軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

他人の幸せって興味湧かないんだよね~

何かがおかしい……。

そんな気持ちを抱いてハーフレンはようやく屋敷の外を歩くまでになった。

流石に8日もベッドで寝ていたせいか、体の節々が痛む。

骨折の方は、名医である彼の手にかかれば強制的にくっ付けてどうにかなる。

ただ『静かに寝ているのだ。暴れるでないぞ。女遊びなど絶対に許さん。何て羨ましい……やはり許せん』と、色々と雑念が混ざったが念を押されているので流石に散歩までだ。

ただこう歩いているのも暇なのだが、話し相手はメイドぐらい。

彼女は……朝と夕、必ず来るがそれだけだ。

本人が言うには『お父様の新しい子供の相手をしているの。少しは慣れておきなさいってお母様が』と本当にしか聞こえない嘘を言っている。

子供の頃から一緒に居るハーフレンは理解していた。

彼女は嘘を吐く時に必ず一度瞬きをする。その癖を本人は自覚していないのだろう。

つまり彼女は嘘を吐き、自分の預かり知らない場所で何かが動いているのだ。

「親父から屋敷内での謹慎15日を受けているから出て行く訳にもいかないしな」

「そんなこったろうと思った」

「居たのか?」

庭の立木の枝に足をかけた馬鹿がぶら下がり姿を見せる。

短めのスカートから色気の無い青地の下着と健康的な太腿が見えているが、本人は気にしていない様子だ。

「ちょいと馬鹿王子」

「何だ?」

「コンスーロのオッサンからの指示がきついんですけど? 早く復帰してくんない? 休みも無しで、流石に下からも苦情が上がってるんですけど?」

「コンスーロが?」

実直を絵に描いたような彼がそんな無茶をするとは思えない。

と、ハーフレンの頭の中で何かが音を立てて当てはまった。

「そう言うことか……」

「何だよう? ってちょいっ!」

握った左の拳で顔面を殴ろうとして来る彼に、慌ててミシュは腹筋の要領で回避する。空を切った彼の拳は、立木の幹に当たり……木を大きく揺らした。

だがハーフレンはそれでも左の拳を立木に押し付け続け……グラグラと揺れる木からミシュは脱出した。

「あぶねえ王子だな~」

「……ミシュ」

「何だよう?」

「俺の執務室に誰が居るか調べてこい。大至急だ」

「へいへい。ただし屋敷の中に戻るなよ?」

「ああ。しばらくこうしている」

引いた左の拳をまた立木に向かい放つ彼の様子を見つめ……やれやれと肩を竦めたミシュはその場から消えた。

「……なに?」

部屋に入ったフレアは待ち構えていた彼に掴まり、そのままベッドへと移動し押し倒された。

強かに背中を痛打した少女は顔を歪めるが、うっすら開いた瞼の先に……何とも言えない彼の顔を見て理解した。

「勝手をしているな?」

「はい」

「どうやって?」

と、少女が着ているドレスのスカートを捲し上げる。

彼女の太ももに巻かれているのは第二王子の身分を示す飾りだった。

「勝手に持ち出したのか?」

「はい」

「どうして?」

「……早く終わらせたかったから」

「嘘を吐くな」

瞬きするのを見てハーフレンがそう問いただす。

小さくため息のような息を吐いて……フレアはまた口を開いた。

「貴方をそんな目に合わせた者たちを見つけて皆殺しにしようと思っただけ」

ズキッと胸と頭に痛みを感じながらも……フレアは彼に向かいそう告げた。それが一番確実だからだ。

こんな違法な薬を作るような者たちは全員死罪だ。だったら自分がその手伝いをして何が悪い?

心の内を全て吐き出して……フレアはそれを見て凍り付いた。

泣いていた。彼が。強くて優しいお兄ちゃんが泣いていた。

「ハフに」

「……分かった。好きにしろ」

彼女の呼びかけは遮られ、圧し掛かっていた彼は離れるとそのまま部屋を後にする。

1人ベッドの上に残されたフレアは……見慣れた天井を呆然と見つめていた。

「何で? わたしはただ……」

呟く言葉が胸の痛みで途切れる。

ズキズキと痛みとにかく苦しい。

張り裂けてしまいそうで……と、涙が溢れていることに気づきフレアはそれを拭う。

ゆっくりと体を起こし、そして少女は改めて自覚した。

『自分はもう……彼に相応しくないのだ』と。

「こんな人殺しが彼の正室になるなんてやっぱり間違っているんだ」

呟きフレアはその顔を枕に押し付け、声の限り泣き続けた。

やれやれと言った様子で頭を掻きながら、彼は主の屋敷を出る。

屋敷に努める下働きの者から、預けていた馬を引き取りそれに跨るとゆっくりと家路につく。

「だいぶ絞られたご様子で」

「お前か……告げ口したのは?」

「失礼な。ご主人様に『執務室に誰が居るか見て来い』と言われただけです。だから『金髪の女の子が居たよ』とだけ言いました~」

「それを告げ口と言うんだ」

事実を知り怒った主は、ある意味で昔の頃の方がマシだった。

昔ならその激情を拳に乗せて放つぐらいだ。だが今日の彼は違った。

静かに燃え盛る炎がいつ噴き出して来るのか分からない恐怖。成長と言うよりも進化と言った方がしっくりくるほどの変わりようだった。

コンスーロの背中に自分の背中を預けて座るミシュは、頭の後ろで手を組んだ。

「もしかしてあれが王子様の婚約者? 名前は何だったかな~」

「主の伴侶になる人物の名も知らんのか?」

「他人の幸せって興味湧かないんだよね~。全員不幸になれば良いのに」

「勝手を言うな」

やれやれと肩を竦め、コンスーロは少し薄くなり白髪の混ざる髪を撫でる。

「で、王子様はただ癇癪を起しただけ?」

「違う。主からの指示だ」

「ほい?」

正面を向いて彼は背筋を伸ばした。

「全ての力を駆使して、主の謹慎が解けるまでにこの一件を解決せよ」

「はい。我が飼い主の命に従いましょう」

馬の背に立ち軽く一礼したミシュがその場から掻き消えた。

(c) 2019 甲斐八雲