軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫌。まだ続けたいの

「王家の密偵と思われる者たちが工房を強襲し次から次へと摘発されています。このままでは我々の喉元にまで刃が届きかねません! どうかお力添えを!」

「……そうか」

所詮は地方で小銭を稼いでいた雑魚だ。覚悟が違い過ぎる。

だが十分に仕事をしてくれたので、その人物は……彼に暇を与えることとした。

腰にすがり付く"同士"デルグドの肩に手を置き、彼は鷹揚に頷く。

理解を得られたのだと安堵を得た彼はその顔に笑みを浮かべ……悶絶した。

「痛いっ! 何が……嫌だ。あがっ!」

背後からの数度の突きで床に伏した相手を見下ろし、襲った人物が血に濡れた剣を見つめて眉をしかめる。

「手入れをするのも大変なのだが」

「そう言うなゾング。だったら新しい剣を買えば良い」

「そうだな」

汚れた剣を捨ててゾング……ゾング・フォン・ロイール近衛副団長は懐からハンカチを取り出して返り血で濡れた手を拭いた。

そして血に濡れたハンカチを物言わぬ躯となったデルグドに叩きつける。

「しかし思っていたよりも王家の動きが早かったな?」

「ええ。それにあの邪魔なシュゼーレが軍内部の調査を始めているとか」

「本当に邪魔な奴だ。あの屑はっ!」

忌々しい人物の名を聞き彼……セルグエ・フォン・エフリエフ大将軍が憤慨する。

「一般の出の癖に偉そうに! 前線送りにしても死なずに戻って来る」

「そう声を荒立たせませぬな。セルグエ殿」

その顔に忌々しい笑みを浮かべゾングは大将軍へ語り掛ける。

「分家とは言えゴーンズ様が受けた非道な仕打ちの復讐を果たす時が来たと言うことです」

「……準備は整っているのか?」

「はい。共和国とも連絡を取り合い準備のほどは」

恭しく一礼をして来る相手にセルグエも笑みを返す。

「成功した暁には?」

「はい。セルグエ様がこの旧ユニバンス王国領の領主となります。その時はどうぞ良しなに」

「分かっている。好きな場所に屋敷を構える許可を出そう」

「はい。出来れば……好きな女も自由に出来る許可を」

「構わんぞ。こちらの仲間では無い貴族たちの娘を集めて分け合おうでは無いか」

「おお! それは楽しみです」

全ての計画が上手く行くと思い込み、2人は明るい未来に花を咲かせる。

床に転がる死体……とある貴族の存在などは早々に忘れながら。

「誰が来ようが言わんぞ」

「……」

薄暗いそこには糞尿の臭いの他に血液の香りも混ざっていた。

「俺はなっ! 兄と共に前線で戦った! だが無能な国の指示で兄は敵に捕らわれ見るも無残な殺され方をした! 忘れぬぞ……決して忘れぬ!」

「だから復讐したいのね」

「なっ……女?」

監禁されている石造りの個室。天井から下げられた鎖で拘束されている男性は、座ることも許されずにずっと立ったままだ。食事も何も与えられない。

トイレすら行くことも許されず、全てを垂れ流すしかない。

だが彼はどんな扱いを受けても屈しない心を持っていた。

国に対する復讐心だ。

「女の拷問官か! ならやれよ! 俺は何をされても屈しないぞ!」

「別に良いわ。何もしなくて」

「……」

背後から聞こえる冷たい声音に、男は自然と唾を飲み込んだ。

何とも言えない静かな気配。それは戦場で迎える太陽の無い時間帯に訪れる……光無き無言の恐怖。

「……何をするつもりだ?」

「簡単なことよ」

相手の手らしき物が首に触れる。厳密には首輪だ。

それから逃れようとして体を捩り……男は自分が恐れを抱いている事実に気づいた。

「その首輪はとある天才が作った物。嵌められた者は魔法の行使が出来ない。体内の魔力の流れを乱すと言う……本当に我が師である魔女らしい最悪な品よね?」

「……」

クスクスと響く笑い声に男の全身が粟立つ。

「だからどんな魔法使いでもその首輪がある限り魔法の行使は難しい。でもしていないわたしは好きなだけ魔法を行使できる」

「何を……言っている?」

返事は無い。離れたらしい相手が何かしているのかゴソゴソと物音だけがする。

と、不意に何かを背後から掛けられた。

男は慌てつつも背中を濡らすドロリとした物に臭いが無いことに気づく。

水か、それとも?

「今掛けたのはドラゴン油。とても長くよく燃える油」

「……」

「火を点けたらどうなるのかしら?」

「っ!」

相手の意図を察して男は激しく悶える。

戦場で見た最も残忍な処刑方法が、ドラゴン油を身に纏った人間の丸焼きだ。それも生きたまま焼く。

「止めろっ! 俺が死ねば何の情報もっ!」

「だから良いの。言いたくないなら口を閉じてても」

「っ!」

コツコツと相手が歩み寄る足音を耳に捕らえ、男は恥も外聞も関係なく小便を溢す。

「捕らえた者全員に質問をして、素直に答えてくれる人が出るまで続けるだけ。まる焦げになった死体が何体か転がって居ると、皆さん正直に話すようになってくれるの。だから貴方はその為の犠牲」

背後から聞こえる冷たい声に……男の心は砕かれる。

だがまだ砕け散っていない。王国に対する復讐心が僅かに残っていた。

「なら殺せっ! 火を点けろっ!」

「ええ」

クスクスと言う笑い声の後……男はその囁きを聞いた。

そして相手の手が背中に触れるのを感じ分かった。

自身も魔法を操る者だからこそ彼女が何を言ったのか理解出来たのだ。

「魔法語?」

「強化よ」

「何を?」

クスッと笑い……背後に居る者が囁く。

「一度燃えたぐらいで死んだらつまらないでしょう? だから何回も燃やしてあげる」

「っ!」

「大丈夫。燃え死にそうなほど熱さは感じるけど、火傷一つしないから」

「やっ止めろ……止めてくれ」

クスクスと響く笑い声の後、彼女がまた呟いた。

それは初歩的で魔法使いなら誰もが知る魔法。『発火』だ。

「うっぎゃゃゃぁぁぁあああ~!」

全身を炎に包まれ男が声を発する。

だが強化魔法で強化されている彼が炎に犯されることは決してない。

全身を燃え上がらせても、泣き叫ぶことで炎が肺に侵入して来ても、決して火傷を負わない。

しばらくして……炎が消えた。

ゆっくりと歩いて正面に回って来た人物に焦点のあっていない目が向けられる。

まだ年端も行かない成人したての少女に見える美人だ。

「2回目は直ぐが良い?」

「い、やだ。もう……」

「ダメよ。焼くわ」

その可愛らしい似つかわしくない冷たい目で少女が告げる。

男の心は完全に砕け散り……正気を失う寸前でどうにか口を開く。

「言う。全部言う」

「嫌。まだ続けたいの」

「嫌だ。助けて……全部言いますから」

「嫌よ。まだ偉そうだから」

クスクスと響く声に男は抵抗する気概を完全に消失させた。

黒く塗りつぶした目を彷徨わせ……男は口を開く。

「……言わせてください。お願いします」

「なら素直に全て話して」

こうして彼女の前に捕らわれた者たち全員が、自ら進んで口を割る。

自白し安堵と共に得るのは……正気を失う未来であるが。

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