気になっている2人の視線は正直だな。

「では自己紹介でも。僕がアルグスタ・フォン・ドラグナイトで隣りに居るのが妻のノイエです」

「はい」

ペコッと頷いて挨拶するノイエはある意味通常運転だ。

国王様相手でも最近はこの程度の挨拶です。初めて会った時はパパンに臣下の礼をとっていた気がするが、やらなければ忘れるのがノイエの最大の欠点なのです。

「2人がホリーさんの姉コリーさんと弟のホールンさんで宜しいでしょうか?」

「「はいっ」」

やはりノイエの存在にガチガチさが増した2人は壊れかけの人形のようだ。

弟さんのお嫁さんがダウンしたのもノイエに遭うのが怖くて逃げたとかだったらちょっと嫌だな。ノイエは基本怖くないんだけどね。

「今回2人を王都に呼び出したのは、ヤージュから話を聞いていると思うけど……まあ僕が始めるお店で働いて貰います。そのお店は貴族のご婦人たちからドレスを買い取り、手直しをして売りに出します。客層としては中級や下級貴族のご婦人や商人のご婦人を狙ってます」

一度話を切って『ご理解して頂いてますか?』と黙して目で訴える。

カクカクと緊張した2人が頷いて来たからヤージュさんが説明しておいてくれたのだろう。

マジ使えるなあの人。かなり欲しいわ。

「それでその店の売り上げは、少し手元に残しますが大半は寄付します。寄付の先は孤児院などを考えています。まあ自分は偽善者なので、そのようなことを今後もしていきます」

便利な言葉だな『偽善者』って。何もしないで善を語るなら僕は喜んで偽善者になる。

これを『やらない善ならやる偽善』って言うんだっけ?

「もちろん君たちのような境遇の人たちが見つかり次第雇い入れるので、君たちも何か噂話を聞いたら教えてくれると助かります。で、何か質問は?」

ホールンさんはフルフルと首を左右に振る。

ホリーと同じ青色の髪と碧色の瞳。歳は確か僕より1・2才年上のはずだ。

控えめにコリーさんが僕を見る。

ホリーと同じ色で年の頃は20代後半だったかな。見た感じはそれよりもだいぶ若く見えるけど。

気のせいか胸の辺りの服を押し出す何かが見え隠れするので……もしかしたら凄い物を持っているのかもしれない。

ただ全体的にだぶだぶな服を着ていて自身のスタイルを隠しているようだ。

彼女は過去色々とあったか、そのような対応も頷けるけど。

「何かご質問でも?」

「……良いでしょうか?」

「どうぞどうぞ」

気軽に返事をすると、ビクビクオドオドのコリーさんが口を開いた。

「わっ私たちの姉弟には、もう1人家族が居ました。その子はとても優しくて良い子だったんです」

薄っすらと涙を浮かべ彼女が言葉を続ける。

「あの子は私たちが一緒に暮らせるように必死に頑張ってくれました。その結果人を殺めて……アルグスタ様はそのことを存じていて私たちを雇ったと聞きます。それは本当でしょうか?」

「ええ。本当ですよ」

僕は笑って頷き返す。

と、ノイエの腕が僕の腕を抱きしめて来た。プルプルと震えて……何かを我慢している。

誰かが気を利かせたのか、勝手に気づいて出て来たのかな?

「ホリーのした罪は罪です。ですがきっと彼女は頭が良くて魔法が使えたのだけれど不器用だったのでしょう。あ~あれです。人間関係が不器用って言う意味ですからね? だから色々と過ちを犯したのでしょうね。でも……」

ここからの言葉は本人を前にして言うには恥ずかしいんですけどね。

「彼女は純粋に 姉弟(かぞく) を愛していたのだと、過去の報告書を読んで僕は感じました。

純粋に"姉弟"を愛するが故の暴走……そして『あの日』を迎えて全ての罪が明るみに出た。きっと彼女は、自分が"家族"と認識した者が害されなければ、その害した者以外を殺すことなんて無かったはずです。

まあ人殺しを肯定することは出来ませんが、ね」

でもホリーは純粋に家族だけを守りたかったんだと思う。

そうでしょ……必死に我慢しているホリーお姉ちゃん?

チラリと隣を見たらノイエの目の色が、赤黒と碧が入れ替わる不思議現象を起こしていた。

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