軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1人で寝ないことですかね?

「そう。あの天才が魔女に任ぜられたのね」

報告を受けたグローディアは、着ているドレスを脱ぎながら報告書を放り捨てた。

今日は母親の命令でちょっとした集まりに参加させられた。

時間が惜しいのにそれを理解していない"あれ"は、自分に婚約相手を当てがおうと必死なのだ。

だがグローディアは女性特有の『腹痛』を理由に早々に帰宅した。後で母親がどんなに泣き叫ぼうが知ったことではない。

室内に戻り愛用している紺色のローブを身に纏って魔法書を開く。

再生の魔法は完成を目指す者は多い。成功すれば"蘇生"に通じる道筋が現れるからだ。

だがグローディアの望みは失われた物の再生だ。

失われた内臓と記憶の再生……消え失せた物を取り戻す本当の意味での再生だ。

「……道は遠いわね」

アイルローゼとの連絡方法を獲得してから自身の研究報告を逐次している。

1人でやっていた時よりも格段に進んでいるが、それでも目指す領域は遠すぎる。

「でも続けるしかない」

彼女の記憶の消失は止まった。だが失われた物は戻っていない。

何より彼女の寿命は普通の人より確実に失われている。

「どんな手を使ってでも……」

暗く濁り切った目で彼女は不可能に挑み続ける。

「何故だ?」

彼は頭を抱え机に額を押し付けた。

亡国の技術とは言えこの国に存在していない知識を手に入れられた。

国王の許可を得て大規模術式である『蘇生魔法』の一端も垣間見た。

アイルローゼと言う天才の手を借りて纏めた報告書はとても高い評価を得ている。

だがそれだけだ。

結局自分の実力では無い。ほんの少しの幸運が転がり込んで来ただけだ。

「どうして始祖の魔女は魔法にこんな制限をかけたのだ?」

そう愚痴らずにはいられない。

彼女が作った"魔法"は治療に適していない。治そうとする行為には痛みを伴う。大規模な治療行為に魔法を用いることは命がけとなるのだ。本末転倒も甚だしい。

だがそれが現実だ。

「どうして……」

ただ治したいだけだ。傷ついた者を救いたいだけだ。

と、悩み続ける彼の脳裏にその言葉が浮かんで来た。

少女を……亡国の魔法式をその体に宿した少女が、自身の生い立ちを告げた時に呟いた言葉。

『治療魔法は……人の希望を食らい絶望に変える魔法。ボクの父さんも希望を抱いて不可能に挑み、絶望に食われて死んだ。先生も死を望むの?』

少女らしく無い憂い気な表情を浮かべて"弟子"は儚げに笑った。

(希望を絶望に……?)

その時は悲しい生い立ちの続きかと思っていた。

落ち着いて考えると……彼はそれに気づいた。気づいてしまった。

「馬鹿なっ! そう言うことなのか……」

彼の心を絶望が覆い尽す。

気づいてしまった。どうして治療魔法が希望を食らう絶望なのか、を。

「なら治療魔法は……作れない。そう言うことか」

天井を見上げ彼は涙を溢す。

心を折られた。不可能と言う絶望に希望を砕かれたのだ。

「……最近静かね」

机に頬杖をついて彼女は飽きた様子で扉を見つめる。

最近本当に静かだ。3日と開けずに突撃して来た医者が訪れない。

不満げな師を見つめフレアは今朝方リグに手を引かれて歩いていた医者の姿を思い出した。

何処か燃え尽きてしまったような彼の手を引くリグは彼の娘のようにすら見える。

「病気でしょうか?」

「医者が病気とか不摂生過ぎるでしょう?」

「あの先生ですから」

「……納得」

認めて彼女は本に手を伸ばし適当なページを開いた。

「今日ソフィーアは?」

「はい。休むとの連絡はありません」

弟子たちの中で最年長のミローテが答える。

師に心酔している彼女は秘書的な感じで、アイルローゼに命じられて雑務をすることに喜びを感じているようにも見えるのだ。

「無断で休まれるのも困るのだけれども」

「……確認します」

一礼して彼女は研究室を飛び出した。

替わりにアイルローゼが作った道具の手入れをする者が居なくなる。チラリと向けられた師の視線に自分の机で魔法書を見ていたフレアは静かに立ち上がった。

布を手にして道具の手入れを始める。

研究室に残っているのは彼女が『表に出すべきで無い』と判断した物が多い。

強力過ぎる物や趣味が過ぎて見られると恥ずかしい物などだ。

「……先生、これは?」

「あら?」

弟子が手にした物を見つめアイルローゼは目を見開いた。

「そっちに混じっていたのね」

「……?」

「私が初めて作った玩具よ」

クスリと笑って赤いローブ姿の魔女が手を伸ばして来る。

フレアは素直に渡すと、師である彼女は革製の包みを開放する。

出て来たのは黒い布と細長いプレートが組み合わさった……使用用途の全く分からない物だ。

「何ですか、それ?」

「影よ」

「影?」

「ええ」

分解しながら彼女の口は止まらない。

「子供の頃……夜、暗闇が怖くなったこととか無かった?」

「ありました」

「私もよ。それでその恐怖を体現できないかと思って作ったのがこれよ」

「そうですか」

らしく無い師の話にフレアは何とも言えない表情を作る。

クスッと笑った魔女は、頬杖をついて彼女を見た。

「貴女はどう克服したの?」

「えっと……1人で寝ないことですかね?」

「……」

年下の弟子の言葉に師である彼女は、何とも言えない表情を作ったのは言うまでもない。

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