軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたしが貴女を殺してあげる

「……」

もう見慣れてしまった天井に目を向け、彼女はそっと手を伸ばした。

何かを掴もうとしたが、空を切る指は何も掴まない。

溢れ落ちる涙もそのままに……彼女は男性が発した分泌物で汚れる体を抱きしめる。

この場所……埃と滲み塗れのベッドの上では衣服を着ることも許されていない。汚れても替えが無いからだ。

「……」

言葉にならない声を発してただただその存在は泣く。

『自分は何処で道を違えたのか?』と。

貧しいながらも上級貴族の娘に産まれ、魔法の才能もあって学院でも特別な扱いを受けた。

"天才"と呼ばれる存在の中に加わり、普通では得られない数多くの魔法知識を得た。

『魔法式を描くだけなら弟子の中では一番ね』と普段は厳しい魔女からの言葉が本当に嬉しかった。

家の借金返済の為に下級貴族に嫁ぐことになったが、婚約者となった相手は優しくて誠実だった。

会う度に心がときめいて……形式だけではなく、本当に彼と結婚したいと思っていた。

『君を伴侶にするなら私も少しは国の為に働いて武勲を得ないとね』

ぎこちなく笑いながら前線に行った彼を見送ったあの日……それが最後になった。

届けられるのは前線の悲惨な状況ばかり。そしてついにそれが届いた。

彼の戦死報告とは別に……同僚であった者が書いた事細かな報告書だ。

どうして彼の遺品が何一つも無いのか?

それはただの報復だった。ユニバンスの前線に居る化け物、"串刺し"によって殺された仲間の無念を晴らすためにと、敵国の兵たちは彼を全裸にして油を塗って生きたまま焼き殺した。

人の焼き焦げる臭いと死ぬまで叫び続けた絶叫……前線の惨たらしさよりも彼が、あんなにも優しかった彼がそんな終わりを迎えたことが辛すぎた。

彼の死を知って心が軋み……魔法の行使も上手く出来なくなった。

勿論婚約も破談となり、そして悲しむ彼女に追いうちが掛かる。

『婚約者に手を付けられた女』

純潔では無いと噂になった彼女との婚姻を引き受ける貴族は居ない。

本当に選ばなければ居るのだろうが……両親が得たかった物は、借金返済の目途だった。

生きることに絶望していた彼女にもたらされた結婚相手は、地方に暮らす下級貴族だった。

富を得る為ならどんなことでもする商人紛いの人物……自分の父親程の年齢の相手と結婚させられ、それからは自分の立場を知れとばかりに酷い扱いを受け続けた。

だがもういつ死んでも良かった彼女は、自分が我慢し耐えれば両親が助かると信じていた。

唯一の楽しみが、亡き弟子仲間の墓参りとそこで会う同年代の『あの子』との語らいだった。

自分とは違い全ての幸せを得ている相手を見ることで……自分がどれ程汚れたのかを確認することが出来るから。この世界の全て恨むことが出来るから。

ある日のこと……夫となった"デルグド"からある話を持ち掛けられた。『可能か?』と。

頼まれたことは薬の製造。

学院生をしている頃に興味本位で勉強したことがあった。

毎日のように来る人物の言葉に触発され、自分ながらに考えた『治療魔法』だ。

皆が『魔法』で治すことばかり考えていた。

だから無理なのだと思い、魔法を使った別の方法を模索した。

思い至った方法は……禁忌に触れる悪しき邪法だった。

危険だと思い自分の胸の内に封じた。

こんな物は世に広げたらいけないと。きっと先生も許さないと。

だが敬愛していた師である人物は、最悪にして最低の魔法を作ったのだ。

それを使ったことも夫から聞いている。

ならば自分が使って何が悪い? こんな世界など無くなれば良いのだから。

『たぶん出来ます』と夫に返事をしていた。

それから薬を作り出す器の作成を始め、金で動く戦場で心を壊した魔法使いたちを雇い入れて工房も作った。

器の都合で大量生産できない問題が残ったが、薬は無事に作られ国中にばら撒かれた。

馬鹿な男たちがそれを使い、数多くの女たちが怪我されて行くことを聞き……彼女は笑った。泣きながら笑った。

自分はこの世界に復讐をしているのだと実感しながら。

そして今は薬を作りながら、雇った魔法使いたちの慰み者を引き受け生きている。

もうどうでも良い。

薬が広がりこの国が、大陸が、世界が滅んでしまえば良いのだ。

「最低でしょ……フレア? やっぱり私にはもう何も残って無いんだよ」

泣きながら笑い……ソフィーアは何かを掴もうとまたその手を天井に向けて伸ばした。

「そう。ありがとうコンスーロ」

「失礼します」

一礼をして彼の副官のような存在である人物が部屋を出て行った。

フレアは椅子に座り直して深く深く息を吐く。

目星をつけて調べさせた拠点と思われる場所……4つ外れで1つが当たりだった。

その当たりからは薬を作るのに使われた"器"を回収できた。

器は女性で、腹を中心に入れ墨を施されていた。

その入れ墨は間違いなくリグの『治療魔法』で使われていた物と酷似し、そして薬は……女性の体内で作られていたのだ。

フレアは報告書から男性に乱暴されて死んだと思われる者たちの中に、"入れ墨"をしたと言う記述を見つけ、調べて確信を得ていた。

その確信が現実になっただけだ。

「ソフィーア……いくら先生でもそこまで酷いことはしなかった」

コンスーロたちが救い出した女性は、ただ生きているだけの存在。

腹の中に収められた薬の材料で発狂し……本当の意味で"器"になっていたのだ。

「良いわ。貴女がそれを望むなら……わたしが貴女を殺してあげる」

ズキリと胸に痛みを感じながら、フレアの方針が決まった。

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