軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この捕虜は何処に居るの?

「……何かございましたか? シュニット様?」

「シュゼーレ将軍か」

若き宰相見習いの執務室へと来た将軍は、室内の何とも言えない空気にそう声を発していた。

戦い続きで神経が研ぎ澄まされているからこそシュゼーレはそれを察知で来たのだ。

有能な将軍を見てシュニットは内心で笑う。

彼がドラゴンの対応を引き受けてから王国軍の動きが良くなって来た。

それでもドラゴンの数が緩やかに増えているため、対策の面で後手を踏んでばかりなのだ。

流石に好き嫌いを理由に大将軍もシュゼーレを待機させていることも出来なくなり、最近の彼は主に王都近郊の遊撃を担う存在となっていた。

今日ここに来たのも、それに関する報告書を提出する為だろう。

若き王子しか居ない室内を軽く見渡し、シュゼーレは改めて入室の許可を得て入る。

囁くような話し声と人の気配を感じた気がしたが……居ないのであれば余計な詮索など必要無い。

目的の仕事を成し得て、退出しようとする将軍を珍しくシュニットが引き止めた。

「将軍」

「はっ」

「……最近、軍内にて何かを感じぬか?」

「と、申されますのは?」

「ああ。弟が現在ちょっとした事件を捜査している」

第二王子のハーフレンが密偵の長であることを知る人物は少ない。

余程信用出来る存在のみに公表しているのだが……シュゼーレは分不相応だと思いつつもそれを知っていた。

「事件とは?」

「薬の密売だ」

「会議などで話に上がるあれですかな?」

そのことは知っていた。

ただ会議に上がる度に『帝国か共和国の者たちが我が国を内から崩す為の策だろう』と言う意見に纏まり、詳しい調査などは出来ずにいる。

「その件なのだが……どうも国内で作られているのだ」

「それは事実ですか?」

「ああ。弟の手の者が王都の近くにある工房を調査して製造中の物を発見した」

だがシュニットはその報告書をまだ上に報告していない。

勿論何の報告を受けていないシュゼーレは少し思案し気づいた。

「ハーフレン様がいつものように鍛練場で戯れて怪我をした」

「たぶん敵側からの警告であろう。殺さなかったのはあれが頑丈過ぎたか、殺すことで徹底的に調べられることを恐れたか」

一度頷き、シュゼーレは自分の考えを頭の中で纏めた。

「王子を殴った者は前線から戻った"巨人"ゴブリアスと呼ばれる者。その者は前線からの帰路で行方不明となっていましたが、扱いは何故か『任務中』でしたな」

「そう言うことだ」

多くを語らなくても理解を示す将軍に、シュニットは『将軍職で居るべき人材では無い』と再認識した。

「つまりシュニット様は……王国軍の中に協力者が居ると?」

「ああ。そうすれば薬の材料であるドラゴンの骨髄液の入手も容易であろう」

「……」

国を護るべき存在による薬の密売。

軍だけではなく貴族も手を貸すであろうことは容易に予想できる。

「確かに最近の軍内部は、前線で漂うような嫌な空気に満ちています。

誰かが嘘を吐きそれを誤魔化しているような……そんな気配ですが」

「そうか。ならばやはり貴殿に頼むしかなさそうだな」

珍しくニヤリと笑った第一王子に、シュゼーレは自然と背筋を伸ばした。

「国王陛下の許可は後で取り付ける。まずは将軍……貴殿が動き国軍内を炙って欲しい」

「薬の密造に軍が一枚噛んでいるらしいと噂を流すのですね?」

「頼めるか?」

命がけの仕事となることは分かっていた。だがシュゼーレには迷う気持ちなど微塵もない。

何故ならば彼は、あの日果たすことが出来なかった任務の責任を未だに背負っているからだ。

「このシュゼーレ。命を賭しても」

「頼んだ。だがまだ死ぬな」

「はっ?」

次なる仕事に手を伸ばしながらシュニットは何となくで口を開く。

「たぶんこれはまだ終わらない」

「終わらないとは?」

微かに笑いシュニットはその目を将軍に向けた。

「これほどの騒ぎになるほど薬を売ったのだ。それで得た資金を何に使う?」

「……」

「それに最近、王都内の退役兵が姿を消している」

「まさか?」

「あくまで……可能性の話だ」

本当に世間話でもするかのように若き王子はそう言い切った。

内乱の可能性を示唆しながら、だ。

『ダメ~。私にはこっちの才能は無いのだ~』とミシュは仕事を放り出して逃走した。

そもそも暗殺者として育てられた彼女は、拷問の類など得意としていない。

いかに素早く相手を死に至らしめるか……その技術を磨きに磨いている。

先日ミシュたちは2つ目の工房を発見し、そこに居た器と下働きの魔法使いを捕らえることに成功した。

だが捕らえた魔法使い口を割らない。王国を深く恨んでいるらしい彼は決して口を割らないのだ。

ミシュからの報告を受けたコンスーロも困り果てていた。

国の内部にも内通者が居る可能性もあって、下手な人員の補充も出来ない。

手駒のみで対処するしかないのだが……早くしなければ主の謹慎が解ける。そうなれば彼は迷うことなく容疑者となっている者たち全てを捕らえて首を刎ねかねない。

一番早い手段だが、第二王子に悪名が残ってしまう。

「コンスーロ」

「はい?」

「この捕虜は何処に居るの?」

「……」

報告書に目を通していた少女の言葉にコンスーロは口を開けない。

彼女の目が、またガラス玉のような冷たさを発していたからだ。

「言いなさいコンスーロ」

「……ご案内します」

「お願いするわ」

色々な物を天秤にかけ、コンスーロは最悪自分が止める覚悟を抱いた。

そうすれば考え得る"最悪"は回避できるだろうと思ってのことだった。

だが彼の考えは甘かった。

後に『影の中の微笑』と呼ばれるユニバンス王国で最も残忍な拷問官が誕生することとなったのだ。

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