作品タイトル不明
もう少し色気が欲しいな
フレアは頬杖を突きながら机の上に並ぶ書類の束を適当に捲り確認する。
もう3回は確認してあるから大丈夫な物ばかりだ。
そしてため息をついて背伸びをする。
自宅で書類仕事……内職のようなことばかりさせられていることに不満は無い。あっても口にしないのが令嬢としての務めだ。
ただ約束が違う気がして面白くは無い。決して彼が悪い訳では無いと理解している。だが面白くない。
先の事件で子供たちが発狂したことを重く見たウイルモット国王が、子供たちの就労の年齢を一時的に引き上げたのだ。
14歳から見習いとして働けるようにし、15歳から正式に務めることが出来る。
13歳のフレアとしては、今直ぐ彼の元で働きたいのにそれが出来ない。
『お前は信用出来るしな』と言われ、こうして彼の書類仕事の大半をしているのにもかかわらずだ。
頬を膨らまして拗ねるフレアは……諦めた様子で息を吐いた。
もう1年我慢すれば良いのだ。そうすれば彼の元で働けるのだから。
「つまらないな……」
呟いて天井を見上げる。
日々することは魔法の勉強ぐらいで、それでも自ら新しい魔法を作るなどの気概の無い彼女は……こうして暇を持て余してばかりなのだ。
コンコンッ
「お嬢様。ハーフレン様がお越しにございます」
「はい。今向かいますね」
そろそろ来てくれる頃だと思っていたフレアは、椅子から立ち上がると急いで着ているドレスを脱ぐ。
少しは大人らしい物をと……と思いクローゼットを開いた瞬間、部屋の扉も開いた。
「フレア。土産だ」
「……」
革袋を掲げる彼と下着姿で見つめ合い……フレアは腹の底から息を吐いた。
「ノックくらいして」
「下着姿を見られることに対する不満は?」
「……恥じらった方が良いの?」
相手にそう確認されてハーフレンとしては答えに困る。
だがフレアはそれを肯定した物と捉え、軽く腕で胸元を隠して恥じらう。
「恥ずかしいから見ないで」
「うん。あれだな……もう少し色気が欲しいな」
「……」
クローゼットから引き抜いたドレスを強化して、フレアはそれで相手の頭を殴り飛ばした。
「薬に詳しい人ですか?」
「ああ。誰か居ないか?」
「薬学は魔法学院でも専攻している人はほとんど居ませんでしたしね」
ベッドに腰かけてフレアは自分の記憶を遡る。
どうも前に患った病気のせいか、思い出に靄がかかる感じがして細かくは思い出せない。
「何人か居たはずですが、前線に出て戻って居ないかもしれないですね。薬学を学ぶ者は医療従事者が多いですから」
「そうか」
少し辛そうな顔をして彼がそう答える。
いつからか時折見せるようになった表情だ。いつからなのかは……上手く思い出せないが。
「わたしよりも王都で医者をしているキルイーツさんの方が詳しいかもしれませんよ」
「キルイーツ?」
「はい。祝福を使うお医者さんです」
「ああ。彼か」
『祝福』と言われてハーフレンも思い出した。
かなりおかしな言動を見せる医者だが腕は確かだ。それに母親を救って貰った恩人でもある。
「いつもあの人のことを『医者』と呼んでるから名前を忘れてたな」
「失礼ですよ。あの人はあれで優秀な人だったんですよ? 確か……先生がそんなことを言ってました」
「そうか」
まただ。またどこか辛そうな顔をして彼が笑う。
「ハーフレン」
「ん?」
「何かあったんですか?」
「何も無いがどうした?」
「……だったら良いです」
表情が元に戻っていた。そうなると質問し辛い。
フレアは軽く笑うと相手の視線に気づいた。
「で、さっきから何処を見てるの?」
「ズルく無いか?」
「……わたしは色気の無い体をしてますからね。下着姿で居ても気にならないでしょう?」
先ほどの発言に拗ねたフレアは下着姿のままだ。
確かに成長途中の彼女は色々と足らない部分は多い。それでも綺麗で可愛らしい女性なのだ。
何より堂々とされるほどに気になるのが男のサガである。
一度目を瞑り自問自答したハーフレンは、素直に両肘を曲げて手を上げた。
「負けだ。お前は綺麗で魅力的な女だよ。だから何か着てくれ」
「あら? わたしは魅力は顔だけなのですか?」
クスクスと笑う彼女は、どうも抱いて以降その魅力を増した気がする。
『フロイデはああ見えて凄いからな。お前も気を付けろ。フレアはあれの娘だからな』
彼女の父親が確かそう口走っていた気がする。
何度か肩を叩かれて念押ししていたのはこう言う意味だったのかもしれない。
「お前の全部が魅力的だから許してくれ」
「分かった。許してあげます」
立ち上がり彼女は、脱ぎ捨ててあるベッドの上のドレスを手にする。
今さら他のドレスを着るくらいならこれを着た方が早いという判断だ。
何よりドレスを一着破壊してしまったから……今度は姉のお古では無く新しい服をどうにかして購入したい。
そんなことを思いながら着替えようとするフレアの背後にハーフレンが立つ。
負けたままなのはやはり面白くない。だったら自分が男を見せて圧勝すれば良い。
「ん? ハーフっ」
彼女の言葉は続かずにベッドに押し倒され、顔が枕に埋まった。
「ちょっと! 何するのよ!」
「魅力的なお前が悪いな。うん」
「もう……知らない」
恥ずかしくなって枕に顔を押し付ける。
求められれば応じてしまうのは仕方がない。
フレアは誰よりも彼のことを『愛している』と自覚しているのだから。
だから求められると……断れない。
今まで口にしたことも無い言葉を相手に求められ、フレアは恥ずかしさの余りに全身を真っ赤にしながら求められるままに口にし続けるのだ。
翌朝、そのことを思い出し顔を真っ赤にしながら彼を枕で殴り飛ばしたのは言うまでもない。
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